きっとそれも誰かの英雄譚

ナビィ!悪いが魔法の制御を丸投げするぞ!

出し惜しみなしのフルスロットルだっ!


『OK、Master!これで貸し2つです。

また今度、攻殻○動隊のタ○コマの様な可愛い系のAIを紹介して下さい。』


そのうちナビィのハーレムが出来そうだな。


『Wonderful!では張り切って行きましょう!

術式掌握I have control身体能力向上術式起動Improve physical ability activation完了complete!』


ナビィの制御により俺の身体能力向上魔法の精度が一気に引き上げられる。


流石神様!まるで細胞一つ一つに魔力が通っているかのような微に入り細を穿つ制御だ。



「このままリリーの所まで最短で向かう!」


『WARNING!進行方向より魔物が多数出現!接敵まで残り25秒!』


残念ドラゴンから逃げてる魔物かっ!

めんどくせぇ!



「このまま突っ込むぞ!全剣展開!!」


複数刀剣魔砲Multi Magic Barrel展開Deployment!!』


ナビィの精密な魔力制御によって編まれた魔力剣が中空で一糸乱れぬ隊列を組む。


流石だ。俺の魔力剣とは鋭利さが違う。



森の奥から見た事のある魔物や聞いた事のある魔物、そして何だかよく分からない魔物が有象無象とやってくる。


多種多様な魔物達だが、共通しているのは戦う意思もなく、ただただ降って湧いた災害から逃げ惑うように一様にパニックになっていた。



これが集団移動モンスターパレードの面倒な所だ。


魔物にだって感情はあるし本能もある。

自分が不利だと感じればさっさと逃げるし、そもそも危うい事は極力避けるのが普通だ。


しかし、集団移動モンスターパレードを起こしてる場合は違う。


言ってしまえば集団パニック。

目の前に壁があれば壊して進むし、崖があってもそのまま愚直に前進するしかしないのだ。



「ナビィ。この集団は森の外に出ると思うか?」


『Maybe。71%の可能性で中層に留まると予測されます。』


よし。なら村の人達もいるだろうから、集団の起点になってる魔物だけ弱らせつつ前進する。


敵の生死は無視。

むしろ半死半生の方が集団の足が遅くなるだろうから足を狙って攻撃開始だ。


『YES!Master!』



俺の周りに滞空していた数百の魔力剣群が目にも止まらぬ速さで魔物の群れに突撃する。


無作為に飛んでいるように見えるが、その全てが精密射撃。正確に魔物達の弱点属性の魔力剣が足を貫いた。


「アメイジング!」


『It's an honor!』



何度も魔力剣をばら撒き魔物の群れに出血を強いて数分、次第にその数は少なくなって来た。


『Attention!リリーとの合流予測地点まで残り47秒!付近に暴風龍ストームドラゴンがいる―――いえ。既に戦闘中です!』


戦闘中!?

リリーが暴風龍ストームドラゴンとか!


焦る気持ちのまま、ただがむしゃらに走る。

次第に暴風がさらに強く激しくなる。

木々の向こうから轟音が何度も響く。



こ、これは―――!?


その付近だけビルのような大きな深層の木が全て倒れ、大きな広場が出来ていた。


まるで天然の闘技場だ。


その中心に黒銀の鱗を持ち暴風を纏う4枚の翼を持つドラゴンと遠目からでも分かるくらいの疲労困憊、満身創痍なリリーがそこにいた。



「リリーぃい!!!」


そう叫びながら滞空させていた魔力剣を全て暴風龍ストームドラゴンに解き放つ。


属性なんてどうでもいい。

ただリリーへの注意を少しでも逸らすことしか考えていない狙いも何もない盲撃ち。


やたらめったらと数だけ飛ばした魔力剣が暴風龍ストームドラゴンに届く―――その刹那。



暴風龍ストームドラゴンが纏う暴風がその勢いを増し、魔力剣が全て弾かれる。


―――なっ!?


『Caution!!暴風龍ストームドラゴンが常時展開している暴風結界は全ての遠距離攻撃を防ぐ概念が込められた魔法です。その攻撃の威力や勢いを全て無視してあらゆる遠距離攻撃を弾き返します!』


はぁ!?チートかよ!

……ん?待て。弾き返すって言った?



結界に弾き飛ばされた数百本はあろう魔力剣が全てその切っ先の向きを変え、俺を目がかけて飛んで来た。



「若様っ!!!」


リリーが弾丸のようなスピードで俺にタックルをするようにぶつかって来る。


た、助かった!


風魔法ウインドマジック装填セット!!風力加速エアロブースト!!」


リリーの勢いを利用してさらに俺達を風魔法で加速させ安全圏に離脱する。



「GoGAAAAAAaaaaaAAaaaaaaaaN!!!」


追い討ちをかけるように暴風龍ストームドラゴンが辺りの大木を纏った風で操ってこちらに飛ばす。


くっそう!自分だけ遠距離攻撃ありとかズルくね!?


涙目になりながら風をさらに操って打ち込まれる大木を避ける。



「な、何しに来たんだよ!?アタシなんかほっときゃいいだろ!」


「助けに来たに決まってるだろっ!集団移動モンスターパレードは起こるし!暴風龍ストームドラゴンはいるし!こんなカオスな状況でお前を1人に出来るわけないだろ!」


リリーの腰に手を回し、必死に飛んで投木攻撃を避けながら叫ぶ。



『BAD、助けるとは言っても現状では何の貢献も出来ていませんけどね。リリー1人の方がまだマシです。ほら、見て下さい。』


ナビィの声につられ暴風龍ストームドラゴンを見ると、小さいながらも確かな出血が身体のいたる所に見えた。


「リリー、暴風龍ストームドラゴンのあの傷は……。」


「あのドラゴンは纏っている風の結界さえ超えちまえばそこまで肉質は硬くない。要はアタシとアイツの我慢比べさ。」


呆気に取られる俺を尻目にリリーはふんと鼻で笑って獣の瞳をギラつかせる。


……戦う?あの台風を引き連れた怪獣みたいなドラゴンと?生身で、我慢比べ……?




「ぷっ。ふははははははは!!流石リリーだ!」



―――あぁ、そうだ。そうなんだ。


俺はピンチに颯爽と現れて事態を解決する英雄じゃあないし、リリーは大人しく囚われているお姫様じゃない。


まぁ暴風龍ストームドラゴンが悪いかどうかは知らん。


でも、確かにここは俺のチンケな頭で妄想した世界なんかじゃなくちゃんとした1つの現実だ。


だから……。



「―――英雄でも何でもないただのガキがやる事はたった1つだ。」



俺は逃げ惑うのをやめ、リリーを背に暴風龍ストームドラゴンを睨みつける。


「あぁ、そうだ。リリーは俺の目を覚ましてくれた恩人で、大事な人だ。そしてそんな女の子を傷つけられた男の子がやる事はたった1つしかねぇよなぁ!!」


迫り来る大木に向かって拳を突き出す。



火焔魔法Fire Magic装填Set爆熱する右手Burning Finger!!』


俺の右手が炎に包まれ、魔力の充填とともにその熱量がどんどんと上がる。


次第に炎の色はオレンジから赤へ、赤から白へと熱量と共に変化する。


青白く熱された右拳を振るう。


轟っ!と迫り来る木や風、全てを焼き尽くす白炎が放たれ、暴風龍ストームドラゴンとの間に合った障害物を全て焼き飛ばした。



「リリーを傷付けた奴を!ぶっ飛ばす!!」


あの怪獣相手に接近戦何かしたくはないが、仕方ない。なんせ近付かなきゃあのトカゲ野郎の面を殴れないからな!!


ナビィ!最速で行くぞ!


『OK!Master!雷魔法Lghtning Magic装填Set磁力軌道magnetic force rail!』


俺を起点に暴風龍ストームドラゴンに向かって真っ直ぐ2本の紫電のラインが伸びる。


リニアモーターをイメージした移動魔法だ。

作ったはいいものの、2本のレールの上しか移動出来ないし、移動する場所がモロバレで使いにくい事この上ない。


しかし―――。



レールが紫電を撒き散らした瞬間、暴風龍ストームドラゴンの鼻面が目の前に広がる。


「反応出来るもんならやってみやがれっ!」


握りしめた白熱する右拳を叩き込む。

1発!2発!3発!!


1発叩き込むたびにトカゲの頭が青白い爆炎に包まれる。この蹴りはこいつはオマケだ!


我が物顔で空を飛ぶトカゲ野郎を明後日の方向に吹き飛ばす。


「GoGAAAAaaa!?」


はっ!殴り飛ばされたのは初めてですって面しやがって!悔しかったら実の父親に時速200キロで投げ飛ばされてみやがれ!


これで駄目押しだっ!



「コイツを食らって生きてる奴はまだいないぜ……!何せ初めて実践で使う技だ!」



そう言いながら腰に差した剣を引き抜く。

ママンから剣という物に慣れろと渡された数打ちの幅広剣ブロードソードだ。



光魔法Light magic装填Set輝き叫ぶ剣Shining Sword!』


ナビィの声と共に剣が光を放つ。



「喰らえっ!それは剣技のつもりか?とママンに鼻で笑われた俺の剣技!哀と悲しみの!!

シャアァイニング!ブレェエエエドっ!!」


掛け声と共に剣を上段に構える。

単純な面打ちの構え。


しかし、構えた剣が放つ光がどんどんと太く大きく伸びる。10m、50mを超え100m超の光の刃が隕石の如く振り下ろされる。



「めぇえええええええんっ!!!」


空から振り下ろされる光の柱に暴風龍ストームドラゴンは飲み込まれ、その極大の熱量の奔流は辺り一面の森を地面ごと焼き尽くした。



『WOW……。もう剣技とか一切関係ないレベルですね。すぐにこういう魔法を作るから母君に馬鹿にされるのでは?しかも何ですか?哀と悲しみって。頭痛が痛いんですか?』


うるさいな……。



斬撃?の余波で色々吹き飛んでしまった地面に降り立つとそこには呆気に取られた顔をしたリリーがいた。


よく見ると所々焼け焦げていたり、煤で汚れていたり、擦り傷が増えていたりと何だか酷い目にあっていた。



「あー、……無事?」


一応、余波の影響を受けない様に気を付けたつもりだったのだが、上手く制御が出来ていなかったかもしれないな……。



「こ、この、馬鹿ァっ!!!本気で死ぬかと思ったじゃん!!あーもうホントに馬鹿!最悪!

まだ暴風龍ストームドラゴンと戦ってた方が生きた心地したよ!」


思いっきりリリーに怒られた。

何なら殴られた。結構痛い……。



「悪かったよ。ホントごめん。その、色々と。」


「……え、あ、う、うん。」



ただ口に任せるまま謝罪を口にする。

本当は色々と言いたい事や伝えなきゃならない事があるのに上手く言葉に出来ない……。



「―――ちょっとはさ。自信……、ついた?

ドラゴン、ぶっ飛ばせたじゃん。」


もしかしたらリリーも同じ気持ちなのかもな。

元々饒舌な方ではないがいつもの元気さや思い切りの良さがない。



「いや。むしろ逆に思い知ったよ。俺は力はあるのかもしれないが、その力の制御もろくに出来ないただのガキだって……。」


ため息をついて焼け焦げた倒木に腰掛ける。

視線の先には、なぎ倒され黒焦げの木々と抉られた地面が続く。



「イキって拳と剣を振り回して、自分で大事な人を傷付けてんだからな……。実際ろくなもんじゃないよ。」



本当にその通りのロクデナシだ。

肝心な時は毎度魔法の制御はナビィ任せ。


その癖テンション上がって好き勝手やった結果がこれとか、凹むぜ……。


なんて言うか子どもの俺とオッサンの俺がまだ上手く馴染んでいないのかもしれないな。



ドサッとリリーが後ろから俺に抱きついて体重をかけてくる。


な、なんだよ……。



「―――アタシの事を大事な人って言ってくれたからまぁ良しとしてやるよ。若様。」


「……その若様ってもうやめろよ。アルフォンスとか、何ならアルで良いよ。」


あれだけ散々言われたのだ。今更そう呼ばれるのもなぁ……。それに元々リリーに若様って言われるのも違和感あったし。



「……アンタはそう思えないのかも知れないけどさ。カッコよかったぜ?アル。」


耳元でリリーの声が優しく響き、頬に柔らかい何かが触れる。



預けられていた体重が消え、振り向いた先にはいつもの笑顔のリリーがいた。


「さ、帰ろう!あのドラゴンを持って帰ったら村の皆、ひっくり返るぜ?」


まるで満開の向日葵のような明るい笑顔だ。

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