タイガーリリー
すぐに走り去ったダッジを見送り、とぼとぼと村を歩く。
あの後ダッジを追って村の爺様や婆様も走って行ったが大丈夫なんだろか……?
いや、まぁあの人達なら問題ないとは思うが。
やけにやる気出てたし。
問題は俺である。
いやさ、確かに俺はそれなりに強い。
この3年で鍛え抜いた力は中層くらいでも充分通用するだろう。
しかし、深層となると心許ない。
どう考えてもギリギリの戦いを強いられるし、言わんや、大物を狩るなんて土台無理な話だ。
デカ亀をまた狩るから許してくれないかなぁ。
いや、でもあの雰囲気は亀じゃ駄目だよなぁ。
「湿気た面してんなぁ。若様よぉ!」
突然見知った顔から声をかけられた。
元々は赤みの強い金髪だったのだろうが、陽に焼けてオレンジ色になった髪。
毛量の多い髪を雑にポニーテールにしているのだが、それが不思議と似合っている。
もう秋なのに日に焼けた小麦色の肌、ニッと歯を見せて笑う彼女はまるで太陽の化身みたいだ。
「なんだリリーか。お前は狩りに行かないのか?」
「何だとはなんだよ!行ってきた帰りだよ!
聞いて驚け若様!アタシはブラッドベアを狩って来たんだ!10m級の大物だぞ!」
リリーがふんすと胸を張る。
どことは言わないが割りと育ってんなぁ。
14、5歳くらいだったか?え、大きくない?
「……どこ見てんだよ。エロ若様め。」
胸を守りつつ睨まれる。
おっと、いかんいかん……。
「あ、あー、凄いじゃないか!ブラッドベアなんて大人でも苦戦する大物だ!」
ブラッドベアは中層でも上位に入る魔物だ。
特殊な能力こそないが逆に弱点らしい弱点もなく、デカくて強いと言うシンプルさが故に倒すには純粋な実力の高さが求められる。
しかも10m級か……。3階建てのビルくらい?
もう普通に怪獣だよね。
俺が昔倒したデカ亀も中層上位の魔物だが、どっちが強いのかね?
「若様も鎧鳥を狩って来たんだろ?しかも群れで!向こうで聞いてきたんだ!」
「あぁ、10匹くらいだったかな?まぁアイツらは弱点が分かりやすいからな。大した事ないさ。」
弱点をつけばアイツらは簡単に行動不能に出来る。確かに帰らずの森はレベルの高いステージではあるが弱点がハッキリしている以上、ゲームでも単なるカモだろう。
きっと主人公達主要メンバーの引き立て役にもならない雑魚だ。
「……ふーん。」
つまらなさそうな顔をするリリー。
おっと。失敗失敗。
彼女は謙遜した表現を嫌う。
強者は強者たれと言うシンプルさを尊ぶのだ。
まぁリリーに限らずこの村では皆がそんな感じではあるが、彼女は特にその傾向が強い。
……リリーなら手伝ってくれないかな?
ダッジ程ではないが、同世代では頭1つ突き抜けた実力者だ。
よく2人で森に入るし彼女となら深層でもやれそうな気がする……。
「あー、手が空いてるならちょっと手伝ってくれないか?中層よりも先、深層近くまで潜る必要があってさ。」
大人顔負けの実力を持つ彼女なら申し分ないだろう。
目を見開いて驚き、何かに気付いて訝しげな顔をするリリー。表情がコロコロ変わって面白いな。
「……神饌狩人の手伝いって事か?それはまぁ良いんだけどさ。あ、あー、今日はあのお嬢はいねぇの?」
珍しく言い淀むリリー。
お嬢?あぁ、ユーリか。
「本人は来たがってたけどな。ほら、ウチのお祭りってユーリには刺激が強いだろ?だから誘ってないんだ。」
蛮族丸出しの奇祭だしなぁ……。
むしろ俺が誘いたくなかったという方がデカい。ダミアン公爵の目もあるしな……。
「ふ、ふーん。あのお嬢なら大丈夫だとは思うけどね……。ま、まぁそれなら仕方ねぇな!うん!アタシが手伝ってやるよ!」
「そうか!助かるよ!元々手伝ってもらう予定だったダッジが村の狩りの手伝いに行っちゃって困ってたんだ。」
あの獲物の山を見てまだ足りないと言う気持ちが知れないぜ。
どう見ても20mは超えてるんですけど?
「あー、確かにな。本当はあの山は2ついるんだよな。ほら、過去と未来を表してるって昔村長が言ってたろ?」
そう言えばそんな事言ってたな……。
骨と毛皮で装飾された村の有様にドン引きしててちゃんと聞いてなかったわ。
それなら別に小さく山を作りゃあ良くないか?
1個10mの山でも充分だろうに……。
「えっと、左が過去で右が未来を表してて、過去の山は去年の未来の山を基準に高さを決めてんだよ。だから過去の山はあの高さじゃなきゃならねーんだ。」
あー、つまり昨対比で高さが決まるのね。
ブラック企業の論調じゃねーか!
毎年売上アップなんて出来るわけないだろ!?
くそっ。前世の記憶が……。
次元を超えてまでブラック企業の理論が人類を苦しめているのか……。
「はぁ、仕方がない。ま、“
タイガーってのはリリーの渾名だ。
彼女は幼い頃にこの村の近くで拾われて来た孤児だ。
リリーって言うのも本名かどうかは分からないし、苗字も分からない。
どうも虎の獣人の血が入っているらしく、戦闘時はまるで猫科の大型獣の様な動きで敵を倒して行く。
だから誰が言ったか、皆からはタイガーリリーだなんて言われている。
「若様よぉ。アタシだってこんな格好してても一応女なんだぜ?タイガーとか言われてもあんま嬉しくねぇよ……。」
少し拗ねたような口調で文句を言うリリーをマジマジと見る。
動きやすそうな革鎧で要所要所を守っている軽戦士スタイルだ。
特徴的なのは構えた時左側を前にするからか、左側面に装甲が集中しており、右側はほぼ無防備と言う非対称な鎧の付け方をしている。
蹴り足である右足なんか生足だ。
まぁ男勝りだとは思うけど、スタイルの良さは折り紙付きだし、活発な格好は勝気なリリーに良く似合っていると思う。
「そりゃまあ、
そう言えばピーターパンに出てくるインディアンの女の子も同じ名前だったな。
あれは何でフック船長の命を狙ってたんだっけか?確かよく分からない理由だったはず……。
「…………口説いてんのかよ。」
はて。何やらリリーが顔を赤くしてブスっとした顔をしだしたぞ?
何か言ってたか?しょうもない事を考えてて聴き逃してしまった。
『Оh!amazing!これが難聴系主人公と言うやつですね!まさか生で見れるとは驚きです。』
な、なんだよ。いきなり。
いつもより棒読み感マシマシでナビィの声が脳内に響く。
後、難聴って言うと本当に難聴の人に失礼だから揶揄するのは良くないんだぞ!
『OOPS!これは失礼。確かにゴミクズの様なマスターと比べられては失礼でしたね。』
突然の罵倒!?
なんだよ。そんなに悪いことした?
『Exactly!私は性別の希薄な神格ですが、一応基本の性格ベースははXX染色体基準で構築されています。つまり、乙女の敵は許せません。』
え、あー、え?乙女って事はつまり……。
いやいやいや、マジで?
リリーが俺に……。
いや、ないない。
『可能性の範疇ではありますが、決して無視出来る数字ではありません。別にマスターが誰とどうなっても構いませんが、無自覚に乙女心を弄ぶような事は駄目です。』
そこから帰らずの森に入るまでの間、ナビィの説教は続いた。
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