古鉄の村へ
アーネスト領の突き抜けるような秋空を飛行魔法で飛ぶ。
暦の上ではまだ秋なのだが、そろそろ寒くなる時期なのでマーサが用意してくれたコートはありがたい。
この辺は夏は涼しいのだが、冬は普通に雪が積もる。多分緯度が高いのだろう。
領地の山々は毎年雪化粧が施され、あの因縁深い帰らずの森も真っ白になるのだ。
今年も冬が来るなと思いながら、球状の電磁バリアを纏い飛行する。
この3年で俺の魔法も色々改良された。
「魔法で防御してても高い所を飛んでるとやっぱり寒いなぁ。」
『外気温はマイナス1℃です。』
ねぇ、ナビィさん。ホント具体的な数字で煽るのやめてもらえません?
つぅか絶対ワザとやってるよね?それ。
『WARNING!探査魔法に感あり。前方2.6キロ先に高速で接近する魔物の群れを発見!』
あ、くそ。誤魔化したなっ!
遠くの方から鳴き声が聞こえる。
もう来たのか。お互い飛んでると接敵もすぐだな。折角、探査魔法も範囲を拡げたのに……。
「あの声はスチュ、スチュパ……チュパカブラ?だっけ?」
『NO。あれは青銅の鎧鳥スチュパリデスの群れです。チュパカブラはマスターの世界にいた未確認生物です。』
あー、そうそう。その鎧鳥。
外殻は青銅の鎧だけど中身の肉は結構美味いんだ。
今日も村への手土産代わりに狩ってくか。
どうせ今日は祭りだから獲物は多い方が良いだろう。
完全に飛行型ロボットの様な見た目をした金属の鳥の群れが飛来する。
大きさは翼開長10mくらい。
昔博物館で見たプテラノドンの化石くらいか?
まぁ実際の所はロボットと言うより、鎧を着ていると言った方が近いな。
羽毛が青銅っぽい青色の謎金属なのだ。
何であの大きさと重さで飛べるのかは謎だけど……。
「
俺の手から放射線状に網状の雷が放出される。
某ポケットサイズのモンスターである黄色の電気ネズミが一時期使っていた技をイメージした新魔法。
捕獲は勿論、防御や空中起動の足場にも使っていた万能技だ。
そんな風に使えたら素敵だと思って開発したのだが、雷を網状にする事は出来たがアニメの様にトランポリンにしたり防御壁代わりには出来なかった。
何でアイツら電気の上に乗れるんだよ?!
あんなに頑張ったのに再現出来ない!
あぁ、確かにエネルギーと質量は関係するさ。
E=mc²だよっ!
ちくしょう!アインシュタイン
ファンタジーの奴らが相対性理論を馬鹿にしてくるんだ!
「喰らえっ!ファンタジー野郎っ!アインシュタイン
スチュパリデスの群れを電気の網で捕獲するとバチィンと電気が弾ける音がして、まとめて10匹程のスチュパリデスが気絶した。
奴等の羽毛は金属製なので当然電気を肉までしっかり通す。効果はばつぐんだ。
「みたかっ!これが科学の一撃だっ!」
『oh……。思いっきり魔法ですけどね。私は人間の機微には疎いですが、たまにマスターの情緒が本当に分かりません。』
まぁノリだな!
これも俺の精神が肉体に引っ張られている影響なのかもしれんな。いや、知らんけど。
活じめした鎧鳥達を魔法で浮かせ、オールドアイアン村へ飛び立つ。
村はウチの領地のやや東側。つまり、帰らずの森の浅い地域にある。
アーネスト領唯一の人里で人口数百人の小さな村だ。
何せウチの領地の3分の2以上は高レベルの魔物が跋扈する帰らずの森だからな。
人なんか寄り付くはずもない。
当然、あの村に住む人たちも普通じゃない。
元々は帰らずの森を開拓する一団が築いた橋頭堡だったらしい。
そこにウチを慕ってやって来た戦士達や傭兵達、果ては退役軍人なんかが住み着いて出来た村なのだ。
つまり、村の住民の殆どは戦闘技能者で構成された荒くれ者共の集まりだ。
「―――見えてきたな。」
周囲の森を切り開いてぽっかりと出来た広場に寄り集まった集落が見えた。
広場に降り立つと、目の前には黒金の城壁がそびえ立ち、その周りにはさらに大きな堀でぐるりと囲まれている。
そう。村の周囲は15mはある大きな石と鉄で出来た堅牢な壁と10mはある幅広い堀に囲まれているのだ。
どこから見ても完全に軍事要塞だ。
「―――相変わらず凄いな……。でもこの物々しい城壁も大なり小なりこの世界では普通なんだよなぁ?」
『Ah……。まぁ魔物のいる世界ですしね。』
この反応は当たらずとも遠からずって所か?
ナビィとの付き合いも8年になるので、何となくコイツの反応の意味も分かるようになった。
俺は生まれてこの方アーネスト領から出たことはないが、流石にこの要塞じみた堅牢な城壁が普通ではないのは分かる。
しかし、魔物がいる世界なのだ。
程度の差はあれど、こんな感じでどの村や街も防衛されているのだろう。
「あ、若っ!!!お待ちしておりましたぁ!!」
元気な声のする方へ視線を動かすと、城壁の上に備えつけられた見張り台から手を大きくふる燕尾服を来た茶髪の男が見えた。
……あれはダッジか!
俺が気付くと同時に、ダッジが見張り台から飛び降りた。
どすんっ!と大きな音と振動が響く。
「もうそろそろ来る頃かと思いましてお待ちしておりました!若!あぁ、それは祭り用の獲物ですか!?いつもながら素晴らしい腕です!俺が運びます!」
ダッジがキラキラとした良い笑顔でグイグイと駆け寄って来る。
うぅ……。マーサと言いダッジと言い、この夫婦のアグレッシブさは俺のSAN値を削ってくるんだよ。
10匹のスチュパリデスに気付くと器用に重ねてひょいと肩に担ぐ。
あ、そんな感じで持ち上げられるんだ。
どう考えてもそれトン単位の重さだと思うんだけど……?
それに、あの見張り台からここまでどう考えても20mくらいあるんだけど、君着地の時、魔法使ってなかったよね……?
って言うかずっとあんな所で待ってたの?
その
―――いや、待てよ。
確かにダッジは変人だ。
しかし、やっぱり運命を打ち砕くのにはこういった変人ぽさ、と言うかキャラの濃さが必要なのでは……?
「あ、あー、うん。待たせてすまない……?」
「いえ!若をお出迎えするのが俺の仕事なので!」
もしコイツに尻尾が生えていれば、空を飛べそうなくらい尻尾を降っているんだろう。
キラキラとした純粋な瞳でコッチを見て来る。
ダッジ・バニング。
歳の頃は確かまだ26とか27だったはずだ。
短めの明るい茶髪と爽やかな甘いマスクが特徴的なイケメン野郎である。
そしてマーサの年下の旦那さんでもある。
「ごめんね、ダッジ。折角のお祭りだし本当はマーサも連れてきたかったんだけど……。」
「いえいえ!お屋敷の仕事もありますしね!
お屋敷の留守を任せて頂けるのは我々使用人にとって名誉な仕事ですよ。」
俺としてはこの祭りにそこまでのコンテンツ力を認めていないのだが、それはそれとして、領民が楽しみにしているのは事実だ。
本当はマーサもと思っていたのだが、屋敷を空にする訳にもいかず、執事長も含めて最低限の使用人は屋敷で待機している。
ダッジは俺の謝罪を爽やかな笑顔で受け入れてくれる。
うん。やっぱり良い奴ではあるんだよなぁ。
「ささ!もう狩猟祭は始まっています!
今回は若が主役で参加されるからと皆気合いが入っていますよ!」
そう。ウチの祭りは正式名称はアーネスト領狩猟解禁祭。
帰らずの森での狩猟が解禁されるこの時期を祝って村中総出で獲物を狩る祭りなのだ……。
「何せ若は五歳の時にはドラゴン種を狩っていますからね!ご安心下さい!今回も大物を狩られるでしょうし村の職人達や人足を事前に手配しております!」
くそぅ。澄んだ瞳をして無茶を言いやがって……。
ダッジの期待は常に重いんだ……。
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