オッサン8歳になる
ユーリ達との出会いから早3年の月日が流れた。
あの事故が切っ掛けでロウエル公爵家とは縁が出来たのか、ちょこちょこ会う機会があった。
……いや、まぁぶっちゃけると、ユーリとの婚約が成立したのだ。
紆余曲折を経て、俺が渡した指輪についてはそのままユーリの物となったのだが、どうもその過程で俺とユーリの婚約が成立したらしい。
どう言う話の流れだったのかはよく分からないが、珍しくウチのパパンとママンが項垂れ、2度目はないぞと疲れた目をして言っていた。
のほほんと俺、何かやってしまいました?とか言ったら帰らずの森に叩き込まれもした。
何なんだと腹も立てたが、その後会ったダミアン公爵のあの張り付いた笑顔と全く笑っていない目が全てを物語っていた。
うん。ありゃ俺が悪かったわ……。
「―――しかし、いいのかねぇ。
俺みたいなのが婚約者で……。」
自分の部屋に備え付けられているデスクで頬杖をつきながら溜息をひとつ。
俺の部屋は案外物は多い。
基本的にはデスクとベッド、本棚しかないのだが、その本が多いのだ。
昔からパパンがこれは参考になるとか言って様々な魔導書をくれるし、最近はママンも為になるからと戦術書や戦略書を渡してくる。
正直、読むだけで一苦労だ……。
『OOPS! Master、何を今更言っているのです?
ユーリ嬢が婚約者になってもう2年以上です。
ほら、そんな事より手が止まっていますよ!』
昔からの相棒であるナビィがいつも通り脳内で騒ぐ。
パパンから渡されたレポート課題はさっきから全然進んでいない。
昔は絵本代わりに読み聞かさてくれていたが、もう最近は普通に自分で読んで感想文代わりにレポートを書かされている。
―――いや、なんて言うかさ。
昔は良かったんだよ。いくら可愛いと言っても子どもだったからな。
でも最近は段々あの子も大人びて来てるから、色々と思う所が出て来てさ……。
『あぁ、危うく手を出しそうになると……。』
ちゃうわいっ!
仮にだよ?このまま歳を重ねるといつかは結婚とかになる訳じゃん?
俺の精神年齢的にどうなのとか思うんだよ。
もう俺の中身的にはほぼ50歳だ。
結婚するのが20歳としたらその頃には俺は60代になってる。
そんな中身おじいちゃんの俺とまともな結婚生活が送れるのかって気になるんだよ。
『oh!マスターも存外まともな事を考えているのですね!相棒としては嬉しい限りです。』
お前は俺を何だと思ってんだよ……。
『just kidding!しかし、ご安心下さい。魂と肉体は相互に干渉します。平たく言えば、若い肉体年齢に引っ張られ精神年齢は少しずつ若返っていきます。20歳前後なら肉体と魂のバランスも取れていると思いますよ?』
んーと、俺の場合は赤ん坊の肉体にオッサンの魂が入ったから、青年くらいでバランスが取れるって事か……。
確か時間で劣化する肉体と違って魂なんかの
要は肉体という器に合わせて魂が少しづつ形を変えるって理屈だな。
『YES!マスターが転生されるまでの転生実験378件で同様の結果が見られました。
完全に有意な現象と言えるでしょう。』
あの邪神様……!めちゃくちゃ転生させまくってんじゃねぇかっ!
やはり邪神は邪神か……!
―――しかし、俺の成長が早いのもキャラ設定って言うのもあるだろうが、オッサンの魂が入っているから肉体が引っ張られているってのもあるんだろうな。
現在の身長160cmオーバー。
今俺は8歳だから、小学2年生としてみたらかなり大きい部類だろう。
筋肉も段々とついてきて少しずつ身体は出来上がりつつある。
当然、毎日馬鹿みたいにトレーニングしているので太りだす兆候すら見えないしな!
しかし、そこまでやってもまだ俺の運命を打開するには足りないらしい。
定期的にナビィに運命予測をして貰っているのだが、依然と90%を下回らない。
これがモブがモブたる所以なのか……?
主人公や主要キャラ達に近付ける様により1層の努力が求められる。
大丈夫。まだ時間はある。
コンコンとノックの音がする。
「アルフォンス様。そろそろお時間です。」
俺専属のメイドであるマーサが扉越しに声をかけてける。
「あぁ、ありがとう。入ってくれ。」
失礼しますと流麗な声と共に、マーサが部屋に入ってきた。
手には真っ黒な外着と俺の装備品、未だに慣れない剣やら簡単な治療品が入ったポーチを持っている。
「ん?新しいコートか?」
「はい。またアルフォンス様の身長が伸びたご様子でしたので新しく用意致しました。」
真っ黒な革製のコートだ。
前2列の飾りボタンや袖周りの凝った装飾は全て金色で統一されている。
いわゆるナポレオンコートだな。
どうもアーネスト家の気風なのか誰かの趣味なのかは知らないが、俺の為に用意される服は軍服っぽいデザインが多い気がする。
「結構重いな……。」
真新しいコートをマーサに着せてもらうとズッシリとした厚みを感じた。
「昔アルフォンス様が狩った
あぁ!あのデカ亀か!
そう言えばナビィとユーリとで吹っ飛ばしてからその後はどうなったか知らなかったが、回収してくれていたのか!
「って言うか鞣すのにそんなに時間がかかるの!?あれって3年くらい前の話だよね!?」
「ドラゴン種の皮を鞣すには通常1年程は掛かると言われていますね。特にアルフォンス様の倒された
はぁー。すげぇなドラゴン……。
流石はファンタジー世界だわ。
「何せアルフォンス様の初めて狩った魔物ですからね!本来なら歴代当主様の様に初めて狩った獲物は剥製にしてお屋敷に飾るのですが、流石にあの大きさは飾れませんから代わりに専用の装備を作らせて頂いております!」
ふんすっとマーサがドヤ顔をする。
あぁ、それでウチの屋敷にはデカ過ぎる4本腕の熊やら立派過ぎる角を持つ鹿とか魔物の剥製が飾られているのか……。
あれ?初めての獲物?
確かあの時、デカ亀以外にも狼とか猿とか何匹か狩ったはずだけどなぁ。
あの時はそれどころじゃなかったし、狩った獲物は捨て置いていたからなかったことになってるのかな?
「勿論、他の獲物もダッジがちゃんと回収しておりますよ!ただ、どれも大きい為剥製にするのは少々時間が掛かるのです……。」
あ、回収してくれていたのか!
俺の表情で察してくれたのか、マーサが補足で説明してくれる。
ちなみに、ダッジと言うのはマーサの旦那さんでウチの
二人の間に男の子が産まれてお祝いしたのは、何年前だったかな……。
そう、この8年で人妻メイドのマーサも子持ち人妻メイドにジョブチェンジしたのだ。
「村の方に行かれるならダッジがいますので、何かあれば使って下さい。」
あ、ダッジも村にいるんだ……。
そっかぁ……。
いや、良い奴なんだけどね。ダッジも……。
「パパやママは夜に村に着くんだっけ?」
確か今日は家に帰らず職場からそのまま村に向かうとか言ってたはずだ。
「ええ、そのはずです。ささ、アルフォンス様もお急ぎを!今日はなんと言っても年に一度のお祭りなのですから!」
……うん。まぁウチって娯楽の少ない田舎だからお祭りが一大イベントなのは分かるけどさ。
何と言うか荒っぽいから苦手なんだよね……。
ウチの祭りって……。
『I Agree! 荒っぽいと言うより野蛮が近い気もしますね。』
言うなよ……。
まぁ、気分は乗らないがしたがない。
さぁ行こうか!
アーネスト領唯一の村。
オールドアイアン村へ!
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