オッサン、ヒロインに求婚する
「――ひっく、ひっく。本当にごめんね。アルくん……。」
一旦は落ち着きを取り戻しつつ、改めてポツリと謝罪するユーリ。
……何がだろう?
自分だけパワーアップアイテムの指輪がある……ことな訳ない。うん。
あのデカ亀か?
別にあの魔物が襲って来たこと自体は別に彼女のせいじゃあない。
まぁゲームで言うモンスタートレイン的な事故ではあるが、そこまで気にする必要も……。
「私達がいるせいでアルくんはちゃんと戦えないよね……。」
……ん?待ってユーリちゃん。
謝罪するところはそこなん?
「アルくん1人ならきっとどんな魔物だって勝てるのに……!私がせめてお父様とお母様を守れるくらい強ければ……!!」
どんな買いかぶりだよっ!?
俺は5歳児だぞ!殺される自信しかないわっ!
「いや、流石に―――。」
「お父様が言ってたもん!アーネストはどんな戦場でも負け知らずで、金髪金瞳の兵士を見たらどれだけ強い敵も逃げ出すんだって!」
ポロポロと涙を流しながら訴えかけてくるユーリ。
あー……。こりゃあ見た目以上に余裕がないなこの子……。
まぁ5歳児なんだから仕方がないが。
確かに、ユーリからすれば俺は絶体絶命のピンチに颯爽と現れたヒーローで、大好きな存在であろうお父様がどう言ったかは知らないが、おそらくべた褒めしていたであろうアーネストだもんな……。
5歳の女児からすれば過大評価を通り超えて、神格化しかけてもおかしくはないだろう……。
『Maybe、ゲームでの責任感の強い性格を考慮すれば、何も貢献出来ていない無力感や今の状況を引き起こしてマスターを巻き込んだと言う呵責の念もあるかと。』
あー、その辺もありそうだな。
そういった諸々が混ざりあっていっぱいいっぱいになってる感じね……。
やれやれと頭を掻きむしり、ため息を1つ。
そしてゆっくりとユーリの目を見て微笑む。
―――内心は俺もパニック寸前で泣きそうなのを悟られない様、なるべく余裕を持って。
「落ち着けよ、ユーリ。……確かに俺達アーネストに負けはない。」
まぁ、そんな事実があるのかは知らんけど。
ウチの脳筋具合からして、負けたらそれまでよ!ガハハハッとか普通に言いそうだし。
でも……。
『お前は吾輩達の誇りだ。』
『帰ったら剣を教えてやる。』
あの時聞いたドラマチックでも劇的でもない、何でもないあの言葉を思い出す。
―――うん。そうだな。
俺はアルフォンス・アーネスト。
あの化け物みたいに強い、あの2人の子どもだ。
そんな俺が、負けるはずなんかない。
「俺達アーネストからすりゃ、こんなもんピンチの内にすら入りはしないさ。」
「……うん。」
その大きな瞳に涙をためながら頷くユーリ。
……まだ納得はしてなさそうだな。
そうだな。この子は賢い子だし、理屈で攻めてみるか。
「そもそも、ユーリは勘違いしてんだよ。」
少し大袈裟に肩を竦めてため息をつく。
不安を取り除くようになるべく明るく話す。
「俺たちの目的は何だ?あのデカ亀を倒すことか?それともこの森の魔物を倒すことか?」
「え?……えっと。ううん。違う……よね?」
よしよし。予想外の俺の話に少しユーリの目に力が戻ってきた。
「俺たちの目的は生きてこの森を出る事だ。
皆で五体満足にな。それで俺たちの勝ちだろ?
魔物なんざ単なる障害物に過ぎないんだよ!」
笑ってユーリのおでこを軽くつつく。
「って言うか、こんな状況で真っ先に敵の殲滅を考えるとか、案外ユーリは
まるでウチのママみたいだと言って笑うと、ユーリはつつかれたおでこを両手で塞いで驚いた顔をしていた。
……はて?何か変な事を言っただろうか?
『WARNING!
ちっ。もう来やがったか……。
俺が魔物退治で時間をかけ過ぎたな……。
ナビィ曰く、この遺跡には魔物避けの結界が張られており、取り敢えずここにいればデカ亀の感知は防げるはずだ。
そうなると当面の問題はどうやってパパンとママンに俺達の位置を知らせるかだ。
取り敢えず狼煙でも上げてみるか?
……いや、駄目か。
流石にそんなことをすれば自分の居場所をあのデカブツに知らせる様なものだ。
必要なのはアイツに俺達の居場所を知らせず、パパンとママンにここにいると知らせる方法だ。
あー、クソ。
こんな事なら通信魔法の1つでも用意しておくんだった……。
やっぱり訓練と実戦じゃあ全然違うな。
後悔ばかりが積み重なる。
パパンやママンは、力や技を高めることを否定はしないが、それを1番に推奨はしない。
どんな敵でも一撃で倒す必殺技と言うより、いかにして必殺の状況を作り出すかを模索させたがっているように感じる。
あのデカブツを1人で倒すのは困難だが、パパンとママンと連携したら普通に倒せるだろう。
この状況なら、俺が囮役になってあの2人に背後から攻撃を仕掛けて貰えばいい。
一撃で倒せなくとも、潜伏魔法を駆使してあのデカ亀の索敵範囲外から削り切ればいいのだ。
あー、ちくしょう……。
今更になって
ホント後悔ばっかりだ……。
かくれんぼ、連携、場所を知らせる……。
ん?必要なのは本当に俺達の居場所を知らせることか……?
待て。待て待て待て!
何か思い付きそうだ!
「―――ねぇ。アルくん。やっぱり私に出来る事ってないかな。私、少しでもアルくんの力になりたいんだ……!」
ユーリの声が俺の脳細胞を刺激する。
バッとユーリの方を見る。
ユーリ、光の指輪、専用スキル……。
―――これならいけるかも知れない。
だがこの方法はユーリを戦闘に巻き込む必要がある。しかも後方支援どころの騒ぎではなく、最前線でだ。
この子は良い子だ。
さっきまでのパニックだって、根幹はナビィの言う通り、この事態を引き起こした責任と無力感故にだろう。
俺は今からこの幼子の良心を利用する。
あー、何でもっと真剣に実戦を想定していなかったんだ……。
自分の無力さ加減に腹が立つ。
なけなしの良心や大人心に苛まれながら、重い口を開く。
「……なぁ、ユーリ。戦う為の力はあげられる。だから本当に俺と一緒に戦ってくれるか?」
俺の言葉を聞いた瞬間、ユーリが固まる。
そしてあろう事か、ユーリの大きな翡翠の瞳からはポロリと涙が零れた。
無理もない……。
口ではなんと言ってもそりゃあ怖いよな。
確かにこの子はこの
しかし、まだ5歳だ。
本来は大人に守られるべき子どもで、戦うのは今じゃあないはずだ。
やはりこの作戦はなしに……。
「あ、ありがとうぅ……。わた、私、頑張るね!
絶対に逃げない!どんな時だってアルくんの傍に、力になりたい……!」
……え?いいの?
あのデカ亀と戦うんだよ?
私も戦えると泣き笑いながら喜ぶユーリ。
やっぱり主人公は俺みたいな凡人とは違うんだろうな……。
『Good grief……。私も人の機微に疎い方ですが、マスターには負けます。』
何やらナビィが脳内で言っているが、取り敢えず無視する。
なんせあのデカブツが近付いて来ているのだ。
ユーリの合意を得た今、もう立ち止まる必要はない。
遺跡に安置されている指輪を手に取る。
俺が触った所で特に何かある訳でもない。
ゲーム的に言えばユーリ専用のパワーアップアイテムだからな。
「光の聖女と呼ばれる程の高い光属性を持つ者だけに共鳴する聖遺物。ユーリ。この指輪は間違いなくお前の物だ。」
俺は迷いなくユーリの左手を掴む。
「へぁ?え、あ、あの、アルくん?」
俺が何をしようとしているのか予想がついたのだろう。
顔を耳まで真っ赤にして固まるユーリ。
だが、その左手に力は入っておらず、俺に委ねらている。
後から思い出しても何でこんな事をしたかは分からない。
多分俺も知らず知らずのうちに、ドキめもの世界に入り込んでいたのかもしれない。
これを運命の強制力と言うのかは分からないが、可愛い女の子を前に格好をつけたかったという男心があった事は否定出来ない。
「―――これは誓いだ。これから先、お前には様々な困難が立ち塞がるかもしれない。だが、お前が望んでくれるのなら俺はお前の剣となり盾となる。」
まだ幼いユーリの左手の薬指にそっと指輪を嵌める。
すると指輪は眩く輝き、ユーリの指にあった大きさに変化した。
適合者の手に渡った事で指輪は輝きを増し、光は優しくユーリを包み込む。
「……だから、今は力を貸して欲しい。」
「―――うん。健やかなる時も病める時も、死が2人を分かつまで……。
ううん。その先もずっと、ずっとね!」
…………あれ?
これ何だかプロポーズじゃない?
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