出会いは突然に
さて、問題です。
空から飛行船が降ってきました。
どうなるでしょうか?
答えは大惨事だよ!
飛行船を受け止める?人命救助?
そんな余裕は一切ない。
俺は取り敢えず生物的本能に従って一目散に逃げだした。
不時着の轟音やら燃える飛行船の熱やらを背中で感じながら、一心不乱に足を動かす。
当然身体強化魔法は全開だ。
オリンピック選手なんか目じゃないくらいの速さで数百メートルを駆け抜ける。
「な、何なんだよあれっ!!」
この国じゃあよくある話なのか!?
『エルネスト王国所属の小型飛行船ですね。
飛行船技術はまだこの世界では珍しく、王国でも4台しか所有しておりません。』
くそっ!歴史に残る大事故じゃねぇかっ!!
一際大きな爆音が聞こえた瞬間、反射的に近くの大きな幹を盾に身を伏せる。
船体が爆発したのだろう。
俺のすぐ側を破片や炎が飛んで行った。
「……ど、どうなった?」
爆発音が収まってから恐る恐る幹から火をのぞかせると、吹き飛んだ船体から歩いてくる人影が見えた。
それは2人の人間を抱えた男だった。
恐らくは彼の奥さんと娘なのだろう。
身体のあちこちを怪我しながらも大切そうに2人を抱きかかえている。
命からがら身を呈して2人を守ったのだろう、男の背中には数本の鉄骨が刺さっていた。
「……あー、もう、ちくしょうっ!」
一瞬湧いて出てきた面倒を嫌う気持ちや不安を飲み込んで彼の元に駆けつける。
「大丈夫ですか!?」
自分で言ってから軽く後悔する。
何が大丈夫ですかだ。どう考えても大丈夫じゃないだろうに……。
そんな俺の後悔を知ってか知らずか、男は力なさげに微笑む。
「あぁ、娘は大丈夫だ。妻は……少し間に合わなかった。」
破片が突き刺さったのか、よく見ると彼の奥さんの脇腹からは血が滲んでいた。
身なりのいい家族だ。
一目で貴族とわかる白地を金糸や宝石で飾られた豪奢な礼服を着ている。
案外、王族とかその辺に位置する人達なのかもしれない。
あー、もう!王族とか偉い人達と関わりたくないのになぁ。くそっ!邪神めっ!
「こんな事なら、もう少し、ま、真面目に魔法の訓練をするべきだったよ……。」
男の年齢は30代半ばから後半、暗めの赤髪とモノクルが似合う紳士だ。
爆発を魔法で凌いだのだろう。
あの爆発の中、生き残っただけでもそれなり以上のやり手だ。
しかし、完全には防げなかった為、高価そうな服は所々焼け焦げ、赤黒い血で染まっている。
「他の人は!?」
乗りかかった船だ。
助けられそうなら助けようと状況を聞く。
「……小さな、船だったからね。私たち以外には操縦士が1人だけだが、彼はもう……。」
力なく首を振る紳士。
やばいな。呼吸が浅くなってきている……。
「も、もう、私も長くはないだろう。すまない。せ、せめて妻と、娘だけ、でも……。」
だ、駄目だ。力を抜くな!
俺はこのまま今際の際の言葉を聞くとこの男は死ぬんじゃないかと確信する。
「浮かせるから驚かないで!
男の言葉を遮るように浮遊魔法で3人を浮かせ事故現場から退避する。
どうすりゃいい!?回復魔法?
そんなもん使えねぇぞ!
『Calm down!Master!まずは付近の空気を洗浄、そして怪我の把握、身体に入り込んだ異物の除去、回復魔法は新陳代謝の増幅なので身体能力強化と同系統で対応出来ます。』
ナビィのいつも通りクールな発言が俺の心を落ち着かせる。
空気の洗浄?クリーンルームとか手術室みたいな感じかな?
怪我の把握となるとX線が良さそうだけど、あれってコンピュータで処理してるから再現出来るか……?
『 YES!魔法さえ発動して頂ければ、実際のコントロールや処理は私が行えます。』
実に頼もしい相棒である。
よ、よぉし!や、やってやらぁ!
「
まずはナビィに言われた通り、細菌感染が怖いので付近を洗浄する。
流石に清浄度は心許ないかもしれないが、やらないよりはマシだろう。
『 Amazing!クラス2相当の清浄度を確認しました。充分処置可能なレベルです。』
よし、続けて行くぞ!
何だかんだで単純な俺はナビィの言葉に気を良くして更に魔法を重ねていく。
「
『 OK!Master。体内の破片及び患部を把握しました。このまま治療を続行して下さい。』
は、はぇえな!おい!
えっと、治療ってどうしたら良いんだ?
無属性魔法で新陳代謝を強化するって言っても破片の除去はどうするんだ?
それに新陳代謝を強化しても細胞の分裂上限はあるから寿命が縮むんじゃないか……?
俺のなけなしの医療知識や科学知識がグルグルと頭の中で回る。
魔法の制御は確かにナビィが補助してくれる。
しかし、発動させるのはあくまでも俺だ。
魔法の方向性や具体的な結果がイメージ出来なければ魔法は発動しない。
治療……、つまり手術だよな?
無属性魔法……。え、でも破片の除去はどうなるんだ?土地属性?引き抜くだけだから無属性になるのか?
だ、駄目だ。分からん!
『 WARNING!男性患者のバイタル低下!至急回復魔法の発動を申請します!』
あーもう!助けて!ブラックジャックっ!!
「
ぶっつけ本番、無我夢中で魔法を発動する。
少しでも成功率が上がるように、思い出せるだけの医療知識と科学知識、そしてありったけの魔力を注ぎ込む。
後は頼む!
『 OK!Master!実に荒々しい術式です。元々マスターはあやふやな知識を大量の魔力を使うことで強引に成立させていますが、今回は特に顕著ですね。』
いや、そういう感想はいいから!
今その批評いる!?
『 Be cool!……不足を知りながらも結果を得ようと力を尽くすこの術式、私は好きですよ。』
唐突に相棒がデレた瞬間、辺りが純白の光に包まれた。
何これ!?邪神か!また邪神のせいか!?
――その時、目をつぶるまでのほんの一瞬、
ナビィの姿が変化したように見えた。
いつもの白い光の球ではなく、スラリとした手足のある美しい女性の姿だ。
抜けるように白く輝く髪を肩口に切りそろえ、三白眼気味な少し眠そうな瞳。
ミステリアスな美少女の相棒を幻視した。
『―― Hmm、込められた魔力が多過ぎて余剰魔力が光となって放出されてしまいましたね。
マスター?ほおけた顔をしてどうしました?』
目を開けるとそこにはいつもの丸いフォルムのナビィがいた。
……何だったんだ?今の。
って今はそんな事どうでもいい!
2人はどうなった!?
『 It's all OK! バイタルは全て正常値。
今はもう2人とも眠っているだけです。』
先程の幻視のせいか、いつもは平坦なナビィの口調が少し弾んで聞こえる。
何ならあのクールビューティーなナビィが薄ら微笑んでいる姿を幻想してしまった。
「――峠は超えたか。これで一安心だな。」
若干の気恥しさを誤魔化すように、そう口にして地面に座り込む。
やはり緊張していたのだろう。
帰らずの森なるクリア後推奨の高レベル地帯からの脱出と言うミッションは何も進展していないのに、心身ともに弛緩していくのを感じる。
ここに飛ばされたのは昼飯を食べてからすぐにだから13時くらいか?
もう日が傾き出しているので、かれこれ4時間くらいここにいるみたいだ。
……あー、生存訓練とかもういいかな。
これ常識的に考えて中止だろ。
あの大爆発をウチの両親が把握していないはずがないし、もう暫くしたら必ずウチの関係者がやって来るはずだ。
そしたら皆揃って保護してもらえばいい。
そんな事を考えていると、不意に輝く翡翠の瞳と目が合った。
ビクッと反射的に身体を起こす。
こ、この子は……!
「あ、あの。お、お父様とお母様はもう大丈夫なんですか……?」
それは美しい少女だった。
傾きかけた陽の光に反射する明るいピンクブロンドの髪をハーフツインに纏め、不安げに瞬く大きな翡翠の瞳は宝石のごとく煌めいている。
顔は煤け、白のドレスはドロドロに汚れているが、彼女の魅力は一欠片も損なっていないのが不思議だ。
賢い子だ。
恐らく、この子は少し前から起きていたのだろう。
治療中の俺を邪魔しないように不安を押し殺して黙っていたのかもしれない。
「あぁ、うん。素人魔法だから術後の経過観察は必須だけど、処置は間に合ったと思う。」
「よ、良かったぁ……。」
ヘナヘナと力が抜け、涙を浮かべて喜ぶ見知らぬ美少女。
そんな様子を見て頑張って良かったと思えた。
『 Attention!マスター。お気をつけを。』
な、なんだよ。いきなり。
べ、別に俺はロリコンじゃないぞ!
仮にロリコンだとしてもイエスロリータノータッチの精神で……。
『 彼女の名前はユーリエル・ロウエル。
この国の公爵家、ロウエル家の長女であり――。』
ドキドキめもりあるの主人公です。
……は?
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