泣きっ面に蜂(飛行船)
イテテ……。あー、死ぬかと思った……。
恐る恐る自分の身体を触ったり動かしたりしながら怪我の様子を確認する。
奇跡的に多少の擦り傷や打ち身があるくらいで、大きな怪我はなさそうだ。
さらにありがたい事に、魔力放出と着地の衝撃で俺を拘束していた忌々しい鎖が綺麗に弾け飛んでくれた。
ナビィの言う通り、魔力を全開で放出する事で何とか鎖の効果を打ち消せた様だ。
『Amazing……!まさかほぼ無傷で生き残るとは大変素晴らしい結果です!』
……え?何言ってんだ?
だってお前、あの時鎖から脱出する方法教えてくれたじゃん!何で俺が助かると驚いてんの?
『YES、Master。確かに私は拘束魔法を打ち消す方法をお伝えしましたが、あの速度での落下から助かる方法はお伝えしておりませんでした。まさか魔力放出だけで強引に落下の衝撃まで完全に防ぐとは……。』
……つまり何?
俺がこうして無傷で生き残ってるのは偶然?
『Exactly!恐らく数秒魔力の発動が前後していたら歩行困難になるほどの大怪我をしていた可能性が78%、危篤状態になっていた可能性が15%です。』
何やらせてくれてんだ!?
9割大怪我じゃねぇかっ!!
……ちなみに残り1割は何だ?
『死ぬ可能性と無傷が半々です。』
…………幸運を喜ぼう。
案外、本当に神の加護とかあるかもしれん。
『きっとそれ邪神ですけどね。』
……はぁっ。まぁ良い。
取り敢えず現状把握だ。
『YES、Master!現在地点は先程の小休止地点から17kmほど離れた地点になります。』
17kmっ!?
5歳児とは言え、人ひとりを時速200km以上で投擲したのか!?
なんっつー腕力してんだ……。
頭おかしいだろう。
『NO、Master。父君であるアレックス・アーネスト子爵が実力者なのは認めますが、この世界の最上位ではありません。
概ね、上位ランクの中では中堅に位置します。』
なるほど。頭がおかしいのはパパンじゃなくてこの世界の方か……。
『I Agree!ちなみに父君は全力ではなく、かなりマスターに気を使って投擲していたと推測されます。』
なるほど?大怪我はしても多分死にはしないと言うある意味絶妙な力加減だ。
……頭が痛くなるね。
途方に暮れながら周りを見渡す。
うん。なんて言うか、森だ。
辺り一面を鬱蒼とした木々が立ち並び、足元は俺の膝くらいまでの高さで蔦やら草やらが生えまくっている。
世界は変われど森はどこでも森らしい。
ただし生えている木は屋久島の縄文杉レベルの馬鹿でかい幹であるとする。
っつーか、木が生えすぎてて昼間なのに何か薄暗いんですけど?
『現在地点からアーネスト家の屋敷までは20km程になります。』
ふむ。大人が歩く速度が時速4キロくらいだから大体5時間くらいか……。
歩きにくい森って事と5歳児のプリティバディって事を差っ引いても、俺の身体強化魔法のレベルなら割りと楽に踏破できそうだが……。
『NO、Master。確かにマスターなら1時間も歩けば踏破可能な範囲だと思われます。
しかし、道中でこの森に巣食う魔物に襲撃される可能性が96%あります。』
帰らずの森だったか?
何でウチの領地にそんな殺意の高そうな観光地があるんだよ……。
『The other way around、アーネスト領に危険地帯があるのではなく、危険地帯があるからアーネスト領があるのです。』
あー、つまり守り人としてウチがこの領地を管理してるって事か。
パパンとママンを見てると簡単に納得出来る理由だな……。
ゲーム的に言うなら、クリア後のやり込み要素のイベント地点なんだっけ?
『Exactly!魔物の平均レベルが78オーバーの高レベル帯になります。幸いこの辺りは中層でも比較的浅いエリアになりますので、平均レベルは65程ですが。』
よし。安全第一で行こう。
戦うのは論外。作戦は常に逃げの一手だ。
『I Agree! 屋敷までの推奨ルートを探査魔法に反映します。』
ヴォンっと俺の視界の隅に常に表示されている小さな地図に矢印が現れる。
これが俺の探査魔法だ。
俺の周囲数百メートルの簡易地図を視界の隅に表示し、敵や味方を色付きのマーカーで表示する魔法だ。
いわゆるゲームのミニマップ。
モ○ハンとかのアクションゲームで必ず画面に出てくるアレだ。
ナビィは自身で魔法は使えないらしいのだが、俺の魔法の補助は出来るらしく、主にこの探査魔法の管理を行ってくれている。
何やら色々小難しい理論を交えて説明してくれたが、よく分かっていない。
だが、そんな事はどうでも良くなるくらい、
たまに融通は効かないけど……。
「――しかし、まるで映画で見た戦争みたいだ。周りに人がいない事が唯一の救いだな。」
俺の着弾の衝撃で木々はなぎ倒され、地面はめくれてそれなりに大きなクレーターが出来ている。
よく死ななかったものである。
偉いぞ俺。
グルルルルっ!ギャアギャアギャア!カロロロロロ!
ワォーーーン!
遠くの方で様々な獣の鳴き声が聞こえる。
反射的に周りを見渡すが、俺の周りに魔物の気配はない。
先程の着弾の衝撃でこの辺にいた魔物達は逃げたのだろう。不自然なほど静まり返っていた。
ぶるりと身体が震えた。
あ、駄目だ。心が折れそう……。
「――よし!何だかんだ言ってもやる事はいつも通りのかくれんぼだ。」
弱りかけた心に喝を入れるように頬を叩き、声を張る。
『WARNING!WARNING!!』
くそっ!今度は何だよ!?
いくら俺だって本気で泣くぞっ!
辺りを警戒するが、何にもない。
これでナビィの冗談とかだったら本気で泣いてやるからなっ!
『NO!Master!上ですっ!!』
は?上?
空を見上げると燃え盛る飛行船がこちら目掛けて落ちて来ている。
「ど、どうなってんだよぉおおおおっ!!」
俺は涙を浮かべて全力で逃げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます