オッサン(5歳)の日常
俺が産まれて5年の月日が流れた。
もうね、地獄の様な5年間でしたよ……。
パパンの徹底した魔法訓練と、地獄の鬼すら泣いて逃げ出すママンとのお外遊び実践訓練、そして死にものぐるいの自主練習の毎日だった。
いや、まぁ、あの2人の名誉のために言うなら、そんなつもりがないのは分かっている。
むしろある意味良い親だと思う。
あの2人は軍の要人だ。
演習やら会議やら会合やら何だかんだで帰ってくるのは遅いし、何なら週の半分以上は家に帰ってこない。
そんなブラックを通り越してダークネスな職場環境でも、いつも笑顔で俺を構ってくれるのはとても良い両親と言えよう。
パパンは寝る前によく本を読んでくれる。
ただし、読み聞かされる本は鈍器レベルで分厚い魔法学関連の専門書だ。
俺も前世は理系の端くれだったので、専門書は読みなれているし、分かりにくい箇所はナビィがサポートしてくれたので何とか話についていけた。
それに気を良くしたのか、最近は普通に黒板とかを使って様々な魔法理論を説明される……。
……パパン?もうこれって普通に授業だよね?
何なら前世で言うところの大学とか大学院レベルな気がするんだけど?
ママンはいつも俺と遊んでくれる。
最近はもっぱら鬼ごっこだ。
広い庭でいつも遅くまで遊んでくれる。
ただし、俺は常時発動させている無属性魔法、身体能力向上は全開で、それと同時に探索魔法と潜伏魔法、後はママンを妨害する為の攻撃魔法何かを常に発動させ続けている。
当然向こうも武器と魔法ありあり。
なんなら最近はパパンと2人掛りだ。
もうこれ普通に戦闘訓練じゃね?
先程言ったように、基本的に忙しい2人は毎日家にいる訳ではない。
場合によっては長期演習とかで2人揃って数ヶ月いなくなるなんてこともある。
そんな時は1人で自主練習だ。
基本的には複数の魔法を常に発動、維持をする練習。そして身体操作訓練の2つを徹底して行っている。
前者は当然、索敵と潜伏だ。
両親曰くこれを息をするように展開、数日維持出来てスタートラインらしい。
なんのスタートかって?……地獄のだよ。
身体操作については、部屋の中で走ったり飛んだりしているだけだ。
ただ、その際に肉体強化魔法が自分のイメージ通りに身体が動いているかを確認しながらやっている。
と言うのも、俺くらいの歳の子どもはグングン背が伸びるので、日々の確認を怠ると肉体強化魔法の感覚がズレるのだ。
少しのズレが命に直結するのでこっちは必死だ。
ウチの両親曰くは単なる子どもとのじゃれ合い、俺的には地獄の訓練は1歩間違えると普通に死ねるレベルだ。
自主練習と言えど本気で行っている。
最近はナビィを交えて様々な魔法開発に勤しんでいる。初見殺しの手管はあればあるほど生存率が上がると気付いたからだ。
兎も角、そんな児童虐待レベルの遊びを強要してくる両親だが、家にいる時は家族の時間を作ろうとしてくれており、何だかんだで2人の愛情は感じている。
ただ愛情はあれど、熊とライオンにウサギの子供を育てさせようとするのが間違いと言うか、多分ゲーム本編のアルフォンス君が引っ込み思案のぽっちゃり君なのはこの両親の反動何じゃないかなぁと思う。
「吾輩を前に油断とは!余裕だなアルフォンス!?」
ハッと意識を戻すと、パパンの巨大な手が目の前に迫っていた。
「うわっ!危ない!………なんてね!」
俺の目の前に光の壁が現れ、パパンの拳を受け止める。
ドゴンっ!とまるでダンプカーが突っ込んだような轟音が鳴り響く。
我が家の鬼ごっこルールだと障壁で防げば鬼のタッチは無効になる。
あの拳でタッチされると普通に死ぬのでこっちは必死だ。
腕まくりをした私服の白いシャツから覗く、俺の胴体よりも太い腕はまるで鋼のような威圧感を感じる。
「
ギャリギャリギャリと俺の手から魔力で編まれた鎖が飛びててパパンの全身を締め上げる。
このある漫画に出てくる奪われた仲間の瞳を探すハンターの能力を模した新魔法なら―――!
バギャン!!
パパンがグッと力を込めると鎖が全て弾け飛んだ。
うそぉ!?俺の全力だぞ!!
「吾輩を誰だと思っておる!王国軍随一の反魔法の使い手!『粉砕万魔』とは吾輩の事だ!!ちょっとやそっとの新魔法程度でこの身を拘束出来ると思うなっ!」
反魔法。
要は敵の放つ魔法に相反する属性を同等量放出して相殺する技術全般を指す。
当然、反魔法の使い手は全属性に対する親和性と魔法に対する深い造詣が必要になって来るし、相手の魔法に込められた魔力を読み解き、同等量を着弾までに放出しなければならない玄人向けすぎる変態技法だ。
だったら手数で勝負!
その前にナビィっ!索敵っ!
『YES、Master!周囲1キロ四方に母君の動きはありません!』
いよっし!このまま攻性魔法をばらまいて逃げるぞっ!!
「
俺の掛け声と同時に、パパンと俺の間に魔力で編まれた無数の剣が現れる。
炎剣、風剣、土剣、水剣、光剣、闇剣、その数優に百以上。
ふはははははははは!
喰らえ!何故か弓兵なのに無限に剣を作り続ける英雄の必殺技をモチーフにした俺の新魔法!
まぁ単によくあるファイヤーボールとかの球の形を剣に変えただけのお手軽魔法だが…。
「これは壮観!しかぁし!!」
ドパパパパパン!っと軽快な音を立ててパパンの左手が鞭のように振るわれ、滞空していた魔力剣が次々と撃ち落とされる。
フリッカージャブ!?
ってか嘘だろ!?あの数を全部相殺するってどんな魔力操作技術だよ!!
俺の魔力剣1本1本に合わせて、瞬時に拳に乗せる魔力量と属性を調整してるのか!?
ビッ!と俺の目の前でパパンの右拳が止まる。
「剣に込められた魔力属性が素直過ぎるな。同じ炎剣でも、炎と風の複合属性くらいにはしとかんと単なるハエたたきであるぞ?息子よ。」
くそ!
『WARNING!WARNING!9時の方向より高密度魔力刃接近!早急に退避して下さい!』
嘘だろ!?ママンかっ!
1キロ以上先からの斬撃!?
俺の方目掛けて魔力の刃がとんでもない速度で飛来するのが見える。
早く障壁を――!
『NON!あのレベルの魔力刃を防げる障壁はマスターにはまだ張れません!退避を再申告!』
ナビィの判断は絶対だ。
3年前から索敵は彼女に一任している。
迫り来る魔力刃に対してパパンが壁になるように身体を入れ替え、そのまま退避する。
「ぬぅ!小癪なっ!」
何かパパンが言っているがそんな事いちいち気にしていられない。
脇目も振らず全力ダッシュだ。
パキィンっ!と甲高い音が響く。
振り返るとパパンが魔力刃を殴り壊したのが見えた。
あのレベルを片腕で粉砕かっ!?
化け物めっ!
「大地よ!我が意に従えっ!」
パパンが力ある言葉と同時に、その豪脚で地面を踏み付ける。
それと同時にゴゴゴッと地面が震え、俺の足元だけが大きく隆起する。
その瞬間、俺は空を飛んだ。
俺の体重が軽過ぎたせいか、地面の隆起の勢いが凄すぎたせいか、数百メートル彼方まで射出されたのだ。
やべぇ!このままじゃ死ぬ!!
「
魔法を発動させるコツはイメージだ。
それがどんな効果を発揮するのかを明確に術者がイメージする必要がある。
あらゆる呪文や魔法陣、杖や魔法書はそのイメージを明確化し増幅する補助装置に過ぎない。
俺の魔法イメージの柱は、前世の科学知識と漫画やゲーム知識だ。
それ故に科学技術の効果や漫画やゲームのフレーズを呪文代わりに使っている。
俺の周囲が電気の膜で覆われ、フワリと中空でホバリングする。
『uuum……。個人的には呪文はイオノクラフト効果よりイオンクラフトとする方がいいかと思うのですが?』
「うっせぇ。俺はガ○バーが好きなんだよ。
超獣○兵五人衆舐めんなっ!」
『Hmm?あぁ、80年代くらいから連載されていた日本のコミックスですね?
「え?待って。
あの漫画は長期休載中で俺がどれだけ――。
飛んでいるが故に油断していたのだろう。
この時、俺は周りを一切見ていなかった。
そのツケは早々に払わされる事になる。
「浮遊魔法とは脱帽モノだが、数秒間も動きを止めるなど油断もいい所だな?アルフォンス。」
頭上からママンの冷たい言葉が降り注ぐ。
ゴガッン!
轟音と共に衝撃が俺を襲う。
何でママンが上から!?
地上から何百m離れてると思ってんだ!
あ、やべ。意識が……。
薄れゆく意識の中、視界の端で砲丸を投げ終えた様なパパンが映る。
ママンを空中まで投げ飛ばしたのか……?
くそっ。化け物夫婦め。
そう悪態をついて俺は意識を手放した。
これが俺ことアルフォンス・アーネスト(5歳)の日常である。
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