初めてのお外遊び

アーネスト子爵家の屋敷は広い。


質実剛健な当主の性格なのか、広大な庭には華美な装飾は少く、サッカーコート数枚分の芝が生えた広い庭、その遥か向こうには大きな森が広がっており薄らと山の稜線が見えた。


何でもこの辺り一面、森も山も含めて全てアーネスト子爵家の所有物らしい。


おおぅ、ブルジョワジー。


そう言えば、向こうの森で主人公のイベントアイテムがあるとナビィが言っていたな。



『YES、Master。クリア後のやり込み要素ですね。主人公専用のパワーアップアイテムが手に入ります。……しかし、現実逃避をしている場合ではないのでは?』



……うん。まぁそうなんだけどさ。




俺の目の前には長い金髪をたなびかせた怖いくらいに美しい女傑。


ママンが仁王立ちしている。

腕を組んでいるので大きな胸部装甲が強調されているが、全く嬉しくないのが不思議だ。



「あー、ま、ママ……いえ、母上?い、今から何を……?」



実は話せるという事が判明した瞬間、俺はママンに首根っこを捕まれ庭に連れてこられた。


いや、実は話せると言うか、むしろ俺も自分が話せるなんて知らなかった。ママンの恐怖に負けてやってみたら出来たのだ。


ちなみに話している言葉は日本語だ。

この世界の文字も当然日本語で書かれている。


流石はJRPG!親切設計だぜ!



ともあれ、一応マーサが必死に止めてくれたのだが、ちょっと外で遊ぶだけだとママンに押し切られてしまった。


遊ぶとか絶対嘘だよ!



完全に刑を執行される直前の死刑囚の様な気持ちで、広い庭の真ん中で仁王立ちして俺を見下ろすママンに声を掛けた。


ギロリと鋭い眼光が俺に突き刺さる。

や、やべぇ。殺される……!?



「良い!良いな!中々可愛いじゃないか!アルフォンス!その舌っ足らずな感じがたまらん!

くっくっくっ。まさか本当に話せるとはな!流石は私とアレックスの息子だ!」


って、褒められるんかい!



「呼び方はママが良いな。うん。そっちの方が可愛い。」


「え、いや、でも……。」


「アルフォンス?私に二言を言わせる気か?」


反射的に口答えをした瞬間ギラリとママンの目が光る。


や、やべぇ!!



「ママ!今から何をするの?」


「なぁに、さっきマーサにも言っただろ?ちょっと遊ぶだけだ。そうだな。かくれんぼなんでどうだ?」



危ねぇ!今確実に殺気が出てたぞ!?


俺の一言に満足したのか、ウムと頷きママンが口を開く。

って、え?かくれんぼ……?

まさか本当に遊ぶの?



俺が余程不思議な顔をしていたのだろう。

ママンはしゃがんで俺と目線を合わせ、ゆっくりと語りかけてくる。



「かくれんぼだ。分かるか?私が今から10分、つまり600秒数える。その間お前はこの庭のどこに隠れても良い。30分以内に私が見つければ私の勝ち。隠れ切れればお前の勝ちだ。」



え、あー、うん。何っていうか赤子とするかくれんぼにしては制限時間長過ぎない?まぁ別に良いけど……。


ちなみにドキめもの世界では単位は日本と同じらしい。

分かりやすくて良いね!



予想外の提案に惚けていると、ママンがニヤリと笑う。



「なぁアルフォンス。お前は強い戦士の1番大切な条件は何か分かるか?」



何をいきなり……?強い戦士?


「え、えっと……、ち、力が強いとか?」


何となくパパンをイメージして答えると、ハンっ!と鼻で笑われてしまった。



「浅い。浅いなアルフォンス。確かに力、それに技能等も非常に重大な要素だ。だが決して1番ではない。」



赤子に浅いとか仕方なくない?

いや、中身の俺はアラフォーだけどさ。


あー、何だか嫌な予感がしてきたぞぅ?



「強い戦士の第1条件。それはかくれんぼが上手いことだ。」



は?何言ってんの?やはり脳にも筋肉が……?



「アルフォンス。目は口ほどに物を言うと知っているか?」


「ね、ねぇママ!それってどういうことなの?」


「2度目はないぞ?」


こ、こぇええ……。




「ふん。まぁ良い。いいか?実際の戦場では決闘の様に向かい合って戦闘が始まることはほぼない。お互いがどこにいるか分からない状態で始まることが殆どだ。」



いわゆる合戦の形骸化ってやつか?

それこそ騎士や侍の時代では皆が横一列になって突撃し合っていたが、銃や大砲、通信機器が発達した事でより戦争が複雑化したとか何とか……。



『Exactly!この世界には銃や大砲こそありませんが、魔法があります。

ドキめもはゲーム的にはオープンワールドのアクションRPG。

作中では戦闘に使う攻撃魔法は勿論、敵を見つける探索魔法に離れた相手と通信する通話魔法、敵から身を隠すための潜伏魔法、果ては転移魔法もあります!』


なるほど?


魔力と言う何でもありな不思議パワーがある故に、地球よりも戦場がより遊撃的になっているのかもしれないな。



『YES、Master!特にエルネスト王国は定期的に魔物の討伐や盗賊退治などの治安維持活動に力を割いているため、よりゲリラ的な能力が求められています。』


あー、その辺はファンタジーならではの事情なのね。


魔物とか盗賊退治なんて普通に考えりゃあ国の仕事だもんなー。



「つまり、常に探査魔法で敵を探索できる探査サーチ能力。また、高度な隠蔽魔法を使いこなし、敵から隠れ得る潜伏ハイド能力。これらを駆使し、敵を一方的に攻撃し倒し得る力こそが強い戦士に必要な第1条件だ。力や技云々はその後だな。極端な話、油断した敵を殺すだけならナイフ1本あれば事足りる。」



ほぉーん?

なんて言うか特殊部隊みたいだな。

もうここまで来たら近代と言うより現代的な考え方だ。


いや、それか猟師的な考え方か……?

野生の獣を狩る猟師みたいだ。


有名な兵士であるシモ・ヘイヘなんかも元猟師だったし、世界が変わってもその辺は変わらないのかもしれないな。



………ん?ちょっと待て。

今から何をするって話だったっけ?



「さぁ殺し合いかくれんぼを始めよう。」



やる気って言うか殺る気満々じゃあねぇか!このオカン!!

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