父との遭遇

まぁチュートリアルの相棒が若干?邪神よりな気もするが、そこは諦めよう。


なんせMADE By 邪神様だからな。


しかし、取り敢えず意気込んでみたのは良いが何をすれば良いのだろうか?



結局の所、俺の死因の原因は噛ませ犬王子の取り巻きポジションにいた事だと言える。


つまり、その噛ませ犬王子の取り巻きにさえならなければ、もっと言えばゲームのシナリオに巻き込まれさえしなければ俺の人生は安泰と言えよう!


何せ今の俺は子爵家の長男だからな!

仕事に困らないどころか一生食うに困ることはないだろう!


漫画やゲームで子爵なんて言うと貴族階級の中でもしょぼい扱いを受けるが、実際は普通に偉い。


悪くない!悪くないぞ!



『YES、確かに第3王子との邂逅がマスターの人生における最大の分岐点と言えるでしょう。』


だよな!


しかし、それだけで運命が覆るのが確定はしない可能性も考えねばならんな。


何せかかってるのが自分の命だ。

失敗は出来ない。


第3王子には近付かないのは確定にしても、他にも策を持っておくべきだろう。



『uuum。簡単な所だと見た目……ですかね?』


見た目、ねぇ?


俺の目の前にホログラフィーの様なウィンドウが開かれる。


そこには文字通りの白豚が写っていた。



つぶらな金瞳を長い金髪で隠しているが、それでも隠し切れない下膨れが非常に目を引く。

立派な二重アゴだ。


そして何よりその腹。


身長もデカいのだが、何よりその腹に蓄えた贅肉の圧が凄い。


100人中100人がコイツのあだ名は白豚だと連想するだろう。



ひでぇなこれ……。


いや、別に俺の前世もそんな人に自慢出来る見た目はしてなかったが、誰も好き好んでこんな奴に転生したいとは思わないだろう。


こんな奴に転生させるとかやっぱ邪神だわ。

邪神に人の心はないわ。間違いないわ。



『However、今のマスターは赤ん坊です。今から食生活に気をつけるだけでもこの未来は容易に回避できるのでは?』


確かに、見た目が変われば周りの人の反応や印象も変わる。


そうなると当然俺の今後の未来も変わる可能性は高くなるだろう。



……そういやナビィ。お前は未来は分からないのか?世界知識アカシックレコードなる不思議クラウドシステムの申し子だろ?


未来の知識とか持ってないわけ?



『I'm sorry to say。私が分かるのは、現在の状況から予測される可能性の高い未来までです。』



ふむ。予測は出来るけど確定情報は分からないってことか?


『YES、Master。ちなみに今のままだとマスターが15歳で死ぬ可能性は98%です。』



OK。取り敢えず太らない様にするわ。

後はそうだな、髪も短くするか。


そして王子っつーか王族には近付かない。



『I agree。それが懸命かと。ただ、10歳の頃に王城と言うか王都に行くイベントはありますので気を付けて下さい。』


え、えぇ……。

強制イベントあんのかよ……。



……まぁ良い。あまり未来のことを今から考えても仕方ない。


とりあえず何が出来るか確かめようと、ベビーベットの柵を持ちつかまり立ちをしてみる。



や、やべぇ!足がガクガクする!


ストンとベットに尻餅をついてしまった。


くそっ!立ち上がることすら出来ないのか!

それに何だか頭がグラグラする。


これはもしかして首も座ってないのか?

くそ!この軟弱な身体め!


まだガクガク震える自分の足をペシペシ叩いていると、不意にふわりと大きな手に抱き上げられた。



「ふむ。いかんぞ?アルフォンス。自分の身体を傷つけるような事をしては。」



俺の小さな視界いっぱいに、髭面の厳しい顔のオッサンのふにゃりと笑った笑顔が広がっていた。


だ、誰だ!?

このオッサン…。



身長は赤ん坊の俺とは身長差があり過ぎてよく分からないが、おそらく2m近い。


彫りの深い顔と鍛えこまれた鋼のような肉体を持つアメコミヒーローの様なマッチョマンだ。


短く刈られた茶色に近い金髪、少しタレ目な青い瞳が優しく俺を見ている。


もしかしてこの人……。



「しかし、赤子とは言えやはりアーネスト家の嫡男である!

その心意気は良し!流石は吾輩の息子だ!」



呵呵と整えられた顎髭を触りながら笑う厳ついオッサン。


あー、やっぱりこの人俺の父親であるアーネスト子爵だわ。


よくよく見るとさっき見た俺の未来の姿と目元とかが似てなくもない。


身体付きは似ても似つかないが。



『YES、Master。マスターの父親であるアレックス・アーネスト子爵です。ちなみにエルネスト王国軍の特務大佐でもあります。』



おそらく仕事の合間にやって来たのだろう。

パパンは胸元や襟元に勲章がついた真っ黒い軍服に身を包んでいた。


昔のドイツ軍将校が着てそうな黒地に銀糸で刺繍が入った軍服だ。



「良いか?アルフォンス。お前はまだ産まれたばかりで筋肉が備わっておらぬ。いきなり立ち上がるは出来んのだ。しかし――」


言い聞かせるようにゆっくりと俺に語りかけるアーネスト子爵(パパン)は、ふむと呟き、癖なのだろう、整えられた顎髭をジョリっと撫でる。



「魔力を鍛えれば別だ。」



おぉ!魔力!魔力って言った!

古今東西のファンタジー作品に必ず出てくる不思議パワー!

当然、オーソドックスなジャパンゲームであるドキめもの世界にも存在するようだ。



『YES!この世界にはあらゆる存在の根幹たる概念元素、魔力が存在します。正確には魔素エーテルが存在し、それが集まって魔力マナを形成しております。』


んー、素粒子と原子みたいなもんかな?


『Exactly。その認識が1番近いです。』




「あらゆる生物の身体には血とは別に魔力と言う力が流れている。東の方では気と言われる概念だな。」



おおっ!ジャパンファンタジー作品には必ずと言って良いほど出てくる極東に住む不思議部族もいるのか!

これはあれだ。サムライとかニンジャも出て来そうだな。



「丹田と言われるへその下の部位に意識を集中させるのだ。そこから全身に流れる魔力を意識せよ。そして全身に魔力を張り巡らせた状態を維持するのだ!そうすれば――!」


アーネスト子爵は俺を抱いたまま空いた腕で拳を突き出す。



豪っ!



丸太のような太い腕が生み出した烈風が部屋に吹き荒れる。

す、すげぇ…!



「生身で岩を砕くことも雑作ない!赤子のお前とて立ち上がるどころか、飛び回ることも容易だろう!これぞ無属性魔法!肉体強化魔法の基礎!東方では気功とも言われる戦士の必須技能よ!!」



ガハハと笑うパパン。

うん。赤子に教えるこっとゃあないよね。


そもそも何でこの人赤子俺に言葉が伝わると思ってんだ?筋肉?脳まで筋肉なの?



「アルフォンス!お前はアーネスト家の男だ!これくらい出来て当然である!!さぁやってみせよ!」



豪快に笑いながら俺をそっと地面に置く脳筋パパン。


よ、よぅし!やってやる!


丹田、つまりへその下だな!



『YES、Master。おおよそそのご認識で間違いありません。魔力とはこの世界に生きとし生けるもの全てが持つ概念エネルギーです。人体の中央部である丹田を意識する事で魔力の流れを意識しやすくなります。』



2人に言われた通りに意識をへその下に集中させてみる。


すると身体の奥底の方からじんわりと暖かい何かを感じ取れることが出来た。



こ、これか!これが魔力!?

ようし!次はこれを全身に張り巡らせれば良いんだな?



『YES。魔力は概念エネルギーなので人の精神力で制御出来ます。どんな形でも構いませんので魔力が流れる様子をイメージをして下さい。』



えぇっ……?イメージイメージイメージ。

流れるってことは……水道の蛇口とか……?



蛇口から魔力なる不思議エネルギーがドバドバと溢れる様子をイメージする。


その途端、さっき感じた暖かい何かが身体中に溢れ出てきた。



「そうだ!それが魔力だ!良いぞ!アルフォンス!お前は天才だ!さぁ立ち上がれ!!」


俺の魔力の循環を感じ取ったのだろう。

パパンが嬉しそうに叫ぶ。


俺は床を踏みしめ、さらにイメージの蛇口を捻って魔力を身体中に張り巡らせる。


うぉおおおおおおおおおおおおっ!!!




ぷりっ。ぷりぷりぷり。




「………………………だぶっ。」


「………………………ふむ。オムツを替えようか。」




いきみ過ぎた様だ

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