説明回という名の愚痴の言い合い
ドキドキめもりある 完全版
~封じられた聖魔の箱~
略称ドキめも。
元々は無名のインディーズゲームだったらしいのだが、1部のコアなゲームファンがつき、ゲーム実況を通して人気に火がついた。
インディーズ故の資金難を数々の追加DLCや数回のリメイクをする事でしのぎ、遂には完全版となってビッグタイトルの仲間入りを果たした伝説的なゲームらしい。
俺は知らなかったが……。
個人的には度重なる追加DLC商法はどうかとは思うが、資金難と言われると社会人としては共感を覚えるな。
前世では3流商社の営業マンだったし。
話の大筋はヒロインである平民の女の子が高貴な男達のお悩み相談をしてそれを解決、そしてそれが切っ掛けで次第に惹かれ合うと言うスーパーオーソドックスな流れ。
光の聖女認定やら逆ハーエンドやら、実はとある大貴族の落胤だったり、乙女ゲーをプレイした事がない俺でも100万回は聞いた事のある、剣と魔法のなんちゃってファンタジー世界の学園で繰り広げられる陳腐でありきたりなシンデレラストーリーだ。
これだけ聞くと面白くもなんともなさそうだが、オープンワールドのアクションアドベンチャーとしてはかなり優秀なのだそうだ。
物語の序盤はしょうもない学園ストーリーが繰り広げられるが、中盤からは学園の外に出て世界を旅する事になる。
広大なオープンワールドと狂気的なまでに作り込まれたグラフィックや設定、キャラクター達は圧巻の一言。
公式ですら中盤からが本編と言っているほどらしい。
特に自由度の高さが売りで、ストーリー序盤から本編を無視してラスボスに挑むことも出来るし、王族に擦り寄って国を乗っ取ったり、全てを無視して冒険者として生きたりも出来る。
古代文明の天空都市郡や魔族の住む魔界等、それだけでゲームが1本作れる程のコンテンツ力を持っているのは普通に頭がおかしいレベルだ。
魔法やスキル、職業や武具等も千差万別に用意され、それ等の改造等も可能になっている徹底ぶり。
ストーリー自体はあえてオーソドックスにし、世界観やゲーム性をウリにした典型的なゲームと言えよう。
そしてオーソドックスなストーリーのゲーム故に、ヒロインやヒーローがいるとなればその敵役――いや、はっきり言えば噛ませ犬も当然いる。
事ある毎にヒロインに難癖を付け見下し、時には邪魔をし、時には虐めをして最後にはヒロインとそのパートナーにざまぁされる哀れな敵役の一派。
その噛ませ犬こそがこの国の第3王子であり、そしてその取り巻きAこそが、この国の軍部を司るアーネスト家のドラ息子。
アルフォンス・アーネストその人である!
見た目は金髪金目で、関取のような体型をしているのだそうだ。
ちなみに、もう1人の取り巻きBはガリガリのチビ体型だ。
噛ませ犬王子は割とイケメンなので、取り巻きAとBに関しては完全な引き立て役だな。
割りとアルフォンスは引っ込み思案な性格と言うか、主体性のない性格をしており、キーキーうるさい取り巻きBと俺様キャラな噛ませ犬王子の起こす厄介事に巻き込まれている様な印象なのだそうだ。
つまり、それが俺か!!!?
『Exactly!大変良い理解力です。マスターは優秀な生徒ですね!』
悔しいが先生が良いからな。
開発会社の資金難ぶりと金策の相関図とかめっちゃ面白かった。
開発責任者の奥さんの台詞とかめっちゃ良かったし、最後の方なんかプロ○ェクトXのBGMが聞こえてくる様だった。
『Thank you! Master!やはり知識は良いです。
そしてそれを教え広めることも知の大事な在り方ですね。またご質問があればどんどん聞いてください!』
うん。それは良いんだけどさ。
個人情報にはもうちょっと気を使って欲しいかな?
不倫して駆け落ちしたイラストレーターの話とか、キャバ嬢にハマって夜の街に消えたシステムエンジニアの話とかさ。
裁判費用の詳細まで出て来た時はやるせない気持ちになったぞ?
『Exactly!伊達に世界の知識とは言っていませんからね!全ての知識欲の前には人権なぞ紙切れ以下です。』
なんて恐ろしい奴だ……。
ため息をひとつついて部屋を見渡す。
しかし、やはり貴族ってのは凄いな。
俺はベビーベッドに寝かされているのだが、部屋が広い。とにかく広い。
50畳は優にあるであろう広い部屋の真ん中にベビーベッドが置かれていおり、その周りには何だかよく分からない玩具や、子どもが乗って遊ぶ馬の人形やら剣やらが所狭しと並べられている。
『As a side note、アーネスト家は爵位自体は子爵家なのでそこまで高くありませんが、古来よりの王家の直臣ですし、かなり優遇されております。』
ふーん。つまり、子爵家って位が凄いんじゃなくてアーネスト家が凄いって事か。
さすが軍部の雄ってやつだ。
イメージ的には大手企業の本社幹部みたいな感じ?
『Hmm……。そのイメージで言うなら、1部上場企業の最初期メンバーで社長も頭の上がらない熟練の職人みたいな感じでしょうか?』
あー、なるほど。
下手したら老害扱いされるやつだな。
仕事頼もうとしても変に社歴とか年齢が高いから中々お願いし辛いし、1回へそ曲げると言うこと聞いてくれないとかもあるやつ。
『I agree!あの邪神みたいな存在ですね!』
ナビィ、やっぱりお前あの邪神様のこと嫌ってない?いや、俺も思う所しかないけどさ。
『Anyway、人心の機微までは分かりませんが、実際にアーネスト家が軍部で絶大な発言力があるのは確かです。』
いや、良いんだけどさ。
……問題はだ。
『ドキめも』のストーリー上、その軍部との繋がりが故に俺が死ぬって事だ。
『Exactly!目下1番の問題はその
ざっと教えてもらったストーリーの流れはこうだ。
王立魔法学園。
この国の15歳になる貴族の子ども達が入学する国内最高峰の全寮制のアカデミーだ。
そこに異例の特待生として平民であるヒロインが入学する。
そして素敵なイケメン達とキャッキャウフフしてるヒロインを毎度邪魔をしたり虐めたりするのが第3王子とその取り巻き達。
彼等はある時、偶然入り込んだ学園の小部屋で封印されていた小さな箱を開けてしまう。
タイトルにもある聖魔の箱だ。
その箱には古の魔王が封印されており、哀れ噛ませ犬王子とその取り巻きは魔王の手先として操られる羽目になる。
この辺までは実によくあるストーリーだ。
って言うか、なんで毎回ファンタジー学園には危険な存在が封印されているのか?
日本以外でもハリ○ポッターとかでもそうだし、この設定はワールドワイドな常識なの?
ファンタジー世界のPTAはもっと頑張れよ。
まぁ、ともかく。
魔王に操られた三馬鹿は様々な大事件を引き起こす。
そして、ドキめもの序盤の最後に馬鹿王子の取り巻きAであるアルフォンス・アーネストはヒロイン一行と戦い、命を落とす事となる。
アーネスト家は子爵家だが軍部に強い影響力を持っており、アルフォンス(つまり俺)の死が切っ掛けで軍部を始め、この国が魔王の脅威を認識すると言う流れになっている。
そして逃げた魔王と馬鹿王子、取り巻きBをヒロイン一行が国の助力を得て探し出し、この世界の秘密やらを暴き、様々な事件を解決して本当の敵とやらを倒してハッピーエンドとなる。
……いや、駄目だろ!俺死ぬじゃん!!
しかも何が最悪かってこのゲーム、マルチエンドとかフリーシナリオな癖に俺が生き残るストーリーがないのだそうだ。
ますます駄目じゃん!!
折角転生したのに享年15歳確定って!
つぅか、馬鹿王子に散々振り回されて挙句に魔王に操られて殺されるとかどんな運命だよ!?
『Cheer up!Master!所詮、運命とは統計学的有意性の集まりにしか過ぎません。前提条件を覆し続ければ運命の打破は案外と現実的と言えるでしょう!』
……あー、つまり運命は絶対じゃないって事?
15歳までの俺の行動次第では死ぬ運命を回避出来るって言いたいんだよな?
『Exactly!その認識で間違いありません!』
そう、だよな。
最悪15歳になっても魔法学園とやらに入学しなければ良い話だし……。
よし!ならばやるしかないだろう。
全身全霊全力全開の生存戦略を!!!
『wonderful!!未知に挑むという事は非常に良いことです!あの邪神がこの世界に設定したゲームのストーリーと言う運命にどの様な変化をもたらすのか大変興味深い!実に興味をそそられる実験です。』
……今実験って言った?
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