騎士アラン
闘技場に降りたピエールとアランは、互いに木剣を構えて対峙していた。アランは短く切った木剣を左手で逆手に持ち、ピエールは鉄兜と鉄の鎧、鉄の丸盾で身を固め木剣を大上段に構えたまま動かなかった。
(アランは今まで相手の攻撃に合わせて動き、隙を突いていた。それは、こちらが動かなければ攻め手が無いからだ。今までの相手は、それを理解できなかったから負けた。兜も鎧も無い上に木剣も短く切ってある。相手が近づいてから打ち込めば勝負は決まる)
ピエールはこれまでのアランの戦いを正確に分析していた。
(なるほど、攻めてこないか。僕の戦術を見抜いていたか、さすがに決勝に残るだけの武人だ。仕方ない、他国のスパイが監視している中で、攻め手の一つを晒すのは癪だが、やるしかない。僕の技を全て受けきれるのならミリア様を守る役を譲ってもいい)
アランは短く切った木刀を構えたまま、姿勢を低くした。足に力を貯め、一瞬で間合いを詰める姿勢だった。
(なんだ?カウンターが得意なんじゃないのか?)
ピエールはアランが構えを変更しても、防御の姿勢を崩さなかった。
「虚影流忍法、殺技、草刈り葛落とし」
アランがそう言った瞬間、アランの姿は消え、ピエールの足を払い、仰向けに倒れたピエールの首筋に木剣を当てていた。ピエールは理解した。アランには勝てないという事を……。
「私の負けだ」
「良いのですか?」
「良いに決まっている、貴殿は私に勝ったのだ。後は唄姫様が決めることだ」
勝負はあっけなく着いた。
(やはり、死神の弟子なだけある。完全装備の戦士を子供扱いとはな、後は唄姫様が、選ぶかどうか……。まあ、選ばれなかったとしても暗殺者として仕えてもらうがな)
国王は、予想通りの結果に満足していた。
「勝者は決まった。選定の儀は、夜に行う。それまでの間、各々祭りを楽しむがよい」
ミリアはジーナに促され自室に戻った。
ミリアはピエールとアラン、どちらを騎士にするか悩んでいた。
(アランが一番強いのは分かった。とても強く私を守ろうとしてくれている。顔も美形ではないけど、まあまあ良い。どうしよう好きになってしまったら……。でも、ピエールは負けた。出来れば長生きしたいし、どうしよう)
「では、祭りの最後の締めくくりに入る。騎士候補入場」
国王の号令で、闘技場の貴賓席の前に16人の騎士候補が並んだ。ミリアは誰にするのが正解か、まだ分からなかった。だから、隣に控えているジーナに聞いた。
「ジーナは誰が良いと思う?」
「私からは何も言えません。その選択は唄姫様自身が行わなければ意味をなさないからです」
「そうなの?」
「ええ」
ジーナは何も答えなかった。何かを答えて、ミリアが死んだ時、その責任を負いたくなかったからだ。
「唄姫ミリア様。この中に、あなたに相応しい騎士は居りましたか?」
国王の問いかけに、ミリアは答えた。
「アランを選びます」
「神託は下された。新しき騎士はアランに決まった。みなで祝福を!」
国王の言葉の後で、盛大な音楽が鳴り響き、花火が上がった。新たな唄姫と騎士を祝う宴が始まった。
(これで、僕も長生き出来なくなる訳か……。師匠は怒るだろうな。でも、良いんだ。僕は選んでしまった。彼女の側にいて、命の限り守ることを……。だって、仕方ないじゃないか、一目ぼれだったんだから)
(ああ、選んでしまった。好きになるかもしれない人を……。けど、やっぱり強い騎士が良い。私は、もっと生きたい)
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