アピールタイム

 決勝戦を前に、闘技場の貴賓席で、アランともう一人の騎士候補はミリアの前にかしずいていた。それは、決勝戦に残った者だけが許されるアピールタイムだった。自分がいかに優秀で唄姫の護衛に適しているか、直接言葉で伝えることが許されていた。

「まずは、ピエール・グスタフ・ローゼンウルフ。直訴を許す」

 国王の言葉を受けてピエールは話し始めた。

「我がローゼンウルフ家は、代々騎士を輩出してきた名門です。私自身、幼少より厳しい訓練を受けてきました。この通り、決勝に残るだけの腕は持っております。もちろん決勝戦も勝ち、私こそが一番強いと証明いたします」

 ピエールは礼儀正しく、まさに騎士といった風格だった。

(この人、良い人そう。雰囲気で分かる。隣にいるアランを馬鹿にしていない。困ったな~。嫌な奴が優勝してくれた方が良かったのに……)

 ミリアは内心、困っていた。


「次にアラン。直訴を許す」

「僕は、騎士に立候補するつもりはありませんでした」

(え?何を言っているの?)

「王都に来た目的は、このトーナメントを見学する事でした。ですが、唄姫様のお姿を拝見し気が変わりました。あなた様を死なせたくない。この命に代えても守りたいと強く思ったのです。僕の師匠からは、参加するなと言われておりました。理由は、師匠の技は殺しの技、戦場で御身を守るのには適さないと言っておりました。

 その通りならば僕も諦めがついたのですが、この通り決勝まで勝ち残ってしまいました。もし、僕が負けた場合は、何があろうとも僕を選ばないで頂きたい。師匠の言った事が正しく、僕ではあなたを守ることが出来ません。

 ですが、もし勝つことが出来たのなら僕を選んでください。あらゆる手段を用いて末永くあなたをお守りいたします」

(あれ?これって私の事を暗に好きだって言ってる?)

「ふむ、面白いことを言う。お主の師匠の名は?」

 アランの物言いに国王が興味を示した。

「本名は知りません。ただ、死神と名乗っていました」

「死神、死神か……。あの老いぼれめ、死んだと思わせておいて弟子を育てておったのか。なるほど、どおりで強いわけだ。本来なら離反の罪で罰するところだが、弟子が騎士になるというのなら許そう」

 そう言って国王は満足げにほほ笑んだ。

「陛下!まだ、勝敗は決しておりません!」

 ピエールは国王がアランが勝つ前提で話を進めているのが許せなかった。

「すまぬ。そうであったな。アランが負けたのなら死神は捕縛し、相応の罰を与えよう」

(まったく、国王様は私とアランの実力差が分かっておらぬ。今までの相手は、アランの詐術に嵌っただけに過ぎない。真の騎士の戦い方を見せてやる)

(参ったな、こういうしがらみがあったから師匠は参加するなと言ったのか……。でも、もう後戻りは出来ない。ピエール殿が僕よりも強かったのなら、負ける前に逃げて師匠と合流しよう)

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