騎士候補アラン
再臨際の間、新しい唄姫の騎士を選ぶための武道大会が開催される。各地から腕自慢が集まり、なんでもありの戦いがトーナメント形式で行われるのだった。
参加者は数百人規模で再臨際の5日目までに16人まで数を絞り、6日目から16人によるトーナメント戦を唄姫が観戦し、騎士となる者を選ぶのだった。ほとんど1位の者が選ばれるのだが、少数だが2位を選んだ唄姫も居れば、1回戦で負けた者を選んだ唄姫も居た。
ミリアは闘技場の貴賓席に座っていた。闘技場には16人の騎士たちが横一列に並んで居た。
「ミリア様。今、並んで居る者たちが今回の騎士候補になります」
騎士候補の16人は1人を除いて、みな似たような装備をしていた。諸刃の鉄の剣に鉄の丸盾、全身を覆う鉄の鎧と兜で身を固めていた。その中に1人だけ兜とも鎧もつけずに短刀と刀を脇に刺し黒装束を着た黒髪短髪の青年が居た。
「ジーナ。あの方は鎧を着て無いようですが、大丈夫なのですか?」
「ルール上、問題はありません。今は本物の武器を持っていますが、試合時には武器は木剣を使用します。防具は着たまま戦うのですが、有効とみなされるのは鎧の隙間に攻撃が入った時だけです。鎧を着ていない場合は、どこに当たっても有効打とみなされるので不利になりますが、禁止はされていません」
「そうなのですね」
「ですが、鎧も無しに16人に入った方を私は知りません。たぶん強いのでしょう」
「なるほど」
「これより、騎士選定の儀を開始する。各々、ルールを守り全力で戦う事、唄姫様に選ばれた者について順位が何であれ異議を申し立てる事は出来ぬと知れ、ではそこの者から名乗りをあげよ」
国王の宣言で、騎士候補たちは自分の名と出身地と家名を名乗っていった。そして、鎧を着ていない青年の番になった。
「僕はアラン。シェード村出身、ただの農家の長男です」
この言葉を聞いて他の騎士候補たちは失笑していた。アランを除く15人の騎士候補たちはみな貴族だったからだ。
「場違いな田舎者め、さっさと負けて帰るが良い」
騎士候補の誰かが言った。その声はミリアにも聞こえていた。
(農民を馬鹿にするなんて……。私が農民だと知らないのかしら)
ミリアは、途端に鎧を着こんだ貴族たちに怒りを覚えた。
(でも、嫌いな奴を選ぶのもありかも、そしたら鬼士にしても心が痛まないし。でも、そういう基準で選ぶのなら一番強い方が良いのか)
唄姫に選ばれるのは騎士の誉であり、鬼士として戦うのは最高の名誉だった。だが、それは人間ではなくなるという事でもある。それでも、鬼士になりたい者は後を絶たない。理由は唄が残るからだ。歴代の鬼士たちの英雄譚は、どれも失われることなく伝承されている。その唄を聞いて育った若者たちは自分も語り継がれるようになりたいと強い憧れを抱くのだ。だから騎士になりたがる者は無くならなかった。
騎士候補の名乗りが終わると、トーナメントは開始された。兜と鎧を着ているとはいえ、木剣でも鍛え抜かれた騎士が振るえば凶器となる。兜や鎧がひしゃげ、血が飛び腕や足が折れる者も居た。ミリアは戦いを見て居られなかった。
そんな中、鎧を着ていないアランの試合だけは、ミリアは見ることが出来た。なぜなら、勝負が一瞬で終わるからだった。アランは相手が剣を振るった瞬間、消えたと錯覚するほど素早く動き、相手の剣を避けて、相手の急所、脇の下や首といった鎧の隙間に短く切った木剣を当てているのだった。
そうして勝ち残ったアランともう一人の騎士候補は、翌日の決勝戦を戦うことが決まった。
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