唄姫ミリア入城

 ミリアは15歳になった時、闇の国の王都シュワルツに招かれた。理由は、唄姫だと判明したからだ。家族はみな喜んだ。唄姫の家族には国から多大な報酬が支払われるからだ。

 ミリアは、家族との別れを受け入れた。貧乏な農家の娘として生まれ、いずれは家を出て行く事になる。家族にお金が残せるのなら、それで良いと思っていた。


 王都シュワルツは大きな都だった。立派な城壁に囲まれ、城壁内には様々な専門店があり。二階建て三階建ての石造りの建物が並び、道は石畳で舗装され、多くの商人や旅人が行き交っていた。

 ミリアは、豪華な神輿に担がれ、今まで着たことのない綺麗なドレスを着て、城門から王宮への道を進んでいた。

「あれが、新しい唄姫様か」「可愛いお方だな」「長い黒髪が素敵ね」

 街の住人たちは新しい唄姫を見て口々に感想を述べていた。新しい唄姫の誕生は国を挙げての祭りだった。唄姫が居る限り、他国との戦争で負けることは無くなるのだ。唄姫は国民にとって守護神と同等の存在だった。

(私は、誰を騎士にしてしまうのだろう?好きになりたくないな……。好きな人が人殺しの化け物になるなんて嫌だな)

 ミリアは、唄姫と騎士の運命を知っていた。だから、誰も好きにならないと心に決めていた。


 ミリアは王宮に入り、謁見の間で国王に拝謁した。

「よく来てくれた。新しい唄姫、ミリア様。今日からこの王宮があなたの家だ。再臨際が終わるまでは、色々と不自由をさせることになると思うが、どうか役目を果たしてほしい」

「もったいないお言葉です。私は全てを受け入れてここに来ました。どうぞ唄姫の役割を果たさせてください」

「おお、ありがたいお言葉、感謝します。ジーナ。来なさい」

 国王に呼ばれて一人のメイドが、ミリアの隣に移動し、国王にかしずいた。

「ミリア様。その者はジーナ。あなた様専属のメイドです。再臨際での振る舞い方、着替え、食事、移動、全てジーナがやってくれるでしょう。また、何か入り用であればジーナにお申し付けください」

「はい、ありがとうございます」


 こうして、唄姫の誕生を祝う再臨際が開始された。

「ミリア様、初めまして、私はジーナと申します。本日のスケジュールですが、昼食は現唄姫、クレア様とレイア様、お二人と一緒に取って頂きます。そこで、お二人から唄姫の役割についてご説明があります。その後は、夕食までの間、再臨際の大まかなスケジュールを私から説明いたします」

「はい。よろしくお願いいたします。ジーナ様」

「ミリア様、私に敬語も敬称も必要ありません。ジーナとお呼びください。あなた様は神です。立場は国王陛下よりも上なのです。今後、誰に対しても敬語も敬称も使う必要はございません」

「分かりました」

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