第16話 あやかしの生き方
「はあ、良かったですね、無事に事件が解決して」
私が伸びをすると、菊池さんが不思議そうな顔をした。
「ちょっと待ってください。事件は解決したんですか? 私には何が何やら……」
「へっ?」
私がキョトンとしていると、國仲さんが教えてくれる。
「普通の人には見えないんだよ、今のは」
その言葉に、大きく心臓が鳴る。
「えっ、どういう事ですか?」
「どういう事も何も、僕には沖さんが白いモヤに向かってブツブツ話しているようにしか……」
菊池さんの言葉に愕然とする。
そんな。だって、あんなにハッキリ狸の姿が見えていたのに。
「ってことは、國仲さんもあの狸は見えなかったんですか?」
慌てて國仲さんの顔を見ると、國仲さんは困ったように笑った。
「はい。茶色くて動物っぽいなとは思ったけど、狸の姿までは見えなかったです」
そんな。じゃあ、あれを見たのは沖さんの他には私だけ?
ぶるぶると右手が震える。
どうしよう。まだあの力が残っていただなんて。自分ではもう普通の女の子になったつもりだったのに――。
「千代さん」
沖さんは、私の肩に手を置いて、三日月みたいに目を細めた。
「うん。福助に案内されて来たって時点でただ者じゃないと思ってたけど、どうやら千代さんは、僕の想像以上に力が強いみたいだね」
肩に乗った手に力がこもる。
沖さんは、二人だけに聞こえるような低い声で言った。
「……嬉しいよ、君を手に入れられて」
その言葉に、嬉しさよりも戸惑いを感じてしまう。
私を手に入れて嬉しい? こんな私を?
どうして。
私はこんなにも、普通じゃないのに。
私はこんな力、要らないのに――。
***
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