第14話 國仲さんと依頼人
女給さんの仕事、頑張ろうっと!
言われた通り、張り切ってスプーンとフォークを磨き、福助に餌をやっていると、沖さんが新聞を手にやってきた。
「そうそう。それから新聞や雑誌の確認も大事な仕事だよ」
「そうなんですか?」
私が首を傾げていると、沖さんは奥からボロボロのノートを持ってきた。
「そ。怪奇事件が乗ってたらそれを切り取ってこのノートに貼り付けてくれる?」
「はい、分かりました」
「ま、これはカフェーの仕事というより、僕のもう一つの仕事がらみだけどね」
そう言うと、沖さんは私の目を真っ直ぐに見つめた。
「……千代さんには、僕のそちらの方の仕事も手伝って貰えたらありがたいし」
「はい」
ゴクリと唾を飲み込む。
そちらというのは、やっぱり怪異絡みのことなんだろうな。
私に何ができるかは分からないけど、まあ、記事を切り取る位なら簡単かな。
私は『怪奇倶楽部』という雑誌をペラペラとめくった。
聞けば、このところの怪奇・オカルト
それどころか、最近は真面目な新聞や雑誌にもこうした記事が多いのだとか。
「さて、そろそろ開店時間だね」
「はい」
沖さんに言われ、『OPEN』の札を出すと、ほどなくして、入口のドアが開いた。
カランコロン。
外の新鮮な空気が腕ににひやりと冷たい。私はハッと顔を上げた。
「いらっしゃいませ」
沖さんが営業用の顔を作り、カウンターから出てくる。
入ってきたのは、若い警官さんとスーツを着た中年の男の人だった。
「こんにちは、沖さん。こちらの方が、沖さんに依頼があると言っているのですが、今、忙しかったですか?」
警官さんが丁寧に帽子を取って頭を下げる。
沖さんはピクリと眉を上げた。
「やあ國仲くん」
どうやらこの警官さんは國仲さんという名前みたい。
背が高くて、真面目そうで、中々の好青年。
私はお冷を出しながらチラリと警官さんの顔を覗き見た。
「こんにちは、沖さん。新しい女給さんを雇われたんですか?」
國仲さんが尋ねると、沖さんは満面の笑みで答えた。
「ううん、こちら、僕の奥さん」
嬉しそうに答えて、私の肩を抱く沖さん。
私は肩に回った手をさり気なく払った。
全くもう、いくら夫婦とはいえ、人前なのに何やってるのよ。
「そうですか。奥さん……って、えええっ!?」
國仲さんは真っ青な顔になると、沖さんの耳元で囁いた。
「この方、人間……ですよね? 彼女、貴方の正体は知ってるんですか!? っていうか、いつの間に結婚してたんですか?」
「ああ、人間だよ。でも大丈夫。彼女は全て知っているから」
ケラケラと笑う沖さん。
「そうですか、それなら良いのですが、てっきり貴方に騙されているのかと」
私の顔をチラリと見る國仲さん。
どうやら國仲さんも、沖さんの正体を知っているみたい。一体どういう関係なんだろう。
私がじっと様子を伺っていると、國仲さんは私にくるりと向き直り、帽子を取ってピシリと頭を下げた。
「ああ、申し遅れました。僕はすぐそこの派出所に勤務している
「秋月……じゃなくて、沖千代と申します」
國仲さんが深々と頭を下げるので、私もつられて頭を下げる。
なんだか國仲さんって、すごく真面目そうな人だな。
「あのう、そろそろ依頼のほう、大丈夫でしょうか?」
すると、國仲さんの後ろにいた男性が恐る恐る手を挙げる。
「す、すみません。つい……沖さん、こちら、依頼人のかたです」
國仲さんがペコペコと頭を下げる。
「それでは、奥の席へどうぞ」
沖さんはにっこり笑うと、國仲さんと依頼人の男の人を席へ案内した。
「あっ、お仕事の話をするんですよね。じゃあ私はこれで」
邪魔をしてはいけないと席を立とうとした私の手を、沖さんはグッと掴んだ。
「大丈夫だよ、千代さん」
「でも、私がいると邪魔じゃないですか?」
「大丈夫。せっかくだから千代さんも、僕がどうやってお金を稼いでいるのか見ていくといい。なんったって、僕の妻になるわけだからね」
やけに嬉しそうな顔で私の腰を引き寄せ、無理矢理隣に座らせる沖さん。
私は渋々隣に座ると、腰に回った沖さんの手をばしりと叩いた。
全くもう!
結局、私も同席して、男の人の依頼を聞くことになった。
いいのかしら。お仕事の話なんでしょう?
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