第二章
第9話「昔の思い出」
(つまらないな…)
華は自室のベッドに寝転がりながら、プレイしていた携帯ゲーム機を胸元に落とす。
ずっと、発売を楽しみにしていたゲームだったのに、ソロや見ず知らずの人とのマルチプレイに物足りなさを感じていた。
今までこんな事なかったのにと、華は項垂れた。原因は分かってる。翔太と一緒にプレイした事が楽しすぎたのだ。だが家のwifiが直った今、また一緒にやろうと言い出せなかった。
生憎、女友達で同ゲームをプレイしている子はいなく、また翔太と小学生の頃喧嘩別れしてから何となく、男の子に対して敬遠していたので、仲のいい男友達というものがいなかった。
華はゲーム機を充電ドッグに差して、部屋を出た。この沈んだ気持ちを何とかしたくて、外をぶらつこうと家を出ようとしたところ、母親にお使いを頼まれた。
面倒だったが、分かったとだけ返事をして華は家を後にした。
こんな風に、散歩するなんて久しぶりだった。暫く歩いていると、昔よく来ていた公園が目に入り、記憶が蘇って華は顔を綻ばせた。
***
翔太は買い出しに行く途中、哀愁をただ寄せながら、公園のブランコに座っている華を見かけてビックリした。その後ろ姿はまるで、リストラされたサラリーマンの様だった。
どうしたのか心配になり、声を掛けようと思って止めた。昨日の事が思い出されたからだ。華の家のwifiは直った様で、彼女から連絡が来る事はもうなかったし、もう関わりたくないし、関わらない方がいいと思った。
翔太は華に気が付かなかった事にし、そのまま公園を後にした。
***
もう大分陽が傾いていた。今日は食事当番なので、急いで帰らねばと買い出しを終えた翔太は、帰り道を急いでいた。急ぐ中、先程の公園を何気なく横目で見て、翔太は思わず足を止めた。
誰もいなくなった公園で、先程と同じ様に、華がまだブランコに座っていたからだ。
その姿を見て、翔太は昔、華と初めて会った時の事を思い出し、目を細めた。
引っ越してきたばかりの頃、黙って家を出て、ついついフラフラとこの公園に来た事があった。一人でブランコに乗っていると、声を掛けてきたのが華だった。それからすぐに仲良くなった。
あの頃の自分は、新たな環境に馴染めず情緒不安定だったので、そんな事を忘れさせてくれた、無茶苦茶な華の存在に大分救われた。
あの頃の自分と、今の華の姿が重なる――
翔太は、自然と華の元に歩き出していた。
つづく
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