第6話「昔のように」

 華は登校中、大きい欠伸を噛み殺しながら、とんでもない事を言い出した。


「ねえ、翔ちゃん。ウチのwifi直るまで、翔ちゃんの家行ってもいい?」

「えっ」

「だってネット回線繋げないから、ローカル通信じゃないと一緒にゲーム出来ないじゃん」


 翔太は呆れて言葉を失った。


(今朝方の「迷惑かけてゴメン」のメモは何だったんだよ。アレは嘘か。ちょっと泣きそうになった俺の純情を返せっ)


 翔太は沸々と怒りの感情が腹から沸き起こりそうだったのを、何とか抑えた。


「直るのに、どれくらい日数掛かるの?」

「業者さん、明日か明後日来るらしいから、そのくらいかな」


 翔太は、まあそれくらいなら……と一瞬流されそうになったが、いや待てと頭を振った。


(昨日まで殆ど繋がりを絶っていたのに、この距離の詰め方、おかしくないか)


「その間、ソロクエストやればいいじゃん。それならネット回線要らないだろ。無理に今、マルチクエストやらなくても」

「ソロクエスト、もう終わった」

「はっ?」

「後はマルチクエストやらないと、解禁されないんだもん」

「お前、家帰ってからずーっとやってたの? もう今日学校から帰ったら、すぐ休めよっ」

「学校で寝るから、大丈夫」


 翔太は、カーと頭に血が昇りそうになった。昔、華に振り回されっぱなしだった事をよくよく思い出してきた。


「ちゃんと家で寝ないなら、ウチ出禁だから」 


 えー。だって、気になって眠れないんだもんと華は翔太に猛抗議した。翔太はううっとたじろいだ。


「少しでいいから、ちゃんと家で仮眠しろよ。そしたら、来ても……いいよ」

「本当っ? 分かった。頑張って、仮眠するっ」


 その屈托のない笑顔に、翔太は呆れつつも、どこか暖かい気持ちになった。昔の頃に戻った様な。もしかしたら、またあの頃のみたいに戻れるんじゃないかと錯覚する程には。


 ただその考えが甘かった事に、後々嫌というほど気がつかされる事になろうとは、この時の翔太には知る由もなかった。



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る