青夏三十一字

きよう

第1話

七月の約束をして 終わる夏に胸が寒い 六月二十日


ハイエナのような太陽から逃れて 桜の根たどる 緑陰


熱湯の水飲み場 のぞき込めば およぐ赤白の金魚 やける手


前掛けのごとき水の跡 内履きの砂 すり抜けたポニーテール


プリントの数式 思い出すあの朝 筆記音と大きなくしゃみ


光る星 美しさよりすでに無い 宇宙の空地 はせる冷たさ


とび抜けて来いよ 兆年の輝き つらぬけ胸を ドームの裏側


偽だから価値あるとかいうな こっちは殺る気だ  五万年には


n万年後に咲いた場所は砂山 歯軋りだけ響く真空


浅い浅いあさいあさいあさいあさいさい浅いあさいあさい朝


結ぶ いとも無いのに 見えるという大三角 そうぞう の もうそう


悲しみづくりの天才が 夏が終わるのがつらいという夏至の日


夏の本 夏目漱石 懐かしき ペリカンの筆 描く よのゆめ


ラジオ体操ができた時 君との距離も決められたの 知ってた


あれだけあれば何か成せただろうか 手を見る七夕水族館


廊下との境がない教室で知るのは 結局こえるのは自分


とける君の赤点 クリーム色の空 薄墨にひたす19時


濡れトマト 見上げる曇天レース越し 雨粒たれる ヘタの苦味


夕立が消え ゲリラ豪雨に戸惑うおまえ我がハリケーン知らず


タコを見て 掴めぬ夢想う友の隣で ソースの香り思う

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