第11話 女騎士の覚悟
赤い....
また、"あか"が彼から青空を奪っていく。
辺りが騒がしくなりそれを追った先には燃え盛る離宮があった。白亜の離宮は赤く染まりそれを消そうと沢山の人々が魔術を放つ。けれど、どんなに大量の水を放とうと火の勢いは衰えることをしらない。当然だ。漂う魔術の気配...自然の炎ではないのだから。
あぁ、また彼から奪うのか。
「レイナント王子。これは一体なんです?」
こぼれた言葉は届かなかった。
彼はすでに兵や騎士たちと共に魔術を放ち離宮を包む炎を消そうと必死だ。
分かってる。彼だってこんな事予想していなかったことくらい。傷つけるのはいつも彼らの周りだ。それに振り回されながら彼らは王族だからと決して周りを傷つけようとはしない。だからいつも傷を受けるばかりだった。
火を消そうと必死になっているレイナント王子の背中にはどれほどの傷が背負わされているのだろう。
離宮を囲むように消火活動をする人々と一歩枠を外れてそれを眺める野次馬達。その間で私は茫然と火を眺めていた。
愚かだ....
なんて私は愚か者なんだろう。彼の孤独から目を背けて己の楽園に縋りついた。その業がこのザマだ。守りたいと願いつつ他者から介入されるまで、自ら動かなかった傲慢さ。結局また傷つけて奪うばかりで守れていないのだ。大切な人を好きな人を私の世界を変えてくれた彼を。
もう...終わりにしよう。
彼をわたしから解放しなきゃ。
消火をする騎士達の間をすり抜けて燃え盛る離宮の入り口へと向かう。炎に近づくにつれて体が外部からの熱を纏い呼吸すらも苦しくなってくる。熱い空気が肺に入って体の内側から焼けてしまいそうだ。
けれど、アンはもっと熱いよね。もっと苦しいよね。今、出してあげるからね。
「お、おい!其方!待て!!!!」
レイナント王子の声が一人離宮に向かって歩く私の背に届く。
けれど振り向かない。あなたにお兄様を返すからね。少しだけ待っていて。
部屋の前に着いた。
歩き慣れた廊下も使い慣れた調理場も全て赤く染まっている。けれど、王子の部屋の扉は燃えていなかった。
扉の前に立ち、一度目を瞑った。
ここまで来て尚怖気付いてる自身に呆れた。嫌うだろうか憎むだろうか。仕方がない。全て自分が撒いた種だ。
浅く息を吐いていつものように扉をノックし、いつものように話かける。
「王子ー!外に出ましょー!ここ熱いですよー!ね、出ましょう?...王子ー???」
けれど、王子から返事が帰ってこない。部屋の中には確かに王子の気配があるのに。
「王子、失礼しますよ!?」
恐る恐るドアノブに手をかけて回そうと試みたけれど、全く回らない。扉に付いている鍵が閉められているのではなく、王子の魔術で施錠がされていた。それは....明らかな拒絶。
王子はここから出る意志がないということなのだろうか。王子....
私のせいだ。私がいつまでも覚悟を決めなかったせいで、アンを追い詰めてしまった。
アン。
だめだよ。アン。生きて。あなたに全部返すから。あなたをもう一度みんながいる青空の下へ。
もう一度息を吸って目を瞑った。ごめんね、アン。もう終わるからね。
ゆっくり瞼を上げ扉へと片手を翳した。そして、結んでいた糸を解くように施錠の術式を解いて無へと導いていく。
術が解け、ドアノブに手をかけた。辺りには燃やし尽くす無情な炎の音と焼けたひどい匂いが充満しているのにそれを気にする余裕はなく心臓が煩いほど暴れ回るせいで浅い呼吸を繰り返した。
「王子!入りますよー!」
ドアノブを握る手に一気に力を入れて勢いよく扉を開いた。
開いた瞬間に穏やかな風が頬を撫で後ろで結んでいたアンに似せて変えた金髪が静かに揺れた。
あぁ...そうだ。この香り。アンの匂いだ。
こんな時でも胸を締め付ける恋心に心底呆れる。でも、好きだから。最低な魔女だったけれど最後の最後まで好きでいさせてほしい。そしてあなたの手で.....
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