第33話  僕と彼女と何かが弾けた音と

「ん?」


 遥香のベッドに彼女と横たわっていると僕のスマホがメールの着信を告げる。


 手を伸ばして床に放り投げられているスマホを拾う。ホーム画面には梓の名前。


『ごめん、体調崩しちゃった』


 その文面を見ると僕はガバリと体を起こす。


「ん?……そーし?」


 未だに事後の余韻に浸っていて、焦点のあっていない目をしている遥香の頭を軽く撫でる。


「ごめん遥香。梓が体調崩したらしいから今から家に帰る」

「……えっ?」


 彼女の声は露骨に冷え込んだ。


「そう……」


 彼女は少し俯いて何かを考えているようだったが、僕が服を着て玄関まで行くと僕のことを玄関まで見送りに来た。


「蒼熾」

「何?」

「私は蒼熾のことが好きだよ」

「……」


 彼女は僕の唇にキスをしてきた。


 僕は無言で彼女のことを見つめて、暗い空を見上げて彼女の家を出た。



 家に薬と体温計などはあるので、全ての病気に効くというポカリをコンビニで買い、急いで家に帰った。


 家のどこの部屋の電気も点いていなかった。


 寝ているのか?と思い、彼女の部屋の扉を静かにノックする。


「……梓?一回入っても大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」


 電気を消していたが起きてはいたようなので体温計とポカリを持って彼女の部屋に入る。


 そして僕が彼女の部屋に入り、手探りで電気のボタンを探っていると突然、僕の体を柔らかい感触が襲った。


 彼女に抱きつかれているのだと脳内が認識すると慌てて彼女の肩に手を乗せて離れようとする。


「えっ、ちょっと体調悪いなら安静にしていなくちゃ……」

「……蒼熾くん、それはね嘘だよ」

「……えっ?嘘?」


 なんで嘘を吐いたんだ?


「ごめんなさい、でもこうでもしないと蒼熾くんは帰ってきてくれなかったと思うから」

「……?」


 余計に意味が分からない。


 彼女は僕の唇にそっと触れる。


「ずっと寂しかったの。今日のお出かけ中も。蒼熾くんと立花さんの二人を見ていると」

「……なんかごめん」


 僕の謝罪にううん、違うのと言い彼女は首を横に振る。


「今も蒼熾くんからは立花さんの匂いがする」

「……」

「蒼熾くんが立花さんと付き合ってるのを知ってるけど、もう我慢できないから言うね。……あのね、私はあなたのことが、蒼熾くんのことが好きなの」

「……」


 ……梓が僕のことを好き?彼女が突然僕に投げたその言葉、初めは形を成していなかったが、時間とともに僕に意味を理解させて重くのしかかってきた。


 唖然としてしまって動けない僕を傍目に梓は僕から少し離れると服を脱ぎ始めた。あっという間に下着姿に彼女はなる。


「えっ、ちょっと梓!?急に何してるの?」


 僕は慌てて彼女から顔を逸らし、部屋から出ようとする。


 そんな僕の手を掴んで彼女は僕の手を彼女の豊かに実った二つの果実に持っていく。


 遥香とは違う、大きくて柔らかい感触……ってそうじゃなくて!


「梓、こういうのは良くないって……なっ、ちょっと落ち着こう」

「私の心臓がドキドキって鳴ってるの分かる?……ねぇ、蒼熾くん。蒼熾くんって私のこと嫌い?」

「……」

「今は一旦、この家の中だけの関係でいいから」


 いや、それならそもそも両想いだからこんなことをしなくても……そう思う僕がいるはずなのに、声が出ない。違うことを思っている僕がいるように。


 まるで僕の好きな人は——であるかのように。


「今からすることは誰にも言わないし、蒼熾くんには迷惑をかけない。それに私の全部、蒼熾くんの好きなようにしていいよ」


 そして、最後に梓はあの日の遥香を彷彿とさせる顔で囁くように僕に言った。


「だからね、私の初めてを奪ってグチャグチャにしてよ」


 あの日の僕は逃げ出した。だが、今日の僕は訳もわからずに彼女の唇に僕の唇を重ねた。


 そして僕は流されるままに彼女と体を重ねた。




———————————————


第二章完

取り敢えず五万文字は超えましたね。

これからの更新、どうしますかね……。

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