第31話  僕と彼女たちと小競り合いと④

 その後、全員が食べ終わると僕たちはウィンドウショッピングを続け、夕方近くになると遥香がゲームセンターに行きたいと言い出してそちらに移動した。


 クレーンゲームをしたり、遥香に誘われてレーシングゲームをしたりなど楽しむと、

 

「最後にこれやっていかない?」


 遥香がこれと言ってプリクラを指差した。


「思い出になりそうですし、いいですね」


 女子ってこういうの好きだよな〜と思いながら梓と遥香が中に入っていくのを外に立って見ていると先に中に入っていた遥香に呼ばれる。


「蒼熾、何やってるの?早く〜」

「えっ?ひょっとして僕も?女子二人で撮るんじゃなくて?」

「当たり前でしょ……。というか蒼熾が主役……」


 最後の方は聞こえなかったが、当たり前という言葉に少し動揺してしまう。


「マジで……」


 ほらほらと真ん中に立たされて、写真を撮らされる。


 三人で撮ったあとに、デコレートでもしているのだろう、遥香と梓が何やら画面を弄っているが、どこか振るわなかったのか遥香は首を傾げている。


「遥香、どうかしたか?僕の写真映りが悪いのは元からだから許してくれ」

「いや、そうじゃなくて……、なんか物足りないな〜って」


 そう言われても僕にはどうしようもない。


「……そうだ!蒼熾、二人で一緒に撮らない?」

「えっ?また?……まぁいいけど」


 じゃあ撮ろ撮ろと遥香は僕のことを引っ張る。


「あっ、あの……蒼熾くん、そのあと私もいいでしょうか?」


 カーテンの中に入りかけている僕の背中にかけられた声に返事をする。


「ん、別にいいよ」

「ありがとうございます!」


 僕の答えに梓の顔がパァっと花が開くように明るくなる。


 うん、やっぱり笑顔の梓はいいな。


「蒼熾、早く〜」

「あっ、ごめん」


 梓から視線を外して中に入るともう準備を終えたらしき遥香が僕の体勢を指示する。


「じゃあ蒼熾こっち向いておいて」

「えっ?これじゃあ僕の顔正面に映らないけど」

「いいのいいの」


 それならいいけど……とそのまま彼女の顔を見つめている内にカウントが始まり、そして0になった瞬間に彼女は僕の口にキスをした。


「んん!?」


 想像もしていなかったことをされて、目を見開く。


 彼女は僕からゆっくり顔を離すと悪戯げに微笑みながら


「これ、スマホのカバーのところにいれてもいい?」


 と僕に訊いてくる。


「……別にどうぞ」





 中から出ると梓が待ち構えていて今度は梓と並んでとった。


「あの、ちょっと手握ってくれませんか?」

「別にそれくらいならいいけど」


 今日ずっと繋いでたしと言い彼女と手を繋ぐ。


 彼女はその手をギュッと掴んだままカメラの方を向く。


 特に何もされることなくシャッター音が鳴り、写真が撮られる。


 そのまま編集も何もせずに写真を出す彼女を見て疑問を抱いた僕は尋ねた。


「それ、そのまま出しちゃって良かったの?」

「ええ、この方が思い出になりますし。一緒に撮ってくれてありがとうございます」

「いや別に、特にお礼を言われるようなことではないよ」

「いいえ、この後のことに踏ん切りがついたので」

「ん、そう?」


 ふわりとでもどこか覚悟を決めた顔をする梓に僕は軽く首を傾げた。




 電車に揺られて地元の駅に戻ってきてじゃあ解散となったところで突然遥香が僕に一つ提案をしてきた。


「蒼熾、今日さ、家に泊まっていかない?」

「「えっ?」」


 僕と梓の声が重なる。


「今日の夜さ、親いないんだよね。……それに寂しいし」


 遥香の顔を見て、僕は何かを察する。


「ああ、分かった。梓、今日泊まってきても大丈夫?」

「えっ、あっ、そんな……」


 僕が遥香の提案にのることを決めると同時に軽く絶望的な顔をする梓。


「えっ、ちょっと大丈夫か?どうした梓」

「あっ、折角決めたのに……」

「えっ?何を」


 目を少し閉じて深呼吸をする梓。


「……いえ、何でもないです。取り乱してしまいすみません」

「いや別に大丈夫だけど……、取り敢えず家まで送るよ」

「いえ大丈夫です。一人で帰るので」


 そう言い終わるや否や、タッタッタッと駆け出していってしまう梓。


 咄嗟に追いかけようとした時に遥香に服を掴まれる。


「蒼熾」


 彼女は首を横に振る。


「女子には一人になりたい時もあるの。だから今はそっとしておいてあげて」

「……そうか」

「それじゃあ行こう」

「……ああ」


 彼女の去っていった方向を僕はしばらく眺めていたが、僕はそのまま背を向けて遥香に付いていった……。





「はぁはぁ……はぁはぁ……、蒼熾くん、蒼熾くん、蒼熾くん、蒼熾くん、蒼熾くん……」





———————————————


次回、梓さん視点

第二章ももう終わりですね……(短)

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