第28話 僕と彼女たちと小競り合いと①
「やっぱり人多いな……」
土曜日のショッピングモールということだけあってお客さんの数がかなり多い。
それに先程からやけに人の視線を感じる。羨望の眼差しから嫉妬の眼差しまで全て。……二人の美少女と手を繋いでいれば当然と言えば当然だが。
周りからは僕は一体どう見えているのだろうか?
二人の美少女を侍らすクズなのか、それとも僕がどちらかと付き合っていてどちらかはその女子の友達というものなのか。はたまた、ただの女子二人の荷物持ちか。
この際、どれでも構わないが一つだけ言いたいことがある。
歩きにくい。遥香は僕に体をピッタリとくっ付けてきているし、梓は梓で僕の手を掴んでどこかあわあわとしている。
ただ、遥香にそれを伝えても、ええ別にいいじゃ~んと言って更にくっ付いてくるだけだし、梓に伝えれば伝えたで申し訳なさそうに離れていくので言いにくい。
「それで今日は何をするんだ?」
計画の立案者である遥香に尋ねる。
「取り敢えず今日は服選んで欲しかったのと、蒼熾のコーディネートしようかなって」
「遥香の方はいいとして、僕の方は別にやらなくてもよくないか?」
「よくない」
「ええ……」
僕の発言はあえなく一蹴されてしまう。
「それで梓は?」
「私はその……蒼熾くんと一緒に見て回りたいな~ってだけでしたけど、多分立花さんと同じような感じです……」
「じゃあ、取り敢えず二人の服を見に行くってことで良い?」
「ええ」
「はい」
そうして僕たちは主にレディースの服を取り扱っているところに移動した。
「蒼熾、私に似合いそうなの選んでよ」
「えっ、僕? いや、そういうの本当にセンスないから……」
「ううん、そうじゃないの。蒼熾に選んでもらったやつがいいの。それなら何でもいいから」
「そうか……? じゃあ、無難にあれとかかな」
そうして僕が指差したのは近くのマネキンが着ている緑色に花のデザインの入ったワンピース。
「じゃあ着てくるね! ちょっと待ってて!」
「ああ、分かった」
遥香はその服をマネキンの隣からとると物凄い勢いで試着室に入っていく。なんであんなに行動が早いんだ……。
若干呆れ気味に彼女が入っていった試着室を眺めていると、蚊帳の外に置かれていた梓によって控えめに僕の服が引っ張られる。
「あの、蒼熾くん……」
「ん? 何?」
「その……私のも選んでもらえませんか? 立花さんが終わった後でいいので……」
「さっきも言った通り、本当に選ぶセンスないけどそれでもいいなら」
「ありがとうございます! お願いします!」
なんとなく辺りを見回して梓に似合いそうな服を見繕っていると着替えた遥香が出てくる。
「蒼熾、どうかな?」
「うん、大人っぽさも出てて僕的にはいいと思う。一般的にどうなのかは分からないけど」
脳内で思い描いていた通りの遥香が出てきて、素直にグッジョブと親指を立てる。
「蒼熾が似合ってるって言ってくれたし、これ買おうかな」
「いいのか、他のを試さなくて?遥香の好みとかあるんじゃないのか?」
「蒼熾が最初に似合いそうだと思って選んでくれたのだから大丈夫」
「そうか」
遥香が試着していた服を脱いでいる間に梓に似合いそうな服を持ってきた。
「これとかどう?」
梓にはベージュのオーバーオールと白のブラウスを手渡した。
「じゃあ着てきますね」
梓も僕から受け取るとそそくさと試着室に入っていく。
一人になったところで辺りをもう一度見回す。
女性しかいない。カップルで来ている男性もいていいと思うのだが運悪くいない。
女性の視線をすべて浴び、アウェー感を味わっていると着替えを終わらせた遥香がくっ付いてくる。
「あれ? 二上さんは?」
「今試着室」
「ふーん、そうなんだ。じゃあしてもいいよね」
「えっ? 何w!?」
彼女は僕の頬にキスをしてくる。
「ちょっ、いきなり」
「アハハ、我慢できなくてしちゃった」
そう悪戯げに笑う彼女を見ていると何かを言う気は失せていった……。
「やっぱり、そうですよね……。蒼熾くんは立花さんと……」
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