第26話 僕と彼女と明日はおでかけと
結局、そのあと僕はそのことについて触れられずにバイトだからと言って彼女の家を出てきた。
彼女は僕のことが好き。
朝、教室でしたキスも好きだから。
考えれば考えるほど分からなくなる。
結局分かりやすくと言って彼女がした僕へのキス、そして告白も答えに繋がっているのかもしれないが、少なくとも彼女が好きだからキスをしたというのは彼女の目を見た結果、なんとなく違和感を感じた。
それに彼女がその前に言っていた間違いなくもうその成分に侵されちゃってる女の子がいるのという言葉。それも遥香のことかと思ったがそうするとその後の言葉と辻褄が合わない。
更には最後に彼女が僕に言った彼女の好きという言葉自体も僕を悩ませていた。
その言葉は今までの行為、遥香との関係全てについて考え直さなければならなくなるものだから。
「ああもう、どうすればいいんだろうな……」
答えの出ない問題について考えるのが面倒くさくなり、思考を放棄するためにも僕はバイト先まで全力で走って無心で仕事をこなし始めた。
翌日からの学校で遥香は特に僕からの答えを待っているわけではなかったからか、僕にわざわざ絡んでくることもなかった。
放課後、メールで呼び出されても体を重ねるか一緒にゲームをするだけ。
何もなかったことにしたいのか、それとも彼女自身も僕と同じようにこの関係が壊れるのが怖いのかは分からないが、少なくとも遥香に何か言われるよりは楽だったので僕も何もなかったふりをしていた。
そして金曜日、僕がバイトをしている時だった。
「あの……、お会計お願いします」
今日もお客さんがあまり来ずに暇だったときに、梓がやってきて前回借りにきていた作品のリメイク版にあたるホラー映画をカウンターに持ってきて僕に手渡す。
後ろに並んでいるお客さんがいないのを見ると財布の中を弄りながら彼女はそっと僕の耳元で囁く。
「夜ご飯のあと、これ一緒に見てくれない?」
「ん、別にいいけど」
「ありがとう、蒼熾くん。じゃあお仕事頑張ってね」
夕飯作って待っているねと言って帰っていく彼女。彼女が手を振っているので僕も振り返っていると唐突に背後に気配を感じて振り返る。
「牧田くん、あんなこと言ってたわりには良さそうじゃん」
「……急に背後に現れて驚かすのはやめてください、赤池先輩。……それで何がですか?」
「あの子との関係」
「……まさか」
「……牧田くんが何を思っているのかは知らないけど、少なくとも私には」
「赤池さーん」
「あっ、はーい。今行きまーす。まぁ、とにかく頑張ってね」
僕たちと同じタームに入っている同僚に赤池先輩は呼ばれて、僕の肩をポンポンと叩いて一番いいところを前にしていなくなってしまった。
先輩は何を言おうとしていたのか気になったが、新たにお客さんが来たのもあって聞かなかったことにして僕は仕事に戻った。
家に帰り、夕食を食べたあとに梓と並んでビデオを見る。
部屋を暗くして雰囲気を出して見ていたこともあって何が起きるのか分からない不気味な場面でビクビクと体を震わせて僕の手を掴んでいたり、急にゾンビが現れたシーンでキャー!と叫んで僕に抱きついたりしてくる。その時に彼女の柔らかい部分が腕に押し当てられてどこか居た堪れない気持ちになりながらも無心を装い、その映画を見終わる。
「やっぱりこっちの方がいいなぁ……」
「リメイク版の方が?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
歯切れの悪い彼女を見つめながらなんとなくスマホを手に取ると遥香からメールが入っていた。
『明日買い物に付き合ってくれない?』
ここで断って変に拗れるのも嫌なので素直にOKと送る。
いつの間にか後ろにいたのか梓が声をかけられる。
「蒼熾くん、明日って予定空いてる?」
「あっごめん、今ちょうど予定入っちゃって……」
「そう……その……もし立花さんと行くなら私も一緒に行っていいかな?」
「えっ? それは聞いてみないと分からないけど」
梓も連れて行っていいかと送ってみると既読が付くも中々返信が来ない。どうしたものかと思って、ソワソワしている梓をぼうっと見ていると短くいいよと送られてきた。
「いいよだって」
「本当ですか! ありがとうございます。それじゃあ、明日楽しみにしてますね! おやすみなさい」
梓は僕の言葉を聞くと嵐のような勢いで寝室に入っていってしまった。
楽しみか……。何故か少し嫌な予感がした。
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