第24話  僕と彼女たちと困惑と

 なんで、いきなり……?


 そう遥香に尋ねようとするも動揺しすぎてか、口がパクパクとして空気が漏れ出るのみで声は出てこない。


 目の前の席に座っている陽介は目をパチパチとさせて僕と遥香のことを見ている。


 遥香はしばらく僕のことをその場で見つめていたがしばらくすると席に戻っていく。


 それを皮切りとしてクラスメイトたちの時間が動き始めて、教室が湧き立つ。


「蒼熾……、お前天使様と付き合ってたのか……」

「いや、ちが……」

「うわぁぁぁぁぁ、俺たちの天使様がぁぁぁぁ!」

「チクショオオオオオ!なんで牧田なんだ……ってそれは聖女様のこと助けてるから何も言えないけどよぉ」

「幸せにしてやってくれよ……」


 この僕と遥香の関係、それを僕はセフレだと思っていた。ただ、クラスメイトにそんなことは伝えられない。……それじゃあ僕たちの関係って一体何だと言えばいいんだ?


 ただの元カノと言うのも違うし、ただ付き合っているというのを肯定するのも否定するのも違う。


 僕がそんなことを悩んでいると今度は梓が突然音を立てて立ち上がる。


 梓はゆっくりと僕の元に近付いてくる。


 物凄い既視感を感じていたが、梓は僕の机の前まで来たところで突然身を翻して教室を出て行ってしまった。


「ちょっと、梓!」


 先程から少し頭を抱えていた柿崎さんが梓の後を追う。


「なんだ?」


 陽介がそんな梓の様子を見て首を傾げる。


 追うべきかと思い立ちあがろうとした瞬間、僕のスマホに遥香からメールが届く。


『放課後、教室で』


 今までにない文章が送られてきたことで、梓のことを考え始めていた脳内は遥香のことに切り替わり、僕は椅子に座り直して再び悩み始めた……。



「……し、おい、蒼熾」

「えっ?何?」

「お前当てられてる」


 授業中、陽介の指摘に釣られて、慌てて黒板を見ると確かに僕が指されている。


 勢いよく立ち上がって数式を見るも授業を聞いていなかったので何もわからない。


「すみません、分かりません」

「ああ、分かった。ぼうっとしてないで授業はちゃんと聞いとけよ」

「……はい」

「じゃあ、代打立花」


 授業中も先程のことをずっと考えていていまいち集中しきれていなかった僕は傍目に遥香はスラスラと黒板に答えを書いていく。


 されたのは僕側だからした側の遥香が動揺することはないのか……。


 そのとき、ふと鋭い視線を感じてそっと斜め後ろを振り向くと、梓と視線が合う。ただ、僕と視線が合ったと気づいたのか梓の視線は僕から逸らされ黒板に向いてしまう。


 ……どういうことなんだろうな。いくら考えても分からないことに僕は一人ため息を漏らした。



 中休みが始まるとともに遥香にメールを送ったが、放課後教室と送られてくるのみだった。仕方ないのでそこまで待つことを決めるも、チラチラと僕と遥香のことを見てくるクラスメイトの視線を感じて、今までの人生で一番の居心地の悪さを感じていると同級生と思わしき男子とクラスメイトが僕の元にやってくる。


「どう、牧田か?」

「いや……、どうだったかな……正直天使様のことを見てたからあんまり覚えてないんだよな……」

「……何の話?」


 僕の目の前で話を始めた癖をして僕を蚊帳の外に置いて話す二人に尋ねる。


「いや、こいつが遊園地で天使様とデートしてる男を見たって言ってたから牧田なのかなって思って」

「それ、蒼熾だよ」


 突然割り込んできた遥香はそう言って僕の前髪をあげる。


「こんな感じだったでしょ」

「ああ、確かにこんな感じだった気がする」

「ってことはやっぱりデートだったのか……」

「……」


 それは本当に否定しにくい。実際、梓にもそう言われて僕も意識していたから。


 それを聞いてキャーと叫ぶ女子を傍目に僕はまた薄暗い視線を斜め後ろから感じていた……。

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