第20話 僕と元カノと戻ってきた彼女と
今日の夜から梓が帰ってくることを遥香に告げると少し目を瞑って何かを考えている様子だったが、短く「そう」とだけ言うとまた僕の胸の中に頭を押し付けてくる。
なんとなく手持ち無沙汰になった手で彼女の頭を撫で続けている内に彼女のお腹がくぅっと可愛らしい音を立てる。
たちまち彼女がポッと顔を赤らめさせるのを見て思わず笑ってしまう。
三回もすればそれはお腹が空くよな。
「ちょっと早いけど昼ご飯にしようか」
「……うん」
料理をするのには時間がかかるのでお湯を沸かして注ぐだけで食べられるカップラーメンを二人で食べた。
結局その日は食後も遥香の家にいて日が沈むまでゲームをしたり、ゆっくりくっ付いたりして遥香の家でのんびりと寛いでいた。
日が沈んだ後に、遥香に見送られて家を出ると梓が何時ごろに僕の家に帰ってくるのか分からないけど夕食の準備くらいしておかなきゃなと思い、家まで軽やかな足取りで走る。
そして、いざ家の前に着いてみると既に灯りが点いていた。
まさか……と思いながら家の中に入ると唐揚げと思わしき美味しそうな匂いが漂ってくる。
それと同時にパタパタという三日ぶりのはずなのにやけに久しぶりなように思えるスリッパの音。
「おかえりなさい、蒼熾くん」
エプロンを着けたニッコリと微笑む梓が立っていた。
「ただいま? 梓」
本来は僕が言おうと思っていたおかえりという言葉を先に言われてしまい、少し後悔する。もう少し早く帰ってくるんだったと。
「もうすぐ夜ご飯の準備ができるので待っててください。あっ、お風呂に入っちゃってても大丈夫ですよ」
僕は想像していたよりも元気な姿に安心しながら、彼女の好意に甘えて頷く。
「うん、ありがとう。じゃあ入っちゃうね」
僕がお風呂から上がると既に夜ご飯の準備が出来ていて彼女は座っていた。
「ごめん、待たせちゃって」
「ううん、今出来たばっかりですから。……いただきます」
「いただきます」
先程も思ったが、目の前に梓がいるのが懐かしく感じる。
なんかやっぱりいいなぁと一人でしみじみと思っているうちに夕食を食べ終わり、食器を洗っているとお風呂に入っていた彼女が僕の元に寄ってきて頭を下げてくる。
「改めて蒼熾くん、一昨日は私のことを助けてくれてありがとうございます」
「いや、別に……」
「あの時の蒼熾くんはカッコよかったし……それに……ごめんなさい蒼熾くん、一回思いっきり抱きしめてもらってもいいですか?」
「えっ? ああ、それくらいならお安い御用だけど」
洗剤の付いた手を洗い流し彼女のことを抱き締めると彼女も僕の体をギュッと抱きしめて返してくる。
「ん、……やっぱり温かい……それに蒼熾くんのいい匂い……」
「ん? 何か言った?」
「ううん、何も」
五分ほど静かに抱きしめ合っていると梓が僕の胸の中から僕のことを見上げてくる。
「蒼熾くん、その……明日一緒に学校に行きませんか?」
「えっ? ……別にいいけど」
「約束ですよ、じゃあおやすみなさい」
彼女は手を振って寝室に入っていく。僕も皿洗いを終わらせると寝室に入ったが、明日一緒に登校するということで、明日の遠足を楽しみにする幼稚園児のように興奮して中々眠りにつけなかった……。
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