第19話 僕と元カノとあの日のことと
あの事件から早くも二日が経った日曜日。
あの後、羽原は不同意性交等罪、及び住宅侵入罪などで逮捕された。
現場にいた僕たちも警察に事情を聞かれたが、特に何も問題はなかった。
ただ事件のことを聞いて海外から急遽、梓の両親が戻ってきたため、今梓は梓の両親とともに梓の母親の実家にいる。
それにより梓の昨日のバイト終わりの出迎えも、梓と一緒にご飯を食べる時間もなくなり、僕の家には今、僕一人しかいないんだなということを強く感じさせられる。
梓がいるのが当たり前だったから寂しいな……。家が無駄に広く感じられる。……まぁサイズとしては一人で住むには大きいから当たり前ではあるのだが。
そのような生活も二日目となり、一人で静かに朝食を食べていると突然遥香からメールが来た。
『今から会えない?』
何か予定が入っているわけでもないので、いいよと返すといつでもいいから家に直接来てと送られてきた。
朝食を詰め込み、家を出て遥香の家に行くと彼女は深刻そうな顔をしてソファーに腰掛けていた。
少しその遥香にしては珍しい表情に緊張しながらその隣に僕が腰掛けると彼女はゆっくりと口を開いた。
「ねぇ蒼熾はさ、今私のことが嫌い?」
「……それは絶対にない」
「うん、それなら良かった」
「……いきなりどうした?」
「いや、ちょっと思い出しちゃってさ。一昨日のあれを見て」
「そうか……ごめん」
遥香は僕の謝罪に困った顔をする。
「別に蒼熾は悪くないじゃん」
「いや、でもあの時はもっとやりようがあった」
忘れようとしていたあの出来事。ただ、もう羽原によってそれは掘り返されてしまった。
約一年前に彼女が見知らぬ男に襲われたときのこと。
あの時も助けるまではよかった。ただ、その当時の僕はタイミングも悪く遥香の母親が亡くなったことにより僕に依存するようになった彼女が怖くなって逃げ出した。
その後すぐの僕の転校も相まって結局遥香とはそのことを話せずに有耶無耶になったまま今日まで来ている。
それに僕はあの時の彼女の「私の初めてを奪ってグチャグチャにしてよ」という言葉から逃げたにも関わらず、梓が付き合い始めた日から僕の中の失われた何かを埋めるために彼女と関係を持ってしまっている。
改めて見つめ直せば、なんとも自己中心的なものだと思う。
僕の真面目な顔を見て、彼女はクスリと笑った。
「じゃあさ蒼熾。あの時の続きしてよ」
「……もう初めてじゃないけど?」
「うん、お願い……」
その後、三回ほど彼女が達したところで僕たちはなんとなく抱きしめ合った。
あの日の分まで。
しばらく経ってから少し息の荒い彼女が僕の胸に頭を押し当てながら尋ねてくる。
「そういえば二上さんはどうなったの?」
「分からない。あのあと連絡が取れてないから」
大丈夫か?と尋ねるのは流石に失礼だろうし、かと言って逆に何を訊けばいいのかも分からずに何もせずにいる内にもう二日が経ってしまっている。
僕のスマホがメールの着信を告げる。
送ってきたのは今ちょうど話題に出ていた梓で、内容は今日の夜からまた僕の家に梓が戻ってくるというものだった……。
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