第18話 僕と過去と制裁と
ドアを開いた先には今まさに一番上のボタンを外されている梓とその梓に馬乗りになっている羽原がいた。
僕の登場で羽原は激しい動揺の色を見せた。
「なっ、なんで牧田が……」
「ん。んんーんんんーー」
梓の目からは酷い怯えの色が感じられ、それに加えて口に貼られたガムテープと頬を這う涙……。
それで羽原が何をやっているのかを全て察した。スマホを取り出して現場の写真を撮る。そしてそれと同時に録音もこっそりと始める。
「おい、羽原……。お前何をやっている? いや、やっぱり何も言わなくていい……。そうだな……」
次の瞬間に僕の口から出たのは自分でも驚くくらい冷たい声だった。
羽原がしでかしている強姦という行為。それは僕がこの世で一番嫌いな行為だった。
何故ならそれは——僕と遥香が別れることになった原因の一つだから。
「それ、犯罪だって分かってやってるのか? そうだとしたら大したものだが」
僕の登場で一旦は怯んでいた羽原だったが、少し落ち着きを取り戻したのか、またうるせぇ! 邪魔をしやがって! 写真を消せ! さもなければ、三度目の正直だ! と無意味な文字の羅列を叫んで僕に殴りかかってくる。
「もういいよ、つまんないから」
気付いたらその羽原の拳を躱して、未だに少し狼狽の色の見える羽原の首を掴んで壁に押し付けていた。
「グッ、ガッ、ウッ……」
僕の反撃で声になっていない呻き声をあげている羽原を冷ややかに見つめる。
「離、してくれ……」
「お前は梓にやめてと言われたときにどうした?」
「……」
その場面は見ていないが、どうやら図星だったようで下唇を悔しそうに噛んでいる。
「腹と頭とどっちがいい?」
「何……がだ……?」
「殴られるの」
「……」
「やっぱり男の急所にするか」
「やっ、やめてくれ……」
そのすっかり怯え切った様子をせせら笑う。
「だから、さっき言っただろ。お前がやめてって梓に言われたときどうしたのかって!」
あの日のことを自嘲気味に思い出しつつ、羽原の急所を思いっきり蹴り上げようとした瞬間、僕の背中が温かく柔らかい感触とともに思いっきり抱きしめられた。そして更に、
「やめて……」
と僕の腕には顔を押し付けるように遥香がしがみ付いてきた。
「梓、遥香……どうしたの?」
口にガムテープが貼られていてまだ話せない梓ではなく遥香が答えた。
「それ以上は本当に……殺すまでやっちゃいそうだから駄目……」
「……殺しはしない。……ちょっと男としては死ぬかもしれないけど」
「蒼熾が暴力を振っちゃったら過剰防衛になっちゃうから……、またいなくなられるのは嫌……」
この遥香の言葉で僕は少し落ち着きを取り戻した。
目の前に犯罪者がいる。その場合はどうするべきか。
一旦、警察を呼ぼう。警察に電話をするために羽原から手を離すと羽原は呆然としてしまったのか、そのまま床にペタンと座り込んでしまう。
警察に通報をして、梓と遥香の方を向く。
彼女たちは女子同士で抱き合っていたが、僕が彼女たちの方を向くと二人とも抱きついてきた。
僕は体の震えている二人を警察が来るまで黙って抱きしめて頭を撫で続けた……。
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