第17話 私と元カレと【二上梓視点】&僕と彼女と犯罪者と
「なっ、何?」
恐怖で震える声を抑えてなんとか声を出す。
なんでいきなり蓮が?
それに蓮のこの血走った目、嫌な予感しかしない。
「梓に会いに来た」
「えっ? ……何を言ってるの?」
「この前言ったじゃん、話したいって。……責任を取ってほしいって」
そう言いながら蓮が後ろ手にドアの鍵を閉める。蓮のことを見ながら尻餅をついた状態のままゆっくりと引き下がる。
「これで邪魔が入る可能性も無くなったな。……もう二回も牧田に邪魔されてるんだ……今度こそは……」
二回ってどういうこと?いや、今はそんなことより早くここから逃げなくちゃ……。
少しずつ後ずさっている私の足を蓮は掴んだ。
「何逃げようとしてんの? この家には今、梓と俺しかいないよ」
その言葉は私の恐怖を煽るのには十分だった。
「いっ、今すぐ出てって!ここはあなたの家じゃないでしょ」
「まぁそうだけどさ。梓、今自分がどういう立場か分かってる?誰が有利な立場なのか……」
私は理解しているからこそその場で縮こまって震えることしか出来なかった。
「自分から股を開いてくれたりすればあんまり痛くせずに終わらせられるんだけど」
「嫌、絶対に……そんなことはしない」
「そうか……、じゃあ仕方ないよね」
蓮は私の上に跨がり足を抑え込み、右腕で私の腕を押さえつけると私の制服に手をかける。
「いやぁっ! やめて!」
「あんまり暴れるなよ。脱がせにくいから」
精一杯抵抗しようとするが乱暴に抑えつけられてしまう。残念ながら女子の腕力では男子には敵わない。
「なんで……、なんでこんな酷いことをしようとするの?」
「それは自分の胸に聞いてくれ。というか騒がれちゃ堪らないな、鍵閉めているとはいえども聴こえて通報されちゃったりしたら困るしな」
蓮は予め用意しておいたのか、鞄からガムテープを取り出して私の口に取り付ける。
「んー、んんんー」
「まぁ、これくらいなら許容範囲か。それじゃあ、始めようか」
蓮は再び私の制服のボタンに手を伸ばす。
そこで私は思わず涙を流し始めてしまった。
なんでこんな男のことが好きだったんだろう? 絶対に……絶対にもっと誰かカッコいい人がいるのに……。
誰か……じゃない。お願い、蒼熾くん、助けて……!
私は大切な、この状況から私を救えるだろう唯一の存在である彼の名前を心の中で必死に叫んだ……。
♢
「疲れた……」
放課後、昼休みに遥香から『放課後、公園で』というメールを受け取った僕は図書館で目当ての本を借りてからいつもの公園に向かっていた。
公園に着く前に突然肩を叩かれる。
「蒼熾」
「ん? 遥香? まだ公園じゃないけど……」
「時間の無駄でしょ……それと久しぶりに蒼熾の家に行きたいんだけど大丈夫?」
「梓がいると思うけど大丈夫?」
梓は羽原とタピオカ屋の前で遭遇して以来、あまり放課後に外に出かけることがなくなった。
「うん大丈夫、というよりむしろ居てくれた方が嬉しいかな」
居てくれた方が嬉しいってどういうことだ?と思いながらメールで梓に家に遥香を連れて行っても大丈夫かと尋ねる。
大丈夫と返信が返ってくるとその旨を遥香に伝えて僕たちは家に向かって歩き出した。
「……最近梓さんとはどうなの?」
「どうって……特に何もないけど」
「そうなんだ、うん、……良かった……」
最後の方は声が小さくて聞きとれなかったが、それよりもどうしたんだろうか……。いつもは公園で集合して何も話さずに、会話をしたり行為に及んだりするのは家の中に入ってからなのに。
そんなことを考えているといつの間にか僕の家の前に着いていた。
鞄から鍵を取り出そうとした瞬間。何か唐突に嫌な予感が僕を襲った。玄関から……二人の気配……?
光の速さで鍵を開けて僕は勢いよくドアを開け放つ。
そしてその玄関に広がっていた光景を見たその時、僕の脳内は真っ白に染め上げられた……。
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