第16話  私と元カレと蒼熾くんと【二上梓視点】

 彼の浮気を知ったときはショックだったが、よく考えてみたら確かにその兆候はあった。


 彼の家にいった日にそういうことを求められた。結婚するまでは駄目と断ったその日から、今日は一緒に帰れない、遊べないと断られたり、蓮がスマホを一人で弄る回数も増えていたりした。


 ビデオを借りに行って蒼熾くんと会った時にも、一人外に立ってスマホを弄っていたしね……。


「うーん……」


 最近、私の頭の中を埋めているのがその蓮のことと、残りが蒼熾くんのことだ。


 つい先週、友達と遊びに行ったときに突然現れた蓮から守ってくれた。


 怖くて振り払うことも出来ずに助けを求めたときに助けてくれたのは蒼熾くん。私が出来なかった蓮の腕を振り払うということをいとも簡単にこなしてた。そしてその後、蓮に立ち向かっていた姿は……カッコよかった……。


 私がうんうん唸っているからか一緒に帰っている友達、柿崎乃亜かきざきのあが私のことを不安そうに見つめてくる。


「どうしたの?梓。何か悩み事?」

「えっ、ううん。別にそういうことじゃないんだけど……」

「そうなの?悩みがあったら教えてね。相談に乗るから」


 最近、蓮と別れてからどこからか変な視線を感じることが多かったので家の方面が同じ乃亜と一緒に帰ってもらっている。


 今日は視線を感じていないが……、やはり不安だった。蒼熾くんに相談したら助けてくれそうだけど……彼の優しさにつけ込んでいるようで少し頼みにくい。


 一人で悩んでいるうちに乃亜と別れる十字路まで来てしまう。


「じゃあ、梓。バイバイ」

「うん、ここまでありがとう乃亜。じゃあまた明日ね」


 手を振って別れると今までの蒼熾くんのことを改めて振り返る。


 私が蓮の浮気の場面を見つけて、辛く呆然としていたときに私の話をゆっくり聞いてくれてそっと寄り添ってくれた。


 泣きたかった私のことを優しく包み込むように抱きしめてくれた。


「あのときの蒼熾くん、温かったな……」


 それに私にかけてくれた言葉も私に対する気遣いで溢れていて……。


 ううん……というかなんでこんなに頭の中から蒼熾くんのことが離れないんだろう……。


 ポケットの中にあるスマホがメールの着信を告げる。


 待ち受け画面には「蒼熾くん」という名前。その名前を見るだけで思わず小躍りしたくなってしまう。


 メールの中身はざっくり今日、家に立花さんを連れて行ってもいいかと問うもの。


 そうだよね……、蒼熾くんには立花さんがいるもんね……。


 って本当に何を考えているの?私は。私らしくない、今日も授業中少しぼうっとしてしまったししっかりしなきゃ。


  大丈夫だよと送り、ポケットから鍵を取り出し、鍵を開けて家の中に入った時だった。


 突然背中をドンと押されて思わず前に倒れ込んでしまう。


 えっ?急に何と思いながら後ろに目を向けると、そこには血走った目をしている蓮が立っていた。


「よう、今……一人なんだな」


 それはとてつもなく嫌な響きのする、背中がゾクリと震えるような声だった……。




———————————————


午前中なので朝投稿ということでお願いします。

今日の夜も頑張って更新します……

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