第14話 僕と彼女と裏切り者と
放課後、遥香の家に寄ってから帰ると、いつもより少し長居してしまったのもあって空が少し暗くなり始めていた。
僕の家の前に着いてみると明かりは点いていなかった。まだ梓は帰っていないのか、なんて思いながらドアを開けた僕は思わずギョッとしてしまった。
そこには僕に背を向けるようにして黒い髪の女性が立っていたからだ。
「梓……? 何してんの?」
「……」
梓は振り返って僕の方を少し困ったような顔で見てくるだけで何も言わない。
「取り敢えず暗いから電気点けるぞ」
「……」
なんというか物凄く気まずい。
「取り敢えず玄関から動こう。ここじゃ何も出来ないから」
ほらと彼女をリビングまで誘導する。
彼女と向かい合って座り、改めて尋ねた。
「梓、一体何があったんだ? 教えてくれ」
「……」
「別に話したくないならいいけど、一人で抱え込むくらいなら誰かにその思いを吐露した方が楽になると思う」
しばらく僕たちの間で沈黙が流れる。
「……どうせ知られる話だからね。……ちょっと重い話だけどいい?」
「ああ、もちろん」
僕が聞く体勢になると、彼女はポツポツと語り出した。
「今日の放課後、蓮と帰るのを誘おうとしたら断られて、他の友達と遊びに行ってたの」
「……」
「そしたらさ、その帰り道で蓮が別の知らない女の子と歩いてるのを見かけちゃってさ」
「……」
羽原あいつ……、別の女子にも手を出していたのか……。こんなに羨ましい程可愛いカノジョがいるのに。
「それでさ、蓮に詰め寄ったの。何してるの?って。そしたらちょっとした修羅場になっちゃって。そこにいた女の子は私と蓮が付き合っているのを知らなかったらしくて、私とその女の子が二人で詰め寄ることになって。そこで私に対して蓮はさ、ヤれない女と一緒にいる価値なんてないって……」
「……なんだよそれ……」
羽原のあまりに一方的な行動に眉を顰める。
「やり直したいなら、取り敢えずヤらせてよって言われたから、さよならって言って家に帰ってきた」
「……」
僕はもう二の句が告げなくなっていた。羽原のあまりの酷さに。
「なんか分からなくなっちゃてさ、間違いなく今日のあの瞬間までは好きだったのに。特別な存在だったのに。あれを見てこんなことを言われたらどんな顔をすればいいのか。蓮のことをどう思えばいいのか」
「……」
「ごめんね、こんな話して。蒼熾くんには関係ないのに」
「……なわけないだろ」
「えっ?」
梓は僕に今日初めて負の感情以外の表情を見せた。ちょっと驚いたようなそんな顔。
「一緒に暮らしてるだろ。もう一年も。少なくとも他人っていう関係ではないと思うんだ。それに僕が聞いたことなんだからそんなこと思ったりするわけないだろ」
「……」
「後悔はしたくなかったから。一人でずっと苦しまれるのも困るし」
「……」
「まぁ、僕に出来ることならなんでもするから気軽に言ってくれ」
「……ありがとう。それならさ、ちょっと疲れちゃったから、……胸貸してよ」
「……どうぞ」
彼女は僕のYシャツを掴むと控えめに僕の服を濡らし出した。
僕は彼女を静かに抱きしめた。
胸の中にいる彼女の体は小さかった。そんなことを感じながら僕はあることを一人思い返していた。
遥香に体で慰められたあのことを。
そんなことを考えていたからだろうか、彼女が何かを呟いているのに僕が気付くことはなかった……。
「蒼熾くん……暖かい……」
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