第13話  僕と元カノと昼食と

「こうして一緒にご飯を食べるのも久しぶりだね〜」

「遊園地で食べたけどな」

「学園でっていう話」


 僕のツッコミに不満げに僕の頬を引っ張ってくる。


「痛っ……くないな」


 引っ張ったかと思ったら遥香は僕の頬をぷにぷにと少し伸ばしたり優しく摘んだりするだけだった。痛いわけではなく、どちらかと言えば気持ちいいの部類に入ると思う。


「……なんか悔しい」

「いきなりなんで?」

「いや、頬っぺた柔らかいの羨ましいなぁって」

「いやいや、男のなんかより遥香の方が柔らかいだろ。ほら、こんなにぷにぷにして……ってごめん」


 無意識の内に彼女の頬を触っていたことに気付いて慌てて手を離そうとする。


 だが、そんな引こうとする僕の手を彼女は握って離さない。


「蒼熾の好きなようにしていいって言ったよね。だから好きなだけ触ってていいんだよ」


 彼女は彼女の手が僕の腕を掴んでいるのに気付いているのだろうか?取り敢えず、何となくぷにぷにと弄り続けた。


「蒼熾は私の頬っぺたそんなに好きなんだね」

「……」


 遥香に僕の手が逃げられないようにしっかり掴まれてるから弄っているんだ。そう思いながらも気持ちよくて彼女の頬を触るのが癖になっている自分もいるので何も言えない。


「ねぇ、蒼熾。頬っぺただけじゃなくて別のところも触っていいんだよ」


 彼女が僕の腕を離して、少し色っぽい雰囲気を醸し出したところでひとまず静止の声をかけた。


「取り敢えず昼ご飯先に食べちゃわないか?」

「あっ、そうだね。忘れてた……」


 彼女のスイッチが入ることを何とか阻止した。下手に入ると僕も引き摺り込まれちゃうから気を付けなきゃな……。


 ベンチに並んで二人でお弁当を食べていると彼女が僕の手元をじぃっと見つめてくる。


「そのお弁当って誰が作ったの?」

「今日のは梓」


 基本こちらも朝・夕食と同じく当番制だ。


「ふーん」

「……」


 ちなみに今日の昼食は昨日の夕飯の残りのポークソテーがメイン。


 彼女と話しながら食べているといつのまにか食べ終えてしまい、隣に座っている彼女が少しモゾモゾとし出した。


「蒼熾……、今ならさ誰も見てないよね」

「多分そうだな」

「それならしてほしいことがあるんだけどいい?」

「……何かによる」

「その……、私シタくなってきちゃったんだけどさ」

「……何を?」


 僕はそんな遥香の様子に気付かないふりをする。僕がここで今考えていることを彼女がしてほしいんだとすれば、僕がここで流されてしまったら見つかった場合、お互い少なくとも停学にはなるだろう。


「何をって決まってるでしょ。蒼熾のが欲しいの」

「僕の何が?」

「それは……って分かってるでしょ。急に焦らしプレイ始まったの?」

「それは本当に意図してない。ここ学校なの分かってるか?」

「分かってるよ、でもどうしても欲しいの」


 彼女の顔がいつの間にか火照っていた。その顔が僕に近づいてきて吐息が僕の耳をくすぐる。彼女の温かい体が僕に押し当てられる。


 気付けば僕もいつの間にかこの状況に興奮してしまっていた。欲望に忠実になっていた体を鎮めるために深呼吸をする。


 落ち着け、僕。ここは学校だぞ流されるな。意識をしっかり持て。


 彼女の肩を抑えてゆっくり説得する。


「遥香、こういうのは今日遥香の家に行ってからにしような」

「なんで〜、今でもいいじゃん」

「ほら、代わりのことならするから、それで我慢してくれ」

「仕方ないな〜、じゃあ膝枕して。髪の毛撫でながら、その間ここ強く掴んどいて」


 ここと言って彼女が指差したのは羽原に掴まれていた部分だった。


「掴んだら逆効果じゃないか?余計に痛くなるんじゃ……」

「蒼熾が掴むと違うの。絶対に離さないでね」

「……分かった」


 チャイムが鳴るまで左手で彼女の腕を握り、右手で彼女の髪の毛を撫でていた。彼女の髪はふわふわしていて撫でるたびに日頃使っているのであろうシャンプーもしくはコンディショナーと思わしき匂いが僕の鼻腔をくすぐる。


 いい匂いだ。なんというか女子の匂いがする。


「なんか、蒼熾の撫で方って優しいよね」

「そうか?」

「女子のことが分かってる撫で方な気がする」


 その後も一しきり撫でていると予鈴を告げるチャイムが鳴り、彼女はゆっくりと体を起こした。


「ふぅ、蒼熾ありがとう。ちょっと落ち着いた。じゃあ放課後で、またね」

「ああ、また後で」


 彼女は少し満足した顔を見せて、バイバイと手を振る。


 一緒に食べていたのがバレないように彼女が先に階段を降りて行った一分後に僕も階段を降りて教室に戻り、午後の授業に身を投じた……。

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