第11話 元カノと大事な人と
週明けの月曜日。僕が学校に登校すると何故かクラスメイトの男子たちが俺らの天使様が〜と騒いで涙を流していた。
ジト目を向けながらも何が起きているのか興味をそそられた僕は僕の席の前で同じく悔しそうな顔を見せている陽介に声をかけた。
「おはよう、陽介。これどういうこと? 何が起きてるの?」
「……俺らの天使様が、俺らの天使様に彼氏が……」
さっきからそれ以外誰もまともに言葉を発してくれないから何も分からないんだが?
「……だからどういうこと?」
話を聞いてみるとどうやら隣のクラスのやつが一昨日、遊園地で遥香と手を繋いで歩いている男を見たらしい。
……思わず冷や汗をかいた。地雷を踏むかも知れなかったが、僕には尋ねる以外の選択肢がなかった。
「それで相手は誰だったんだ?」
「それが誰だか分からないんだとさ」
「ふぅ……」
「? どうした? お前が安堵の息を漏らすところじゃないと思うんだが……はっ、お前まさか……」
非常に嫌な予感がした。全てを否定する準備をしておく。
「お前も天使様のことが好きだったのか……」
「……」
「黙るなよ。別に好きな人を知られたくなかったのは分かるし、ショックなのも重々承知だぞ。それでも受け入れなければいけないこともあるんだ……」
勘違いの加速とでも言うべきなのだろうか。陽介のセリフをそっくりそのまま陽介に返してやりたい。まず泣くのを止めてその涙を拭け。
グダグダとくだらない会話を陽介としていると遥香が教室に入ってくる。
その瞬間、男子たちの視線は遥香に向き、数人の女子が彼女の元に集まった。
「遥香〜、昨日遊園地で遥香のこと見たって人がいたんだけど、隣にいたのってあれ誰なの?彼氏〜?」
「……」
一瞬、遥香の視線がこちらを向いた気がして、思わず目を逸らす。
「あれ? 今、天使様が俺のこと見た……? まさか、デートに一緒に行っていたのは俺!?」
などと馬鹿なことを言っている陽介の言葉はスルーして、遥香の次の言葉に耳を澄ませる。心なしか今教室にいるクラスメイト全員の注意が遥香に向かっている気がする。
「彼氏……というよりはそれに似て非なるもの……というのが正しいのかな〜」
「ええっと……どういうこと?」
「言葉にするには難しい関係かな、でも……大事な人ってことは否定しないよ」
そう微笑んでいった彼女に男子からは悲痛な叫びが、女子からはキャーという興奮したような叫び声が上がった……。
その日の放課後、遥香の家に呼ばれた僕はいつも通り遥香と公園で集合して彼女の家に向かった。
彼女の家に入ると早速、訊きたかったことを尋ねた。
「遥香、見られてたんだな、あれ」
「そうだね、私は別にいいけど」
「……そうか。それで大事な人っていうのは?」
僕が一番気になっていた部分だ。
「文字通りだよ。それに大切じゃない人に体を許したり、家に入れたりしないから。……蒼熾だけだよ、こんなことしてるのは」
何故だか彼女のその言葉を聞いた瞬間、ゾクゾクと僕の背中を何かが這った。
彼女は僕の近くに寄ってきて、僕のことを抱きしめながら耳元で囁く。
「ねぇ、そーし。そーしは私のことどうしたいの?」
「……どうしたいって」
「前にも言った通り私のことはそーしが好きにしていいんだよ。ねぇどうするの?」
彼女のその言葉には魔力でも篭っているのか、僕の意識を掴んで離さなかった。
そんな中、彼女の言葉を遮るように僕のスマホが着信を告げた。
その音は急速に僕の意識を現実に引き戻した。僕は彼女から体を離して電話に出た。
『もしもし牧田くん?』
「はい、そうですが……どうかしましたか?赤池先輩」
『あのね、今日本当はバイトのターム入っている子がいたんだけど、その子が体調崩して急に来れなくなっちゃって。だから今から代わりに入ってくれない?』
「分かりました。今から急いで向かいますね」
『ごめんね、急に。今は混んでないからそんなに急がなくてもいいよ』
「取り敢えず今から向かいます」
『うん、お願い。じゃあまた後で』
電話を切り、未だに少しふわふわした目をしている彼女の肩を揺する。
「遥香、遥香」
「……ん?どうしたの?蒼熾」
もういつも通りの遥香だった。
「ごめん、今からバイト入らないといけないからもう帰る」
「ああ、うん。分かった。じゃあまた明日ね」
「ああ、また明日」
そう言葉を交わすと、彼女の家を出てバイト先まで走った。
「そーし、絶対にあなたは私の——。でも焦っちゃ駄目……、また失敗しちゃうから」
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