第9話 僕と元カノと遊園地と①
翌日、約束の時間の十五分前に僕は駅に着いていた。
流石に遥香はまだ来ていないようだった。ちょっと早すぎたか。とは言っても約束の十五分前に着く癖は付き合ってた時からだからな……。
そんなことを考えていると突然僕の視界が塞がれる。
「えっ?」
「だーれだ?」
「……」
こんなことをする性格じゃなかったんだけどなと密かに苦笑しながら彼女の手を退かす。
背後を向いてみれば僕が答えなかったことが少し不満だったのか、少し頬を膨らませている遥香が立っていた。
「女子のやってほしいことが出来ないのは点数低いな〜。ー五十点」
「なんだその点数は……」
「うーん……、蒼熾が二上さんに認められる点数?」
ちょっと気になる。
「……何点で合格?」
「千点」
「……」
彼女のことを改めて見つめる。いつものような制服ではなく、白のブラウスに赤色のロングスカート。腕には僕が付き合い始めたときに渡した銀色のブレスレット。
「服似合ってる」
「……一点?」
「……低くない?」
「褒め方がベタすぎるのと女子的にはもう少し踏み込んだことを言ってほしいのよね〜」
「……大人っぽくて綺麗で、それでいて可愛い。色の組み合わせが今の髪の色、雰囲気と似合っている。いいと思う」
「っ!……ちょっとはやるじゃない……三点」
彼女は顔を赤くして俯きながらもボソボソとそうこぼした。
やるじゃないと言いながら三点なのは酷すぎないか?千点はおろか借金返済でさえ遠そうなんだが……。
「……あなたも似合ってるわよ」
「……別に僕はほとんどいつも通りなんだが」
服自体はあまり変わらないが、髪は一応ワックスで整えてきた。
「最近は制服しか見ていなかったから新鮮だったのよ。それに髪もいつものボサボサじゃないし……もういい、早く行きましょ」
「ああ、ってちょっと待てよ」
とっとと僕を置いて歩いて行ってしまう遥香を追いかけるように改札を通る。
外で遥香と会うという行為からか、はたまた久しぶりに人のことを褒めたからかは分からないが、何となく彼女と一緒にいると恥ずかしかった。ただそれも電車に乗って揺られるうちに薄れていく。
「……まだ付けてたんだな、そのブレスレット」
先程は触れなかったが、電車内で特に話したいこともなかったので、彼女と集合したときから気になっていたことについて触れた。
「大切にするのが当たり前じゃない。蒼熾から初めてもらったプレゼントなんだから」
「……そうか」
どこか愛おしそうにそのブレスレットに触れる彼女を見ていると少し嬉しかった。
遊園地に着くと土曜日なだけあって、家族連れ、友達同士、そしてカップルなど多岐に渡る組み合わせでかなり多くの人が訪れていて、賑わっていた。
これはどれに乗るにしても並ぶことになりそうだなと思っていると突然、彼女から手を差し出された。
「何?」
「これだけ人がいるとはぐれちゃいそうだから」
「……別にそうなったとしてもスマホで連絡とって集合すれば」
「面倒じゃない。そういう風にごちゃごちゃ言うのはいいから、ー五十点」
少し強引な彼女に押されて僕は彼女の柔らかい手を握った。僕より小さくて、少し冷たい手だった。
♢
彼女と二人で外を歩くというのも久しぶりだった。最後に一緒に出かけたのは、もう一年以上も前になる。
更に、その時とは周りの目も違う。あの時のように、顔を見せないようにしていた隠れ美少女ではなく、今は一眼見てはっきりと分かる美少女だ。よく人目を集める。
その隣にいる僕は恥ずかしいとかではなく、どこかやりにくさを感じていた。変わってしまった彼女に気圧されているというかなんというか。更に彼女の隣にいる影響で僕も見定められるような感じがして、それを増長させていた。
……なんで見定められるとか思ってるんだ?遥香の彼氏でもないのに……。
そんな感情を抱きながらも連れ回されるようにコーヒーカップやジェットコースターなどに乗り、正午を回ったところで昼食をとることになった。
少し並びはしたがなんとかレストランに入り、メニューを手渡されるとそれをなんとなく眺めていた。
「蒼熾、何食べるの?」
「……オムライスにしようかな」
「うーん、じゃあ私キーマカレーにするから、半分こしよ」
「別にいいけど」
料理が届くと、僕の正面に座っている彼女はカレーをスプーンで掬い、ふーふーと息を吹きかけ、まず自分で一口食べてから僕にスプーンを向けてきた。
「あーん」
「……」
僕は彼女の予想外の行動に思わず固まって声を出せなくなってしまった……。
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