第7話 僕と元カノと、彼女と
中間試験があと一週間前に迫ったある日。
梓は彼氏と勉強してくるということでいなかったので僕の家に遥香が来ていた。
遥香が僕の家に来たということはそういうことだ。
最初は中間試験の勉強をしようと言ったくせに彼女に誘われて、なし崩し的に始まってしまった。
「はぁ……」
「ん、暑い……」
彼女の皮膚が布団の布と擦れる音がやけに色っぽい。もう夏も近くなってきていて僕たちの住む地域にもまもなくの梅雨入りが予想されているので暑いのは当然だ。……暑いのは僕たちの行為の残滓かもしれないが。
まだ少し早いとは思いつつも冷房をつけることを決め、エアコンのリモコンを取ろうと手を伸ばしたときに彼女の胸に僕の手が当たってしまう。
「ん……」
「あっ、ごめん」
彼女はそれでまたスイッチが入ってしまったらしかった。
「ねぇ、そーし? もう一回しない?」
「……勉強は?」
「……明日からやろ、ね」
学校でたたえている天使の笑みではなく少し僕に劣情を抱かせる上目遣い。
それに流されるように彼女を抱き寄せて二回戦が始まって少ししたときだった。
突然、彼女のあげる嬌声の中の別の声が聞こえてきた気がした。それとドアの開閉音。
びくりと僕は体を跳ねさせて遥香と繋がっていた体を引き剥がす。
僕に向けられる発情しているのが分かるトロンとした目。
「ん、そーし……。なんで?」
「ちょっと静かにしてくれ。……嫌な予感がする」
誰かが玄関で僕を呼んでいる声。それが梓の声だと気づくにはそう時間がかからなかった。
「蒼熾くん〜、誰かお客さん来てるの?」
僕たちの行動は早かった。
そこら辺に脱ぎ捨ててあった服を急いで着て、ベッドのしわを整える。
そんなことをしている内に彼女が僕の部屋に近付いてくる。
「ちょっと待ってて」
遥香にそう言い残して慌てて部屋を出る。
廊下で梓と向き合う。
「今日は早いね」
「まぁね、蓮にはこの後予定が入ってるんだってさ」
「ふぅん、そうなんだ」
「それで誰が来てるの?」
「あっ、ああ、陽介が来ててさ」
彼女に遥香とのことがバレるのは嫌だった。咄嗟に嘘を吐いた僕の顔をじぃっと見つめてくる彼女。
「それにしては靴が小さかった気がするんだけど?」
「えっ、いや、あの、その……」
思わず口籠もってしまう。
「ううん、怪しいな〜。なんで隠すのかな?」
「なっ、何の話だか分かりかねます」
思わず目を逸らしてしまった僕の隙を突いて僕の隣を彼女が抜けてドアを開けられてしまう。
「それっ」
「「あっ……」」
そこには勿論遥香がいるわけで。
なんとも気まずい空気が僕たち三人の間で流れる。その中で最初に口を開いたのは梓だった。
「なっ、なんかごめんね。カノジョ連れ込んでたんだね……。本当にごめんね」
「いっ、いや、遥香はカノジョじゃないし、ちょっと勉強してただけだから……」
別に行為に勤しんでいたことを知られているわけでもないのに言う必要のないことまで狼狽している僕は口走ってしまう。
「ごめんね。次から帰るときは連絡するようにするから」
遥香が出ていくと、勘違いされたままだからちゃんと誤解解かなきゃなと思いながら後ろを振り返り遥香の方を向いた。
梓の後ろ姿を見つめている遥香の瞳はどこか虚な暗い黒、黒だから暗いのは当たり前なのだが、とにかく違和感を感じさせた。
「……遥香?」
「ん? どうしたの?」
もういつも通りの明るい遥香だった。気のせい……だったのか。
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