第5話 僕と元カノの関係と
この関係だとは言っても別に毎日僕の家で行為に及んでいるわけではない。僕の放課後の過ごし方は大きく二つに分かれていて、一つは僕の家で体を重ねること。そしてもう一つはバイトの前に彼女の家でダラダラと過ごすこと。
今日の放課後は彼女の家に呼ばれていた。
いつもの公園で集合して、今日も誰もいない彼女の家に上がる。
リビングで適当なゲームをしたり、映画を見たりして時間を潰す。
基本、ソファーの上でくっついて遊ぶため、側から見たらカップルのように見えるのかもしれない。
実際のところはそんなことはない、互いに恋愛感情を持たないセフレ関係なのだから。それでも居心地は不思議と悪くない。
何故、セフレなのにこのようなことをやっているのかは分からない。僕は彼女に誘われただけだから。
「ねぇ、蒼熾」
「ん?」
「最初、三十秒停止してよ。ハンデとして」
「ハンデって……僕はこのゲームを持っていないんだが?」
僕たちはとあるレースゲームをやっていた。彼女は少なくとも不慣れな僕のようにコースアウトをすることはない。
「一位と距離が離れてれば強いアイテム出るから大丈夫大丈夫」
「絶対、大丈夫じゃない匂いがする……」
「まぁまぁ、始まるよ。じゃあ、三十秒待っててね〜」
「はぁ……」
そんな感じで始まったレースが終わってみればもちろん僕は最下位で彼女は一位。
「ありがとう。ちゃんと止まってくれて。次もお願いね!」
「……ああ」
そんな感じで何ゲームか彼女にボコボコにされたところで僕のバイトのタームの時間が近付いてきた。
「遥香、時間だからそろそろ帰るわ」
「ん。今日もありがとう。また明日」
「ああ、また明日」
僕たちの間に見送りというものは存在しない。軽く言葉を交わすと一人で家を出て、バイト先——僕の家の近くのビデオショップに直行する。
いつもより少し遥香の家に長居してしまっていたため、少し時間に遅れそうになっていたが速攻でスタッフルームで着替えてレジに入って時間に間に合わせる。
「お疲れ様〜、牧田くん」
「お疲れ様です、赤池先輩」
どうやら先に入っていたらしい同じ時間帯を担当する大学二年生の赤池先輩。レジ横の返却口に溜まったDVDの返却をしてくれていた。
最近はインターネットさえあればわざわざDVDやCDなどを借りずとも自分の見たい映画や聞きたい音楽などを手に入れることが可能なので、お客さんの数は少ないというのがあり、おそらく手が空いていたのだろう。
赤池先輩のおかげで特にすることもなく少しぼぉっとしながらレジに立っていると突然声をかけられた。
「あの〜、すみません……」
「はっ、はい! いらっしゃいm……せ」
不意を突かれて少し狼狽したところで、僕の目の前にいた人物を見て再び慌ててしまった。
「お会計お願いします……」
そこにいたのは僕の想いの人である二上梓。なんでここに?と思いながら平静を装って会計をする。
そっと自動開閉扉の外を見てみれば、彼女の彼氏である羽原がスマホを覗き込みながら立っていた。
なんとか動揺を抑えてお釣りを渡したところで耳元で囁かれた。
「今日の夕飯何か希望ある?」
「っ——いや、特に」
「それじゃあ魚でも大丈夫?」
「あっ、ああ」
不意打ちの耳元での囁きは心臓に悪い。
赤くなった顔を見せないように下を向いてしまう。
彼女が店から出て行き、ふぅっと安堵の息を吐き出したところで僕はまたもや奇襲をくらった。
「牧田くん」
「はいぃ!」
「今の子、カノジョさん?」
「……違いますよ。彼氏がいますから」
思わず顔を背けてしまう。僕のその様子から何かを感じ取ったのかごめんねと言い離れて行く。
僕はどことなく漂う気まずさの中でバイトをなんとか終わらせた……。
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