第4話  僕と元カノとこの関係の始まりと②

 僕は遥香に取り敢えずこっちに来てと近くの誰もいない公園まで連れて行かれてベンチに座らせられた。


「こんな夜中に何やってるの?」

「……」


 夜中?もうそんな時間なのか……。スマホの時計を見てみれば現在二十一時。……夜中というほどの時間ではなかった。


 というかそういえば、今日の夕食当番は僕だったな……。梓に迷惑かけてるな……。


 いやいや、今はそんなことより目の前の遥香に集中しよう……。


「……ただただちょっと散歩してただけ」

「その死にたそうな顔で?」


 死にたそう?鏡がないため、正確な顔が分からないとはいえ、そこまで酷い顔をしているとは思えない。


「……ショックを受けてるんでしょ」

「……誰が?何に対して?」

「蒼熾が二上さんが付き合いだしたことに」

「……違う」


 思わず一瞬、目を逸らしてしまう。そんな様子を彼女が見逃すはずがなかった。


「嘘。今、目が泳いだでしょ。付き合ってたときもそうだったから丸分かり。それだけじゃない。右手が震えてる。これも全部、嘘を吐いている証拠」

「……そうだとしてもなんなんだ?別に僕がそれでショックを受けてるとしても遥香には関係ないだろ」

「そうかもしれないわね。でも、そんな顔をしている蒼熾を放っておけないのよ」

「そうか……」


 変わらないんだな。優しいのは。でも、だからこそだ。そこに甘えてはいけない。


「大丈夫だ。一人で解決するかr!?遥香?いきなり何を」

「結局、あの時みたいにまた自分一人で抱え込むのね。でも、そんなの許さないから。はいはい、今家に誰もいないから付いてきて」

「えっ、ちょっちょっ」


 僕の静止は無視され、半ば強引に手を引かれて彼女の家に連れて行かれる。


 二度目の彼女の家。あの時は引っ越したばかりだから物が少なかったわけではないらしい。付き合ってた当時はかなり物で溢れてたんだけどな……。


「で?どうしたの?ショックを受けただけで家出してるわけじゃないでしょ。そうじゃなかったら家で一人で泣けばいいわよね」

「……」


 なんでこうも鋭いのだろうか。いや、こういうところで妙に鋭いことは知っている。それでもだ。


「ねぇ、話してみて」

「……大丈b」

「大丈夫じゃない!言ったでしょ。また一人で抱え込まないでって。私はまた後悔したくないの。迷惑でもない。だからね。話してみて」

「……」


 僕は彼女のその言葉に懐柔されてポツポツと語り出した。


 僕が梓のことを好きなこと。そしてその梓と一緒に住んでいること。それで、顔を合わせたくないことまで。


「なるほどね……」


 僕の話を全て聞き終わった彼女は少し考え出した。


「うーん、そうね……それじゃあセックスしよ」

「……???」


 彼女の思考の中では何がどうなってその考えに至ったのだろうか?


「女の子に対する悩みは別の女の子が解決するのが一番早いの」

「……はぁ」

「どうせ童貞でしょ。……私が忘れさせてあげる」


 その決めつけに少し腹が立つが、事実なのは否めない。


「……忘れさせてあげるって……」

「二上さんのことが好きで悩んでるんでしょ。その辛さを上書きしてあげるって言ってるの」

「……」

「女の子のことを忘れさせるには別の女の子とすればいいの。ほら、服脱いで」

「……いや、でも、もう別れただろ……。それなのにこんなこと……って、んん!?」


 彼女はいきなり彼女の両手で僕の頬を優しく包み込んだ上で唇で僕の口を塞いできた。


「蒼熾……、あの時の続きしよ?」


 この時点でしっかりと拒めばこんなことにならなかったとは思う。


 でも、僕は流されるようにそうして服を全部脱いだ彼女の好意に甘えてしまった。


 そのようにして結ばれたのが僕と彼女の、この関係だ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る