第3話  僕と元カノとこの関係の始まりと①

 彼女、立花遥香と僕は元々交際関係にあった。


 ただ、僕と彼女の思いのすれ違い、そうは言うものの僕が百パーセント悪いと思っているのだが、で破局したのちに僕が今の学校に転校してしまい、もう二度とは会うことがないと思っていた。


 そんな僕の考えを覆したのが一ヶ月前。突如として何の前触れもなくゴールデンウィーク明けに季節外れの転校生として彼女が追いかけるように僕のいる学校に転校してきた。


 転校してきた当時は彼女だとは信じられなかった。あの頃の黒のカーテンで少し目を隠していた陰のイメージなどは消え去り、髪色は鮮やかな茶色に染められていて纏う雰囲気もクラスの中心に立つような女子のような感じにすっかり変わっていたからだ。


 名前が元カノと同じってどういう運命だよと思うのも束の間、その日のうちにいきなりあの頃と変わらない綺麗な少し丸まった文字で「放課後屋上来て」と書かれたクシャクシャに丸められた紙を渡されて呼び出されたため、ここで初めて転校生が元カノであることを認識した。


 そして放課後、僕が屋上に上がると既に彼女はどこか懐かしい雰囲気を出しながら屋上に設置されているベンチに腰掛けていた。


「……久しぶりだな、遥香……。それで何の用?元々交際関係にあったことを言いふらしてほしくないとかならそんなこと言いふらすつもりとかはないから安心してほしいんだが」

「……違う」

「じゃあ、何?」

「……取り敢えず、私の家に来てもらってもいい?」

「……別に予定入ってないからいいけど」


 そして、僕たちは絶妙な距離感覚を味わいながら今の遥香の家に向かった。


 とあるマンションの一室。あまり物の置いていない家だった。


 元カノの家に上がるとか妙な気分だな……と思いながら僕は彼女に家の中に誘われる。


 手を洗い、お茶が出されるとリビングと思わしき場所で僕は彼女と向き合った。


 何か迷っているようで空中を彷徨う視線。仕方ないので僕から切り出す。


「……わざわざ家に呼んで何の用?」

「いや、その……大した用ではないんだけど」

「……」


 少し待つと意を決したように彼女は口を開いた。


「……あの、その……今って彼女とかいたりする?」

「……いないけど」


 どこか安心したような息が彼女から漏らされる。


「ただ……好きな人はいる。片想いだが」

「……そう」


 途端に沈む顔。まさか……まだ僕のことを好きなのか? 少し鈍感な僕でさえそう感じた。


 ただ次の瞬間、僕の頭をよぎるのはそれを否定するあんな別れ方をしたんだからあり得ないだろうという言葉。


「……それだけか?」

「……うん、時間を取らせちゃってごめんね」


 なんとなく気まずくなって僕は足速に彼女の家を出た。


 何だったんだ?と軽く頭を抱えながら。



 そしてそれから一週間後。


 僕の想いの人である二上梓は僕以外のクラス一のイケメン男と付き合い始めた。


 男女を問わずして校内に広がる溜め息と渦巻く阿鼻叫喚が印象的な光景。ただ一方で美男美女のお似合いのカップルであったため祝福の声も多数上がっていた。


 隣で陽介は俺の聖女様が……と悔し涙を流していたが、少なくともお前のではないだろと僕も辛く泣きたい本心を隠し込んでツッコんだ。


 胸の中がドンヨリとした分厚い曇り空に覆われながらも、なんとか授業をやり過ごし、放課後直行で家に帰り静かに一人で泣いた。


 いつかこの日が来るはずだと覚悟していたはずなのに情けないな……。


 窓から空に煌めく夕陽を見ているとなんとなくやるせなくなってきた。


 僕は行く当てもなく家を出て街を彷徨い始める。


 ああ……なんか辛いな……。このあと、家に梓が帰ってきたとき、どんな顔をすればいいのだろうか? もういっそのこと彼女には二度と会いたくない……。


 そんなことを考えながらいつの間にか闇に包まれた街をぶらぶらと歩いていると突然、後ろから腕を掴まれた。


 何だよ急に。ちょっと傷心中なんだから放っておいてくれ。そう思いながら目を向けると


「蒼熾? 何やってるの?」


 と心配そうに問いかけてくる遥香がいた。

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