胤鄭の科挙

胤鄭は沺陽の嚥家で産まれたカワイイ男の子。嚥一家は決して貧しいというわけでは無かったが家は少し年季が入っていて壁の塗料はほぼ落ちていた。

胤鄭の家族を紹介しよう。

父は鳴斷爾「なたや」仕事は農業。母は春惷「ちゅんしゅん」専業主婦。

兄は灑「さい」胤鄭より3歳年上である。


灑は頭が良く、胤鄭に様々な事を教えた。

胤鄭が鹵の歴史を知ったのは5才の時。勿論兄のおかげである。

胤鄭5歳にして灑に言う。

「兄上、官僚とはどのようなものですか。」

灑は一瞬頭の中で5歳児にもわかるような説明を考えて勢いのまま言った。

「官僚とは素晴らしいものだ。お金持ちになれるのだぞ!」

胤鄭は少しきょとんとしていたが、目を輝かせていたので多分概ね伝わったのであろう。胤鄭は灑曰く好奇心が子供の頃から強くよく自分に質問していたのだという。胤鄭と灑はとても仲がよい兄弟であった。

嚥家は鳴斷爾が農家であったので田んぼを所有していた。

夏は汗をかきながら父は畑仕事をしている間子供たちは家の中で大人しく過ごし、冬は父が仕事をしている近くで子どもたちは燥いでいたのだという。

沺陽の夏は暑く最高で38℃であったという。

春惷はというと夏は鳴斷爾と子供たちのために西瓜や冷たい飲み物を用意し、冬は子供たちの燥ぐ姿を見ながら鳴斷爾と一緒に畑仕事をしていた。

ある日の夜、灑は官僚を受けよう決意をした。

灑は頭が良かったため己の限界に挑戦したいのだという。

胤鄭は灑を応援して灑と一緒に一夜を過ごした。

次の日灑が決意を両親に伝えると両親も灑を応援した。

そして灑の受験勉強が始まった。

胤鄭は灑と前のように遊べなくなったのは悲しい事だと思ったが灑の頑張る姿をみて頑張って欲しいと心の中で呟いていた。

灑は春夏秋冬勉強に見を捧げた。

(ちなみに鹵では官僚の選別を筆記試験で決めていた。試験科目は儒学、統計学、政治学、帝王学、法学、哲学、語学の計7つであり700点満点である。合格者平均は560点であった。官僚になると莫大な富を得て何不自由なく暮らせる事ができる。灑は官僚の一つである政治士に受験しようとしていた。)

そして10年が経った。灑の御歳18歳。

官僚の受験資格は18歳であったので受験条件を突破していた。

灑は峨眉山に太陽が差し掛かろうとする時に鹵の第2の都である崙馬「ろんま」に向けて出発する。

早朝で胤鄭は眠たかったが灑の努力していた姿をみてお見送りしないわけにはいかないと感じた。

灑は出発する時に胤鄭に言った。

「長い間遊べなくてすまなかった。私ももっと工夫できたであろうに。

私には後悔がある。どうかこんな私を赦してくれ。」と。

胤鄭は灑を恨んでいないと言おうとしたが灑は既に崙馬へ旅立った。

胤鄭は灑の武運を祈った。

胤鄭は御歳15才。沺陽の嚥家の田んぼで日々鳴斷爾と農作をしていた。

しかし胤鄭にも野望があった。それはなにかというと政治士の職に就きたいということだ。

今の時代は鹵と周の仲があの事件より悪くなり続け周はいよいよ鹵を占領しようとしていた。ここから鹵周攻防時代が始まった。

だからこんな動乱の世を終わらたい胤鄭は政治士になりたいのだ。

胤鄭は朝は畑仕事。昼は田んぼで仕事。夜は勉強。

まぁまぁ精神的にきつい一日を5年続けたのである。

その間に灑の合格発表を崙馬に見に行った事があった。なんと640点で合格していた。胤鄭はとても嬉しくなり灑よりもその日は燥いでいた。

やはり灑の頭の良さは本物であった。

そして胤鄭が20歳になった今でも灑は頭の良さを使って政治士の上官になった。その時は胤鄭は少し誇らしげになった。

次は自分の番だ。

そう心の中で思った。遂に筆記試験当日になった。

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鹵覇伝 皇  @gfv14579

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