あと5日 ずっと隣にいてほしい


 たとえば、俺の隣を真っ先に陣取ってくるようなキミに、あたりまえ以上の何かを感じ始めている俺。


 いつも通りだった距離感に、いつも通りに振舞えなくなったその理由。


 認めてしまえば何かが変わってしまいそうで、わからないふりをし続けている。


 心ここにあらずな俺を心配してくれるキミの顔に、胸がずきりと痛む。


 すぐ傍にあるキミの容姿が、あまりにも綺麗で、顔が熱くなった。


 意識すればするほどに、今までこの子が隣にいた日常に、何も感じていなかった自分が信じられなくなってくる。


 こんなにも可愛い女の子。いつか誰かのところにいってしまうかもしれない。


 変わらなくても、変わってしまうかもしれない。


 そんな不安が、俺の心を絶えず蝕んでいった。




 たとえば、ありがちな少女漫画の展開を真に受けた俺に、「急にどうしたの?」って少し意地悪に聞き返してくるキミ。


 人生で、これほど大きな失敗を自覚したのは初めてだった。


 いつもみたいに俺をからかってくるキミに、お返しだと言わんばかりにすっと迫ってみた。


 臭いセリフなんて柄にもなく言っちゃって、キミが恥ずかしそうにする顔が見たかった。


 最初はただのおふざけだってごまかそうと思ったのに、気付けば何も言えずにじっとキミの顔を見つめてしまっている。


 体が触れ合うような距離感はこれが初めてではないのに、そのシチュエーションが変わるだけで揺らいでしまうような俺達の関係性。


 友達だったらそれが普通なのに、もう、それだけじゃ満足できない。


 もっとキミの奥底まで触れることが許されるほど、あたりまえの関係性がもっと色濃くなるように。


 格好のつかない俺に「どうせやるならちゃんとやってほしかったな~」って余裕そうに振舞うキミへ、俺はせめてもの抵抗をしてみる。


 それはたった一言、今の俺が言える最大限の本音だった。



「近くで見ても、やっぱり可愛いね」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る