あと6日 もう、しょうがないなぁ


 たとえば、「勉強を教えてほしい」っていつも私に縋ってくる君に、満更でもない感じで「しょうがないなぁ」って返すような私。


 本当は、二人きりになれる口実が出来てちょっぴり嬉しかった。


 柄にもなく真面目に授業を受けているだけで、こんなにも幸せな時間を買えるならおつりが返ってくるくらい。


 もうすぐ「キミの誕生日だね」ってすぐに話をそらそうとしてくる君に、「もうさぼらないの」って私が軽く小突くようなやり取り。思わずにやけてしまいそうになる。


 こんな時間がもっと長く続くなら、本当はもう少しくらい勉強をさぼってくれたっていいのに。


 でもこんなことを口に出してしまうと、君はうっかり留年だってしてしまいそうだから心配だ。


 そんな手のかかる君のことが、私には何よりも愛おしく思えてならなかった。




 たとえば、子供の頃の私が何気なく言った誕生日を、何年も覚えていてくれる君。


 相変らず女の子への贈り物のセンスが不器用な君のことを、あと何年微笑ましいと思えるのだろう。


 もしも、君が他の女の子にもプレゼントを贈る様になったとして、小洒落たプレゼントなんて送ってくるようになったら嫌だな。


 私の言ったことは、どんなに些細な事でさえも君に覚えていてほしい。


 だから少し背伸びした贈り物を贈ってくれるような君よりも、私が欲しいって言ってた物を素直に思い出してくれる君が良い。


 まあ、そうやって思い出してくれる事はいつだって子供の頃の話ばかりで、そこがやっぱり不器用だなって思うんだけど。


 私だってもう高校生だし、ぬいぐるみ一つでそこまで喜ぶような年でもなくなった。


 それでも私は、このクマのぬいぐるみを来年も君にもらいたいな。


 ベッドの隅に並べられた衣装違いのクマのぬいぐるみたちは、私と君とで積み重ねてきた年月の長さを私に思い出させてくれる。


 私はこれでちょうど十個目になる君からの誕生日プレゼントを、今年も大事そうに抱えながら、「ありがとう」ってぽつんっと君に返した。


 少し上目遣いになってしまったのは、ちょっとあざと過ぎたかな……。



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