あと4日 可愛い私だけを見ていてほしい


 たとえば、初めて私をからかってきた君の新しい一面に、意表を突かれてしまった私。


 君に気持ちを悟られないようにって頑張ってきた筈なのに、もう表情何てどうやっても取り繕えなくて。


 変わらないようにって我慢してきた私の気持ちを、君が戯れに揺らしてくる。


 確証が持てないことに、こんなにももやもやしたのは初めてだった。


 君をそんな風に変えちゃったのは、一体どこの誰なんだろう?


 本当はわかってる。


 君の隣はずっと私が独占していたから、君にはまだそういう人はいないって。


 だけど、それでも……確証が持てないのが不安で、私はスマートフォンに手を伸ばす。


 送信手前まで入力したのは、「ねえ、最近彼女とか出来た?」なんて脈絡のない不自然な一文。


 こんなこと、急に聞いてしまったらどんな風に受け取られてしまうんだろう。


 気持ちを隠す口実があったときは、そんなことまでは気にしなかった。


 ちょっとからかった返しをして、うやむやにしてしまえばそれでいいって思ってた。


 だけど、今まで以上に怖いんだ。


 今まで私たちが大事に紡いできたこの絆が、ほんの些細な事でも壊れてしまいそうで。


 君に嫌われないために、可愛い私だけを見ていて欲しいと思ってしまう。


 寸前まで迷った末に、結局消したラインの一文。


 面倒くさい女だって思われるのが怖かった。


 本気の私をぶつけてしまった結果、君に引かれたりしたら絶対に立ち直れないから。


 やるせない思いに、スマートフォンを枕元に放り投げた私。


 それからすぐに通知音が鳴って、二度手間になってしまったことを少し後悔する。


 今度はため息なんかついて開いたスマートフォンのロック画面。



「次の休日、どこか二人きりで遊びに行かない?」



 それはまるで、示し合わせたかのような彼からのラブコール。


 今ばかりはそんな風に都合よく感じてしまうほど……。


 君から送られてきた少しいつもと違う誘い文句に、私の胸はかつてないほど高鳴った。


 あの少女漫画見たいな出来事の後に、この連絡だ。


 勘違いでも、期待してみたい。



 ――――ねえ、これってデートだと思ってもいいのかな?



 そんな期待に、スマートフォン越しに映っていたのは、自分でも見たことが無いくらいのとびきりのにやけ顔だった。


 次の休日、こんなにも可愛くない顔は絶対君には見せられないな。




 たとえば、好きな男の子の為の服選びに難航するような恋愛初心者な私の事も、君に可愛いって思ってもらいたい。


 君がたまに訪ねてくる私の部屋は、当然綺麗にしてあるけれど。


 今夜ばかりはそんなものは見る影もない。


 乱雑に散らかった洋服の数々に、開かれたのは正解のわからない一人ファッションショー。


 オフショルダーで少し大胆に?


 それとも露出の少ない清楚風なワンピース?


 思い切って夢かわな感じとか……?


 彼の好みは何でも知っていると思っていたのに。


 思えば、君の好きな女の子の服の話なんて、今まで一度もしてこなかった。


 「優しい人が好き」だなんてまるで要領を得なかった君の理想の女性像を聞く前に、もっと聞くべきことがあったらしい。


 大好きなはずなのに、まだ知らないことがたくさんある。


 もっと知りたいな、なんて思っていたら。


 突然思い出したある休日のワンシーン。


 一緒に見た映画の女優さんの衣装で、こういうのがなんだかんだで一番好きだなってさりげなく君が言っていた言葉。


 それは、変に着飾らないカジュアルなファッションだった気がする。


 そういう系統の服は、幸い沢山持っていたはずだ。


 こんなところで、まさか友達みたいな何気ない関係性が役に立つとは……。


 なんだかんだで、やっぱり私は君の幼馴染で良かった。


 なんて、初めて心からそう思えたような気がした私は、ちょっぴり都合が良すぎるだろうか。


 すっかり舞い上がっていた私は、時計の針が既に午前3時を回っていることに気が付くこともなく、気が付けば眠りに落ちていたのだった。



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