第10話
□百道学園・グラウンド
幸太、スタートブロックから飛び出す。
グングンとスピードを上げ疾走していく。
サングラスをかけた筋肉質な男、幸太の走りを見ている。
威圧感あるコーチの須藤 猛(38)だ。
須藤「春日―、肩が硬いぞ。そんな走りで勝てると思ってるのか! 最後まで手を抜くな、リラックスせんか」
周囲が張り詰めるような罵声がとぶ。
幸太「はい!」
フィニッシュして、徐々にスピードを緩めて立ち止まる。
幸太、額の汗を拭いながら、
幸太のM「今年が最後だ。大会までもう少し。これが集大成だ、全て出し尽くしてやる」
表情を引き締める。
□久山学園・グラウンド・直線トラック
七台のミニハードルが並べてある。
彪、後に続いて悟朗が次々とハードルを越えながら走っていく。
美幸、リズムに合わせながら手拍子する。
美幸「ほら、そのまま。スピードを落とさないで。歩幅もしっかり!」
断然、彪の方が悟朗より速い。
□同・坂道
彪、軽快に駆け上がっていく。
活き活きとした表情だ。
美幸、そんな彪を見て、
美幸「へぇー、あんな笑顔もするんだ…可愛いとこもあるじゃない」
悟朗、後方でバテて膝をついている。
美幸、悟朗に駆け寄って、
美幸「ゆっくりでもいいわ。一つ一つきっちりと、最後までやり遂げましょう」
悟朗「ふぁ、ふぁい」
ゆっくりと立ち上がり、再び走りだす。
□同・走り幅跳び場
彪、助走をつけて豪快にジャンプする。
六mを優に超える。
美幸、彪の飛距離に舌を巻く。
悟朗、助走をつけて豪快にジャンプしようとするが、
勢い余って豪快にヘッドダ イビングしてしまう。
美幸、不安そうに、
美幸「大丈夫、悟朗君!」
悟朗、砂だらけの顔になって、
悟朗「ぶほっ……」
砂を噴きだす。
□同・ハンドボール投げ場
彪、ハンドボールを片手に前方の投球距離ラインを見つめる。
悟朗、しょんぼりして美幸に近づき、
悟朗「コーチ……」
美幸「どうしたの、しょんぼりして」
悟朗「なんか、黒崎君見てると自信なくなっちゃいます。僕より後輩なのに……」
美幸「…心配ないわ。悟朗君とアキラ君は、活躍できる舞台が違うんだもの」
悟朗「活躍できる、舞台?」
彪、ボールを投球する。
が、あまり飛距離はない。
彪「チッ」
美幸、悟朗の背中を押して、
美幸「ほら、次は悟朗君の番よ」
悟朗、オドオドしながら、
悟朗「ふぁ、ふぁい」
ボールを手にする。
悟朗、前方の投球距離ラインを見つめて、
悟朗のM「昔から走るのは苦手。飛ぶのも苦手。ずっと笑われてきた……」
ボールを大きく振りかぶって、
悟朗のM「こんな僕が活躍できる舞台なんか」
美幸、悟朗に注目する。
悟朗、ボールを勢い良く投球する。
彪、目を見張り、
彪「なっ……!!」
ボールは高々と空に弧をえがいて飛んでいき、ズッシリと地面に落ちる。
四十mを優に越える飛距離だ。
悟朗、肩で息をしている。
美幸、ニッコリ微笑んで、
美幸「走るだけじゃない。誰もが生まれ持った才能を最大限に発揮できる競技。それが陸上競技よ」
悟朗「コーチ!」
胸が大きく高鳴る。
□同・職員室(夜)
美幸、職員席で用紙に記入している。
記録会の登録用紙だ。
美幸「ええっと、アキラ君は百、四百。悟朗君はと……」
用紙に『砲丸投げ』と記入する。
電話が鳴る。
教員の石松が受け取り、
石松「え? ああ、はい。春日先生ですか?」
美幸、電話をしている方を見上げる。
石松、美幸を見て、
石松「春日先生、お電話です」
美幸「あっ、はーい」
受話器を受け取る。
美幸「お電話代わりました。ああー、須藤先生。お世話になります。ええ……!?」
ハッと見開く瞳。
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