第8話

□総合病院・病室(夕方)

  彪、病室の椅子に座っている。

  ベッドに寝ている歩萌。

  頭、右腕に包帯を巻いている。

  彪、歩萌の寝顔を見ながら、

彪「歩萌……」

  なびいているレースのカーテン。


□久山学園・グラウンド(夕方)

  桜の花びらが夕日に照らされている。

  ピカピカに整備されているグラウンド。

  美幸、満足気に腰に手をあて、

美幸「よぉーし。これで練習できるわね!」

悟朗「ふぁい」

美幸「悟朗君、今日は私とマンツーマンで特訓よ!」

    ×    ×    ×

  生徒の石井、長澤、佐々木、校舎の陰で美幸と悟朗をのぞき見て、

石井「クボゴロウの奴、春日先生を独り占めしやがって」

長澤「俺も陸上部入ろっかなぁ」

佐々木「あんな綺麗なコーチに手取り足取り」

石井と長澤と佐々木「うおー、たまんねぇ~」

  盛り上がっているところ、

美幸の声「ほらぁ、そこで手を抜かない!」

  石井達、その熱血な声にビクッとする。

    ×    ×    ×

  悟朗、大量に汗を掻きながら、モモ上げをしている。

  美幸、ストップウォッチを片手に、

美幸「ほら、まだまだよ。スピードアップ!」

悟朗「ふぁい!」

  が、だんだんモモが下がっていく。

美幸「悟朗~!」

悟朗「ふぁ、ふぁ~い!」

  スピードを上げ、歯を食い縛る。

美幸「はい! そこまで」

悟朗「はぁ、はぁ、はぁ……」

  膝に手をつく。

美幸「よぉし。やればできるじゃない」

  笑顔でうなずく。

  悟朗、ゴロンと大の字に倒れ込む。

    ×    ×    ×

  石井達、ゾッとして、

長澤「俺、さっきの取り消すわ」

佐々木「美人豹変…スパルタンデビルだ」

石井「おう……」

  校舎の陰から立ち去る。

    ×    ×    ×

  美幸、悟朗にコップを手渡し、

美幸「はい。十分に水分を取って。休憩よ」

  悟朗、コップを受け取り一気に飲み干す。

悟朗「うが、うが、うが、げほっ」

  美幸、悟朗の背中を擦りながら、

美幸「ゆっくり、ゆっくり」

悟朗「…ねぇ、コーチ」

美幸「ん?」

悟朗「僕、陸上部なのに学校で一番足が遅いんです。こんな体型だし、いくら練習したって痩せないし、足も速くならないし」

美幸「……」

悟朗「やっぱり、走るのって、生まれ持った才能なんでしょうか? 陸上部なのに情けナカ」

  美幸、真剣な顔で悟朗と向き合って、

美幸「いい、悟朗君。陸上競技はね、走るだけの競技じゃないんだよ」

悟朗「ふぇ?」

美幸「誰もが生まれ持った才能を最大限に発揮できる競技。それが陸上競技だと私は思うんだ」

悟朗「…コーチ」

  微笑む美幸を見上げる。


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