6-2 話を聞くだけだと普通の悲劇の物語なんですけどね

 それでは私、ソアラより語らせて頂きます。

 私と、渡った世界で何が起きたのかを。


 先程話した通り、私は神様から唐突に呼ばれました。

 それで「力を授けるので、どうか世界の滅びを防いで欲しい」って頼まれて。

 少し片言のようにも聴こえましたけど。


 私としては迷惑だったのですが、どうやら拒否権は無さそうですし。

 それに困ってる方を見捨てるのもなんか嫌だったので渋々承諾。それで異世界へと飛ばされる事になりました。救世主となるべく。


 でも飛んで早速、視界に違和感が飛び込んだんです。


 目の前にね、私がいたんです。

 そう、私自身がもう一人いたんですよ。

 降り立ったのは静かな森の中で、別に鏡とかがある訳じゃなくて。


 すると相手も気付いたようで、互いに歩み寄ります。

 その行動も仕草もそっくりでした。

 それで互いに手を合わせようと腕を伸ばしたんですけど。


 触れられないんです。よく見たらなんか壁みたいなのがあって。


 まるでシャボンの壁みたいな感じですね。ふわふわとした虹色の。

 でも凄く硬い壁が間に立ち塞がっていて声も届かないし、向こう側にも行けない。


 なので私達はとても悩みました。なんでこんな事になってるんだろうって。

 でもそんな悩む仕草どころか、思考もそっくりで。


 そこで互いに、同時に気付いたんです。声が届かないなら筆談すればいいんじゃないかって。

 幸い登校中での転移だったので道具一式はあったし。


『初めまして、私はそあらです』

『初めまして、私は美空みそらです』


 するとこんな感じで名前もそっくりだったっていう。

 なので互いに笑い合ったものです。どうしてここまで似てるんだろうって。


 とはいえこの場所でずっとお話している訳にもいきません。

 ここは危ないって神様も言ってましたから。


 なのですぐ二人で行動する事にしました。まずは森から出て人里に向かおうと頷き合って。

 その道中で何度も気付かされたものです。


 なんせ、本当に何から何までそっくりなんですもん。


 進もうとする道も、怖い動物に気付く瞬間も、その隠れる仕草から恐れる度合いまで何もかも。

 本当に鏡合わせかって思えるくらいに。

 敢えて別の道に進んでも、絶対すぐに合流するんですよ。


 お陰でちっとも心細く無かったです。

 むしろなんだか嬉しかったなぁ、信頼出来る友達がいるみたいで。

 同族嫌悪なんて言葉が嘘だと思えるみたいに仲良かったんですから。


 なのでその後も私達はずっと一緒でした。


 幸い目的も同じだったから。

 それで仲間も増やす事も無く、たった二人で一人の冒険を続けたものです。


 それというのも、他人には美空が見えなかったから。

 逆に、美空が話す相手には私が見えていないみたい。


 要は鏡みたいな世界が私達だけにある、って感じでしたね。

 だから仲間を増やしても、私達の相互関係を理解できる人がいなかったんです。

 それがなんか煩わしいってなって、結局二人だけになるんですよね。


 でも別に困る事はありませんでした。

 一人でも気持ちは二人分で心強かったですから。

 元々神様から力をもらってたのもあって、戦いも苦労しませんでしたね。


 特に、強力なドラゴンブレスを二人背合わせで弾き返した時!

 あれはもうシンパシー感じまくりでしたよー。

 「これが私達の力だー!」ってついつい叫んじゃうくらいに。凄いエモかったなぁ。


 それくらい楽しい冒険でした。

 四大精霊の下にも訪れては達成感を分かち合って。

 宿は敢えてダブルを選んで、夜は二人楽しくガールズトークで。

 もし同一人物だったらどっちが本物か~なんて話もしましたね。

 やっぱり二人とも気にはなってたみたいだから。


 そう、薄々感じてたんですよね。

 もしかしたらどちらかが本物で、偽物なのかって。


 けど、私には確証がありました。自分が本物だっていう確証が。

 だって見えるんですよ、ステータス開くと相手の名前が。


 美空のステータスを見せてもらうとね、名前が「そあら」になってるんです。


 それで自己紹介した時、嘘を付いたのかなって一瞬疑いました。

 でもどうやらそれは違うみたいで、問いただしたらこう返ってきましたよ。


『え? おかしいな、私は生まれてからずっと美空なんだけど……誤植かなぁ?』

『ステータス誤植ってあるの!? ウケる~!』


 ちなみに、美空から私のステータスを見ても「そあら」です。

 つまり設定上(?)はどちらもソアラなんですよ。なぜか認識してる名前が違うだけで。


 まぁ正直それ以上は気にはなりませんでしたけどね。

 だって、どっちが本物かなんて実際はどうでも良かったから。

 ただの一つの話のタネ程度ってだけで、後は二人して笑い合ってたものです。


 私達はこの時、それくらい信頼し合ってたんです。

 二人は一人だけど親友なんだって。




 ですが、その関係はある時突然、引き裂かれる事になります。




 それは四大精霊の力を集め終え、世界の中心へと向かっていた時でした。

 この冒険が終わったら二人で一緒に暮らそうよ、なんて話を交わしてて。

 それこそ終わりに向けて楽しく筆談してたものですよ。それくらい余裕だったから。


 エアタブレット空中お絵描きの魔法も憶えてたので、この頃はもう会話も手馴れてましたね。

 戦闘中だって話せます。


 しかしそんな筆談の最中、私だけが何かにゴツンとぶつかったんです。

 荒野を歩いてただけなのに。


 何かと思って振り向いても何も無いんです。

 けど、手を伸ばしてみると見えない壁がありました。

 景色は見えるけど、私自身の進めない壁が。しかもまったく壊せそうになくて。


 それが気付けば後ろも横も上も下も。お陰でまったく動けなくなっちゃって。


 そして、それと同時に見てしまったんです。

 信じられもしない出来事を。


 美空はちゃんと前に進んでたんですよ。


 まるで「何の事?」と言わんばかりの様子でした。

 それだけ私の身に起きた事がわからなかったのでしょう。

 だって彼女にはそういった事態が発生していなかったから。


 でも予想外の出来事で、場がたちまちパニックに。

 閉所も嫌いだから私がたちまち蹲っちゃって、そしたら美空も一緒に寄り添ってくれました。

 「頑張って」って筆談までしてくれて。


 けどその時はもう私に意思を伝える手段はありませんでした。

 エアタブレットも使えなくなってて――ううん、他の何もかもが使えなくなっていたんです。


 それどころか景色がどんどんと暗くなっていって。

 美空の姿も次第に見えなくなっていったんです。


 だから私は叫びました。見える間にひたすら。


「お願い美空!! 私の事はもういいから!! 貴方だけでも目的を達成して!!」


 何となく感じてたんです。私はきっとここまでなんだって。

 理由はわからないけど、なんだかそんな感じだったから。


 私の方の世界だけが終わるって。


 ならせめて美空だけでも生きてて欲しかった。目的を達して、幸せになって欲しかった。

 そうすれば私も救われるって気がしたから。


「いや!! だめよソアラ!! 諦めちゃだめ、ソアラーーーッ!!」


 するとこんな声が聴こえたんです。


 幻聴だったのかもしれません。私の想像上の声だったのかもしれません。

 けど、それでも充分だった。それだけで私はとても勇気づけられたんです。


 だから私は最後に、微笑みました。

 

「今までずっとありがとう、美空。貴女のお陰で私、ここまで頑張れたよ? だから、その私の為にも、行って? 貴女の幸せを……ずっと願ってる、から――」

「ソアラーーーーーーッッッ!!!」


 その微笑みが美空に届いたかどうかはわかりません。

 でもきっと気持ちは伝わったと思います。


 だって私達は二人で一人だから。


 それで私は闇に沈みました。でも怖くは無かったです。

 美空がくれた勇気が最後の最後までずっと、私の心を温かく照らしてくれてたから。


 その心に輝かしい追憶を巡らせてくれたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る