5-3 そもそも動物だからって扱い雑すぎません?

 では引き続き、神獣さん達に語って頂きましょう。

 といっても、気付けばいつの間にか頭数が激減しておりますが。


 残っているのは大鷲さんと狼さんとクジラさんだけですね。

 みんな口をもごもごさせていて、共通の癖を持っているのはとても微笑ましく思います。


 床が毛と血まみれなのはいささか気になる所ですけども。


「では我が行こう。我のみの苦悩ではあるが、わかってもらえれば幸いである」


 はい、大鷲さんよろしくお願い致します。


「奴はカッコイイ、綺麗にしたいと言って、我が羽根をなんと洗剤で洗うのである。しかしこれは殺鳥行為と言えよう?」


 あ、それは確かにNGですね。

 鳥は羽根に脂分を仕込み、形を整えるのと同時に体温減少も防ぐと言います。

 その脂分を否応なく洗剤で落とすなど万死に値しますね。

 これは一般的な動物の話ですが。


 しかしそれは神獣の大鷲さんにも共通して言える事なのでしょう。

 なんせ鳥神みたいなものですからね。


「左様。これは動物好きなら常識とも言える知識である。だが奴はそれさえ持ち合わせておらぬ。好きと言いながら知識はサッパリなのである。転生前にも学ばなかったのであろう」


 ありゃーそれはアウトですね。

 好みと行動が伴っていません。


 そう聞くと途端に滑稽と見えてきます。

 その転生者さん、本当に動物好きなのでしょうか。


「恐らくは黒。ただ生前に叶わなかった欲求を満たしたいが為、選択を誇大に宣っただけに過ぎぬのであろう。でなければネズミネコイッヌの嫌う理由がわからぬゆえ」


 創世神側も少し怪しいですね。

 モフモフ世界を無理に構築しようとしたのかもしれません。

 モフモフブーム、最近顕著ですから。


 しかし、こう落ち着いて語られるとすんなり頭に入ってきますね。

 感情剥き出しも良いですが、やっぱり冷静に話した方が当番組としてはありがたいです。


 おや……?

 また目を離した隙に大鷲さんの姿がどこかに。飛行テストでしょうか。

 あれクジラさん、鼻元に羽根で『犯人は……』ってメッセージ描かれてますけど。


 何故、口をモゴモゴさせてるのですか?


「ボエー」


 そうですか、ボエーですか。

 なら仕方ないですね。


「クジラの奴しゃべれないんで、最後に私いいですか?」


 あ、はい。もちろんです。

 狼さん、どうぞよろしくお願い致します。


「フェンリルさん差し置いて、雑魚の自分が狼って呼ばれるのも複雑ですが。でも今回は訳ありで、ちょっと譲ってもらいました」


 おーさすがフェンリルさん、お仲間に対してはお優しい。

 貫禄を感じますね。


 という事は狼さんはフェンリルなどではないと?


「えぇ、むしろ銘も無き獣です。なのでよくこう言われるんです。【魔物】と」


 あ……なんか読めた気がします。


「この話題、あの世界だけに留まらないんですけどね。私ら、結構マト扱いされるんですよ。かの転生者しかり、冒険譚の勇者達しかり」


 そうですね、狼の魔物っていうと鉄板ですから。

 大概出会ったら即バトル、主人公達の良い経験値になりますね。


「そう、それなんです。彼等ね、自分の為ならほんと容赦無いんですよ。出会って一秒でバトルモードなんです。たたかうコマンドが見えるくらいに。確かに私は魔物って銘打たれてますけど。でも敵意とか関係無くいきなり剣で斬り付けられたりするんですよ? 狙われるこっちは堪ったもんじゃない」


 魔物って呼んでおけば大抵敵ですもんね。


 ただ、結構な確率で敵意は剥き出しにしている気がするのですが。


「誤解ですよーそれ。だって普通、抵抗されるのわかってて戦いに行きます? 違いますよ、腹減らして助けを求めに行ってるんです。ほんと何とかしてって。でもね、お腹が鳴るんですよ『グルルル』って。彼等って美味しそうな匂いの食べ物持ってますから我慢出来なくて」


 それはとても紛らわしい……!


 確かに、それで誤解しちゃう人多いかもしれませんね。

 魔物と喋れる人間ほとんどいませんし。


 それで出合い頭に『グルル』されたら警戒しちゃいますもん。

 まさかそれが腹の音だったと思いも寄らず。


「大体、【魔物】って名前も酷いですよね。物扱いですもん。動物っていうのも同じで。一時はそれを憂いた神から【魔獣】だったり固有名詞を与えられてたりしてたんですが、最近ではもうすっかり【魔物】、【怪物モンスター】で定着しています。こっちの都合なんて一切お構いなしですよ」

 

 う、それに関してはワタクシも何も言えません……知らず内に許容しておりました。

 恐らく神々も同様でしょう。

 気にする方もあまりおられないと思いますが。


 ですが憂いてくれた神々には頭が上がりません。

 きっと差別意識に優れた方々なのでしょうね。

 只の獣と違って、皆さんこうして意思ありますし。


「ちなみにかの世界でも転生者は私にこう言っています。『あっ、魔物だ!!』って、それも出会い頭に。いやまず考えてみて? 神獣界に魔物ってお前。いるのは神獣だけだよって」


 あ~、一方的な決めつけがそちらでも発生してるんですね。

 確かに、神獣界は神域ですから魔物なんて登場しません。

 訳ありならまだしも。


 狼さんも久しぶりの平穏だったでしょうに。

 敵役から解放されて神獣扱いに、でも転生者にまた魔物扱いされると。

 しかも瞬殺って。これは酷い。


「ようやくかませ狼役じゃない役目与えられたと思ったんですけどねー。ぬくぬくする暇さえ与えられませんでした。あ、気付いてます? 私、この番組第一話に登場した方を転移直後に襲おうとした狼なんですよ。これ、あの後の話です」


 あー! あーっ!!

 あの草原に現れた狼さん!! チョロインに射貫かれたあの!!


 まさか本番組登場二回目の方がここにいらっしゃるとは。間接的にですけど。


「あれも酷いもんでしたね。有無を言わさず絶命ですから。寿命三分くらいです」


 なんかそれだけの為に生み出されたみたいな事をポロリと。(笑)

 まぁ確かに、あの世界も相当に行き当たりばったり感ありましたけれど!


 聞いてみると意外と酷ですね、パートナー獣側の意見って。

 仲良くしてると思ったら意外にも険悪なのかもしれません。


 では場にクジラさんしかいなくなったので、そろそろこの辺りで最後のVTRをお見せ致します。

 これもまた神獣さん達の要望通りですので、更なるカオスが待っている事でしょう。


 それではどうぞ。


『この世界に転生して一年が経ったけど、そろそろゲームが恋しいなぁ。この世界ホントなんにも無いし。あ、はいはいナデナデ~。ほら、どっか行った行った。……やれる事と言ったら皆と追いかけっことかそんなのばっかりだもんなぁ。自分で造ろうかなぁ』


『え? 抜け毛の時期? 仕方ないなぁ。スキル、自動グルーミング~! ゲーム作りも上手く行かないし、正直ハズレだったなぁこの世界。それより可愛いヒロインが一杯いる世界に行きたかった』


『皆の力で別の世界に行けそう! ありがとう皆、絶対に忘れないからね!! ばいばーい!!』


 うわぁ、これだけ振り回しておいて最後は別の世界に行くんですか。


 この人、多分忘れますよね。

 後半明らかにダレてましたもん。めっちゃ飽きっぽそう。


 やはり転生者は無理矢理決めるものではありませんね。

 ちゃんと何かをさせるにも、相応の知識と知恵、性格的な適正も必要なのだと思います。

 無知だとしても、意欲を持った方にお願いしたいですよね。

 魔王退治に向かわせたらうっかり世界を滅ぼしちゃった、とか困りますから。


 ――え?

 おや、差し入れですか? 放送中なのに。


 何かのステーキのようですね。

 このような企画は無かったはずですが……食べてよいそうなので頂きましょう。


 あ、コレ美味しい。

 気付いたら皆さんいなくなってたので、食べてもらえなくて残念です。


 これ、お魚のステーキですよね。

 でも獣肉みたいなジューシーさもあって。

 弾力と、脂が乗ってて食べ応えありますね。

 繊維が生き生きしてます。そんな鮮度さえ感じますよ。


 これ、一体何のお肉です?


 え? 知らない? おかしいですね。

 誰かー知っている方、おられませんか~?


 おーい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る