11 炎の国・ヴォルカポネ

「私たちは現在、すでに炎の国の領域上空を飛行していて、明日の早朝にも炎の国の帝都に到着するわ。帝都内ではいつも通り、冒険者協会班と情報収集班、そして物資調達班の三班編成で行動するつもりよ。帝都付近での停泊日数は、情報収集班次第でもあるけど、だいたい五日程度を予定しているから……みんな計画的に行動してね」


 操縦室に全員が集まったことを確認すると、アニーは皆に向けて手短にそう告げた。

 最後に何か釘を刺されたようで、数人がパッと目を背ける姿が見える。そのうちの一人、サリーが「新しいお化粧品の買い物をしたかったのに……!」と小さく悲鳴を上げたのが聞こえた。


 アニーは三班編成で行動すると言っていたが、私はどこに含まれるのだろうと考える。

 と、タイミングの良いことに、こちらに向かって手を振るアニーの姿が見えた。そこには、私以外にもロイドがいた。

 

 私はアニーやヘインズたち、そしてロイドと共に冒険者協会に行き、冒険者登録をするらしい。そこでは自分の魔法判定と、適性の強さを視覚的に測れるという。


「ニコラの適性はもうほぼ光魔法だとは思うけど、その強さを測るのは今後の役に立つと思うわ。自分の立ち位置を知ることもそうだけど、能力の上限を知ることで、いざというときにどれだけ無茶ができるか指標にもなるしね」


 『どれくらい無茶ができるか』といったところに、何だか体育会系的なものを感じるものの、アニーたちが色々考えてくれてくれることは正直ありがたかった。


(私は『冒険者協会』のことも、ましてや、これから行く、『炎の国・ヴォルカポネ』のことも、まだよく知らないからね……)


 考古学を専門とするベンから、炎の国が世界最大級の活火山である、ヴァルティナ山脈を有していること。炎の国に住む人々は、その暖かい気候のせいか非常に好戦的で、実力主義の国であること。そして、他の国の乙女たちが、ある種、選ばれて決定されるのに対し、炎の国の乙女は国の全女子からバトルロワイアルにて決定されるということは教えてもらった。


 また、世界には国に所属せずに世界を旅する『冒険者』と呼ばれる人々がいて、彼らの身分を保証してくれるのが『冒険者協会』なのらしい。

 そして、その冒険者協会の本部が、炎の国にあるのだという。本部では、冒険者登録だけでなく、様々なサポートが提供されているとのことだった。

 

 明日以降の説明も程々に、明日は早いからと自分の部屋へ戻る。

 冒険者協会には、私たち以外にもたくさんの冒険者が訪れているのだろう。

 光魔法、ひいては魔法自体や冒険者という未知の人たちについて知ることができるという期待に胸を躍らせながら、炎の国の帝都に到着する前夜、私は眠りについた。


 ⚓︎ ⚓︎ ⚓︎


 「ここが炎の国・ヴォルカポネの、帝都……!」


 生まれてから水の国から出たことのなかった私は、炎の国の帝都の城門を見上げて思わずそう声を漏らした。

 炎の国・ヴォルカポネの帝都は高くそびえたつ城壁に囲まれていて、唯一の出入り口である城門には早朝にもかかわらず多くの人が列をなしている。

 アニーや私を含めた七人は、列の最後尾に並び順番を待っていた。列に並びながら、私の額にはすでに汗がにじみ始めていた。


 炎の国の気候は、かつて住んでいた水の国と全く違っていた。

 水の国の気候は年間を通して比較的安定していて、湿度は感じるものの気温も涼しく快適だった。しかし、炎の国は水の国よりも暑く、空気も少し乾燥しているように感じる。

 流れた汗が服に滲み、服を持って扇げば、使い古した服特有のムワっとした匂いが鼻につく。


 ノアラークに乗ってからも、私は村を出たときに持ってきていた服で過ごしていた。

 それらは少しくたびれた長袖の服だったが、程々に貧しかった村ではごく一般的だったために特段気にもしていなかったが、どうやらサリーの心境は穏やかではなかったらしい。


 船内にあった、過去に色々なところから頂いたという服を片っ端から見繕ってくれたが悉くサイズが合わず、サリーは「炎の国でニコラの服を用意する!」と、私たちと共に行動していた。


 なお、サリーはノアラークでの料理関係を全て担っていることもあり、本当は物資調達班だったらしい。

 何食わぬ顔でここまで共に行動していたサリーが、必要物資などの最終確認のために遅れて入国する他のメンバーを置いて勝手についてきたのだと知ったのは、ほんのつい先ほどのことだ。サリーがいないことに気付いて混乱する残されたメンバーのことを考えると、眩暈がするようだった。


 アニーにお小言を言われるのも当然だ。怒られるサリーの姿を見たりしているうちに、列はどんどん進んで行く。

 そしてあっという間に、次が私たちの順番となった。


 最初は遠くて良く見えなかったのだけど、城門では外から入ってくる人たちの検問が行われていた。検閲を受ける人たちと会話する衛兵たちの横に、大人が抱えるほどの大きな丸い玉の装置が見える。

 

 どうも、その丸い玉の装置に手をかざし、問題なければ、身分証を提示して入っていくという流れになっているようだった。人々が丸い玉に手をかざすと、それは瞬時に緑色に染まっていく。その様子を興味深く観察していると、アニーが小声で言った。


「多分、引っかかるけど慌てないでね。大丈夫だから。」


(引っかかる? え?)


 と思っているうちに、自分たちの番となって衛兵に呼ばれる。

 そしてその言葉の通り、アニーが手を丸い玉のようなものにかざすと、それは瞬時に黄色を示す。その瞬間、その場に「ビー!! ビー!!」という警戒音が響き渡った。


 私たちは警戒音に集まってきた衛兵たちに取り囲まれ、別室へと案内された。

 七人が通されたのは城門に備え作られた豪華な部屋だった。その部屋は床に絨毯が敷かれ、布張りの椅子や立派なテーブルが置かれている。


 見たこともないような調度品を目にして、言葉を失い立ちすくむ。

 高そうな調度品に青褪める私の横で、部屋を見たアニーが心底嫌そうな顔をして「だから私はもう家を捨てたんだって言っているのに……」と呟いているのが聞こえた。


 その豪華な部屋で少し待っていると、何やら書類を持った位の高そうな衛兵が、他の衛兵を二人伴って部屋に入ってきた。衛兵は書類の内容を改めて確認し、アニーの方に歩み寄って告げる。


「お急ぎのところ申し訳ない。あの黄色の警戒色は、公的機関等からの重要なメッセージを預かっている方に響くものなのです。冒険者協会から、宛に召喚状が出ておりまして……、冒険者協会まで同行させてもらえますでしょうか?」


 衛兵の言葉を聞いて、ヘインズやエリックたちが顔に手を当ててアニーと、事情を伝えた衛兵から視線を逸らした。

 アニーはこれまた不愉快そうな表情で「あの、クソジジイ……」と小さく呟いた。

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