13 二十万人記念配信をするぞ(後)

「じゃあ次は特別企画に行くぞ!」


『わくわく』『キター!!』『なんだろう?』『ファッションショーこい!』『前回はこの流れから市子さんが来たんだっけ?』『期待』『市子二号くるー?』


 そうなんだよね。

 前回の特別企画では市子さんを紹介した記憶がある。

 確か一万人記念配信の時だっただろうか?

 もうずいぶん前のことのように感じる。

 

 ……今回やろうとしていることを考えると俺ってそんなに進歩してないんだなーと思わなくもないけど。

 まあ人間そう簡単には変わらないからね。

 仕方ないね。

 

「というわけで、まずはこれを見てほしい。じゃん!」


『じゃん!』『じゃんじゃん!』『何だ?』『何これ?』『市子www』『市子だろこれ』『もう片方誰だ?』


 そう言って俺が表示したのは、二つのチャンネルのスクリーンショットだ。

 それぞれ、黒地にハテナマークで隠された謎のシルエットが映し出されている。

 

 まあ片方は明らかに日本人形のシルエットだからね。

 バレバレなわけだけど。

 

「実は今回お父さんに頼んで新しくチャンネルを二つ作ってもらいました。それぞれ新しい配信者に運用してもらうことになります。名付けて、幽霊プロジェクト!」


『おお!?』『きたー!!』『なんやて工藤!』『????』『幽霊プロジェクト?』『市子さんデビュー!?』『つまりどういうことだってばよ!?』『おおおおお?』


「ええとね、つまりね、仲間を増やしたほうがいいっていうのは前にも言ったことがあると思うんだけど」


 俺はミア友に、チャンネルを増やすことのメリットを伝えた。

 

 視聴者による認識の恩恵は仲間が多ければ多いほど効率よく得られること。

 チャンネルを開設すれば、それぞれが別のファン層を集められること。

 そうして集団として多くの人に認識してもらうことができればより強くなれることなど。

 

 とはいえ、下手な霊を仲間にして強くなった後に裏切られてしまえば意味がない。

 なので、自然チャンネルを任せるのは信用できる身内になるわけだが。


「まあ本当は市子さんのチャンネルを開く予定はなかったんだけど、もう一人のチャンネルを作ることになった時に、自分もやるって駄々こねちゃって……」


 それでプロジェクトにしちゃったんだけどね。

 

『草』『市子ww』『駄々こねたのかw』『日本人形チャンネルの誕生である』『どうやって配信すんのwww』『もう一人?』『もう一人って誰だ?』『口だけさん?』


 チラリと口だけさんを見る。

 相変わらず部屋の隅に立ち尽くしているが、気のせいかこちらに注意を向けている気がする。

 

「ちなみに口だけさんには打診してない。万が一やるって言われても……その……困るし」


『草』『草』『それはそう』『ちょっと見てみたい』『どんなチャンネルになるのか興味はあるなw』


 口だけさんの場合、下手に強化されても困るし、人前に出すと何をやるか予想もつかなくて怖いからね。

 最悪、若菜さんが危惧していたような配信事故が起こらないとも限らない。

 最初から誘わないのが正解だろう。


 ……だから、そんな目で見てもダメだぞ。

 いや、本当にこっちを見ているのかどうかわからないんだけど。


「そんなわけで、もう一人は私が新しく創造能力で作った霊になります。今回は市子さんの時と違って本当に一から創ったので、ある意味娘といってもいいのかも」


『おお!?』『マジ!?』『娘!?』『創ったのか!』『創造能力ぱねえ』『可愛いのか!?』『子持ちミアちゃん!?』


 ふふふ、実はここ数日、暇があれば新しい子の調整をしていたからね。

 すっっっごく苦労したのだ。


 正直、市子さんは当初の予定になかったので、プロジェクトの本命はこっちだ。

 子持ちとか言われると心外だけど、俺が創った存在には違いない。

 

「じゃあ、早速登場してもらいましょう! カモン、ドゥ子!」


 大袈裟に手を振り、登場を促す。


「初めましてミア友の皆様。わたくしお母様の娘でドゥ子と申しますわ」


 そう言って、カメラの前にヒョコっと顔を出したのは、栗色の長い髪をなびかせた、瞳の大きな美少女……ではなく、それを究極的にデフォルメしたような半透明の謎の生き物だった。


 正真正銘、俺が一から創った人口霊、その名もドゥ子だ。

 

『ふぁっ!?』『なにこれ?』『可愛いw』『お、おう』『お母様!?』『お母様は草』『名前草』『ミアちゃん?』『落書きかよww』『謎の生物でわろた』『俺もミアちゃんのことお母様って呼びたい』


 パッと見は三十センチほどの大きさの二頭身の女の子に見える。

 しかし、特徴的なのはその造形だ。

 まるで、下手くそなラクガキを立体化したような姿をしている。


 大きな頭と瞳、バランスの悪い胴体。

 まるで、子どもが描いた女の子というか……それをもっと圧縮して二頭身にした感じというか……。

 

 ……うん、だって人間なんて上手に創れないし。

 

 元々は視聴者人気を考えて美少女を創るつもりだったのだ。

 それこそ、アニメに出てくるような可憐なヒロインを目指すつもりだったのだが。


 しかし、作り始めてすぐに、俺の美術センスでは無理だと気付いた。

 

 なんというか、二次元の女の子を上手く立体に起こせないのだ。

 平面ならできないこともないが、立体となるとそれだけで俺の能力を超えてしまう。

 

 仕方なく俺でも創れるような簡単なものを、それでいて可愛いものを求めたわけだが……。

 

 そこで参考にしたのがネンドロイドだった。

 ネンドロイドとはデフォルメした二頭身のフィギュアである。

 これなら最低限の可愛さを保ちつつ、俺でも何とか形にできると思ったわけなのだが……。


「ふふふ、皆様、わたくしの美しさに驚いていらっしゃいますわね」

 

 甘かった。

 自分のセンスの無さに脱帽する。


 ドゥ子が笑う。

 元々の表情の基本が笑顔であるためか、表情筋が一ミリも動いていないのが逆に怖い。

 

 なんというか、不自然に頭と目が大きいせいで間抜けに見えるというか、逆に不気味というか……。

 デフォルメされているからこそシンプルにデッサンが狂っているなと思える。


 どうしてこうなった。

 ちなみにドゥはフランス語で2を意味する。

 特別企画で誕生する2人目であったことと、市子さんがたまたま名前に1が入っていたため、少し捻った2を採用したわけだが。

 

『なんやこの生物ぅ!』『わろた』『味がある』『なんかクセになりそう』『美しさwww』『なんでお嬢様言葉なんだよww』『ツッコミどころが多すぎるwww』『ちょっと可愛いやんけ』


 ミア友の反応はこれどうなんだろう?

 好意的なんだろうか?

 取り敢えず、不評ではなそうなので安堵する。


 ギリギリギリと音がしたので、そちらを見る。

 どうやら市子さんが器用に歯軋りしているようだ。

 自分を差し置いて注目を集めているドゥ子が面白くない様子。

 

 いやいやいや、そんなことで争わなくていいからね?

 

 困ったことに、この二人は地味に仲が悪い。

 俺としてはそういった意図はなかったのだが、ドゥ子が生まれた当初からそうだった。

 どうも数字に連なる名前をつけてしまったことで、どちらも俺の娘として対抗意識が芽生えてしまったようなのだ。

 

 いや、市子さんは俺の娘じゃないけどね?

 力は分け与えたけど、最初から魂があったのだから俺が生み出したわけではないのだ。

 なので、そんな対抗する必要はないと思うのだが……。


「ふふ、不躾な視線をぶつけるのはやめていただきたいですわね」

『っ! 小娘!』


 ドゥ子が市子さんのほうを見て鼻で笑う。

 それを受けて、更にイキリ立つ市子さん。


 こらこらこら、せっかくのお披露目なんだから喧嘩しないの!

 

 そのうち取っ組み合いの喧嘩を始めそうでハラハラする。


 まあ、実はドゥ子に戦闘能力はほぼないんだけどね。

 戦えば余裕で市子さんが勝つだろう。


 戦闘力特化のマヨナイトとは逆で、配信と補助特化のドゥ子は人間らしさを追求した結果、他の部分を諦めざるを得なかったのだ。

 

 創造能力の仕様上、求めれば求めるほど消費ポイントが跳ね上がる。

 マヨナイトがマニュアルで発動する兵器だとしたら、ドゥ子は最新の人工知能だ。

 知識自体は俺のものをベースにして形成しており、ほぼ人間と変わらない知能を有しているはずである。

 

 しかし、さすがに一から擬似生命を創るのは無理があったのか、人格を形成した時点で既に消費ポイントが十万を超えてしまった。

 おかげで、創造段階ではドゥ子に役割として期待していた怨霊の人質対策は施せず、最低限俺への叛逆防止機能だけしか組み込めなかった。


 ……最初はどうなることかと思ったが。

 

 まあ、そこは何故か創り終わった後にポイントを分け与えることで怨霊対策用の能力を覚えることはできたわけだけど。

 創造能力として創る分には莫大なポイントが必要でも、創った後に強化するのはそれほどでもないということだろうか?

 何だか、裏技みたいで怖いが、まあその辺は今後要検証かな。

 

 怨霊対策自体は笹塚さんにもお願いしてあるんだけど、いつも組合に頼れるとは限らないからね。

 将来のことを考えると、こちらでも対処できるようになっておくに越したことはないだろう。


 そんなわけで、ドゥ子が無事覚えてくれて助かった。

 女子校の怨霊相手に使うかどうかはわからないが、こういうのは手札があるというのが大事だ。


 今後ドゥ子には配信でポイントを稼ぎつつ、補助能力を高めていってもらいたい。

 

「そんなわけで、市子さんとドゥ子のチャンネルを開設します! みんな応援してあげてね。できれば登録もよろしく」


 そして、画面に二人のチャンネルとURLを表示して誘導する。


『はーい』『応援する!』『チャンネル登録したわ』『登録した!』『どんな配信するんだこいつらw』『ちょっと楽しみ』


 二人がどんな配信をするのかは正直俺にもよくわからない。

 表情を変えずにカメラの前に立つ二人に視線を向ける。


 だ、大丈夫かな?

 今更ながら少し不安になってきた。


「えっと、ドゥ子は霊体だからカメラ師匠を通してしか配信できないんだ。だから私が配信する夜は避けて、基本二人は昼間配信することになると思うからよろしくね。早速明日からやるみたいだから、時間が合う人は是非見てあげて」

「市子お姉様共々よろしくお願いいたしますわ」

『私だけよろしく』


 ドゥ子が頭を下げ、市子さんが空中に髪で文字を書く。


『草』『草』『市子さんwww』『さすがだわ』『お姉様ww』『お姉様草』『市子さんェ……』

 

「お姉様、それは淑女としてどうかと思いましてよ?」

『うるせえ、勝てばいいんだ。それが全てだ』


 お、大人げない。


 ドゥ子は何故か市子さんのことをお姉様と呼ぶ。

 特別企画の先輩という意味だとは思うが、なんだか市子さんが俺の子という既成事実が積み重なっているような……?

 

 というか、ドゥ子は俺の知識を転写してあるはずなのに何故かお嬢様言葉なんだよな。

 自分のコピーを創る趣味はないのでエピソード記憶は与えていないのだが、それでもそんな意味不明な人格は芽生えないと思うのだが。


 聞くと「キャラ付けですわ」という答えが返ってきたので取り敢えずそういうことにしているが……。


『お母さんの娘は私だから』

「嫉妬は見苦しいですわよお姉様。お母様の実の娘はわたくしですわ。お姉様はおまけ」

『むきー! 誰がおまけだ!?』


 目を離すとすぐに言い争う二人。

 え、ええと、わかったから、ミア友の前で喧嘩するのはやめような?


 ポルターガイストで強制的に二人を引き離しつつ、ため息をつく。

 何にせよ、二人のチャンネルも伸びてくれればいいのだが。


「以上、幽霊プロジェクト始動のお知らせでした! じゃあ、これから歌を歌っていくぞ! 音源はとまるんがプレゼントしてくれました、ありがとうとまるん!」


『88888』『草』『喧嘩してて草』『市子とドゥ子に期待』『お歌!』『お歌待ってた!』『とまるんいつもありがとう』『とまるんには感謝しかない』『今日は何歌うの?』


 そんなこんなで、楽しく歌を歌っていく。

 登録者数を見るといつの間にか二十六万人を超えていたので、本当に三十万人が近そうで怖いが、嬉しい悲鳴というやつだろう。

 

 ノリで幽霊プロジェクトを始めちゃったけど、上手くいくのかな?

 

 

 ◯

 

 

【幽霊プロジェクト】幽霊配信者ミアちゃん応援スレpart21【お母様】


57 視聴者の名無しさん ID:

ドゥ子ドゥ子ドゥ子可愛いよドゥ子ドゥ子ぉおおぉおお!!!!


58 視聴者の名無しさん ID:

熱心なファンが生まれてて草


59 視聴者の名無しさん ID:

かわいく……見えないこともないのか?


60 視聴者の名無しさん ID:

何が可愛いってミアちゃんが頑張って一生懸命作ってアレだってこと


61 視聴者の名無しさん ID:

本当に芸術センスないなw


62 視聴者の名無しさん ID:

そもそも幽霊プロジェクトって何?

よくわかんなかったんだけど


63 視聴者の名無しさん ID:

幽霊が集まって配信するって感じじゃね?

ただそこらの霊を雇うのはリスクあるから自分で創るという


64 視聴者の名無しさん ID:

自作できるのヤバすぎるだろw


65 視聴者の名無しさん ID:

この調子で増えるとマジでそのうち世界取れそうやなw


66 視聴者の名無しさん ID:

マヨナイトの時はヌイグルミみたいなもんだったけど今回はガチで人格あるからなあ

ちょっと怖いわ


67 視聴者の名無しさん ID:

いうてAIみたいなもんって言ってたやん

人間のやってることと変わらんのでは?


68 視聴者の名無しさん ID:

ドゥ子ってオシッコするの?


69 視聴者の名無しさん ID:

通報しました


70 視聴者の名無しさん ID:

純粋な疑問なのに……


71 視聴者の名無しさん ID:

ミアちゃんに聞いてこい


72 視聴者の名無しさん ID:

セクハラやめろって言われただろ!


73 視聴者の名無しさん ID:

ドゥ子も配信始めるならドゥ子に聞けばいいのでは?

霊体なんだから普通にしないとは思うがw


74 視聴者の名無しさん ID:

ドゥ子と市子さんでミアちゃん取り合いしてて草


75 視聴者の名無しさん ID:

市子さんが対抗意識燃やしまくってて草


76 視聴者の名無しさん ID:

お母様やぞ


77 視聴者の名無しさん ID:

市子VSドゥ子VSダークライ

ファイッ!!!


78 視聴者の名無しさん ID:


79 視聴者の名無しさん ID:

>>77

絵面を想像したらわろた


80 視聴者の名無しさん ID:

ダークライ困惑してそうw


81 視聴者の名無しさん ID:

ダークライ「なにこの謎の生き物達」


82 視聴者の名無しさん ID:

ポコモンだって謎の生き物だろ!


83 視聴者の名無しさん ID:

市子さんとドゥ子の配信が楽しみだわ


84 視聴者の名無しさん ID:

早速明日からなんだよな

どんな配信するのか興味はある


85 視聴者の名無しさん ID:

個人的には口だけさんにもチャンネル作って欲しかったw


86 視聴者の名無しさん ID:

幽霊プロジェクトってさ

下手したらパイの奪い合いになってミアちゃんのファン減る可能性ない?


87 視聴者の名無しさん ID:

市子さんとドゥ子にファンが取られるのか……?


88 視聴者の名無しさん ID:

ドゥ子の可愛さならあり得るな

ミアちゃん気をつけないと危ないぞ


89 視聴者の名無しさん ID:

市子さんだって可愛いだろ!


90 視聴者の名無しさん ID:

まあどんな美少女の幽霊が登場しても俺はミアちゃん一筋だけどな


91 視聴者の名無しさん ID:

いっそ幽霊に限らずまよまよとかとまるんみたいな仲良い個人勢を取り込んで会社作ればいいのに


92 視聴者の名無しさん ID:

配信者の会社か

ありだな


93 視聴者の名無しさん ID:

有名になればなるほど霊能者とかも手を出しづらくなるしね

有りよりの有り


94 視聴者の名無しさん ID:

いうて簡単じゃないだろ

会社自体は親父が社長になれば作れるだろうが


95 視聴者の名無しさん ID:

気楽に見られなくなるのは嫌だなあ

会社になると利益関係は避けられなくなりそうだし


96 視聴者の名無しさん ID:

俺も今の空気が落ち着いてて好きかな


97 視聴者の名無しさん ID:

まあ俺らがどうこう言ったところで意味なんてないんだけどな


98 視聴者の名無しさん ID:

便所の落書きだもんな


99 視聴者の名無しさん ID:

なんにせよ市子さんとドゥ子のお手並み拝見

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