7 色々考えるぞ
※前回のあらすじ
冬休みが明け高校に通う真夜さん。そんな中、クラスメイトである高田さんがコックリさんをしたことで悪霊に取り憑かれてしまっていることに気付く。
それを知った真夜さんはマヨナイトで悪霊を攻撃。しかし、逆に相手に校舎の形をした異界に閉じ込められてしまう。
何とか通話アプリでミアに助けを求めるも、到着までの間逃げ回る羽目に。そんなこんなで一時的に窮地に陥るも、ギリギリのところでミアが救援に駆けつけ無事悪霊を退治、元の世界に戻ることに成功する。
一方、先に真夜さんを帰したミアは、悪霊とは別に存在した異界の創り主である怨霊と対面する。かなりの強敵ではあるが倒すこと自体は出来そうだと判断するが、怨霊に一瞬だけ女子校の生徒との繋がりを見せられ、人質を取られたことで手が出せなくなる。
お前ふざけんなぶっ飛ばすぞと思うものの、古くから校舎に潜んでいると思われる怨霊相手なだけに、下手に手を出して生徒に害が及ぶのは避けたい。
相手にも交戦する意思はないようで、仕方なく生徒に手を出さないように釘だけ刺してその場は終了となる。
そんなわけで、何とかして人質と怨霊の繋がりを切る方法を見つけようとするミアなのであった。
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気付くと、口だけさんが元のサイズに戻っていた。
いつも通り配信を終わらせて、振り返った直後のことだった。
確か配信を始める前までは市子さんサイズだったはず。
「お、お前、急じゃん……」
声を掛けるが、相変わらず部屋の隅に立ち尽くしたまま反応がない。
試しに気配察知で探ってみる。
一緒にいることが多いせいか、口だけさんの気配はかなり読みにくい。
臭いが強い場所にずっといると鼻が慣れてしまうように、霊の気配にも馴染みすぎてしまうのだろうか?
おかげで正確な強さがわからないが、それでもかなり力を取り戻してきていることはわかる。
心当たりはある。
一つには俺が毎日コツコツとポイントを分けていたこと。
さすがに力を失ったのは多分に俺のせいなので、元の姿に戻るまでは支援しようと決めていたのだ。
どの程度あげればいいかわからなかったため、毎日盆栽感覚で少しずつあげていた。
今では、ポイントの譲渡を忘れると催促をしてくるほどだ。
犬かな?
更にもう一つは、俺のチャンネルの登録者数が十九万人を超えたことだろうか。
二十万人まで後一歩である。
不本意ながら、コミケでの動画がバズってしまったのだ。
日頃から一緒に配信に映っていた口だけさんも、認知度による強化が行われているはずである。
俺のほうにも大量のポイントが手に入っているので、口だけさんも相応の強化が成されたことだろう。
そのおかげで元のサイズに戻ることができたのだと思われる。
「まあ何にせよ良かったな。これで借りは……全部返せたとはいえないかもだけど、結構大分返したからな!」
俺が言い放つと、口だけさんがスッと右腕を差し出してきた。
手のひらを上にして、今日のポイントくれのポーズだ。
「や、やらないぞ。もう元に戻ったんだから譲渡会は終了だ」
何となく不満そうな気配を感じるが、ダメなものはダメだ。
このままだと、負い目に任せて永遠に貢ぐことになってしまう。
こいつを強化し過ぎるのは怖いし、これくらいがちょうどいい塩梅だろう。
俺の拒絶をどう思ったのか。
口だけさんはそのまま部屋を出て行ってしまった。
どこ行くんだあいつ。
まあいいか。
「ふう〜……」
ため息一つ、椅子に座り込む。
実は最近発見したのだが、椅子に取り憑くと椅子に座ることができるのだ!
ふふふ。
クルクル回せるんだぞ。
霊が見えない人が見れば椅子が一人でに回っている心霊現象だろうが、俺としては久しぶりの感覚にご機嫌だ。
勢いよくクルクルと回る。
今までは座ってるフリだったからなあ。
別に疲れはしないし、浮けばどんな体勢でもとれるのだが、時々虚しくなる。
いやまあ今はそんなことはどうでもいいか。
俺は先日、高校で遭遇した悪霊を思い出す。
かなりヤバいやつだった。
あれだけ邪悪な気配を撒き散らしているということは、過去に人を殺していても不思議はない。
悪霊というより最早怨霊といったほうが近いかも知れない。
それでいて人質を取る狡猾さもあり、厄介度でいえば今まででも群を抜いている。
少なくとも長く放置していいやつじゃない。
一応釘は刺しておいたので、すぐにどうこうということはないと思いたいが、何とか倒す方法を考えないといけない。
ひとまず、マヨナイトは超強化しておいたけど……。
「やっぱり俺はまだまだだな……」
女子校の怨霊は置いておいても、気配察知をすればそれなり以上に強い霊が引っかかることはある。
さすがに今の俺以上となると数はグッと少なくなるが、それでもいないわけじゃない。
更に、異界に引きこもられると気配を察知できないことも合わせて考えれば、世界に強敵がどれほどいるのか想像もつかない。
まだまだ油断できるほど俺は強くなっていないのだ。
今回だって俺が圧倒的に強ければ、強引に人との繋がりを切ることもできたかも知れない。
とはいえ、無いものねだりをしても仕方ない。
今後も強くなる方法を模索しつつ、同時に今回の件に対処する方法を考えないといけない。
幸い、登録者数が急激に増えたおかげで、かなりポイントは潤沢になってきている。
これで何らかの対策をしたいところなのだが。
ただ、俺はもう新たな能力を身につけることはできない。
既存の能力を磨くことはできても、新能力の習得はできないのだ。
パッと思いつくのが創造能力で霊と人との繋がりを切るアイテムを創り出すことだが……。
残念ながら、特殊な能力を持つ道具を創り出すには莫大なポイントが必要になるようだ。
創れないわけではないが、今の俺でもさすがに数千万以上のポイントは捻り出せない。
元々、創造能力は燃費がかなり悪い。
霊的なものでさえコストが高いのに、現実の物質を一から創り出そうと思えば砂一粒に数十万ポイントかかるレベルだ。
闇雲に使える力ではない。
となると別アプローチを考えないといけないわけで。
そうなると思いつくのは後一つしかない。
「仲間に対策用の能力を覚えてもらう……かな?」
霊の仕様がどうなっているのか今ひとつ判然としないが、俺と同じと考えるならポイントさえ譲渡すれば希望する能力を身につけられるはずである。
候補となるのは口だけさん、カメラ師匠、市子さんか。
口だけさんは論外として、カメラ師匠も強化分はできるだけミア友の保護に回して欲しい。
そうなると消去法で市子さんということになるのだが。
チラリと市子さんを見る。
今はスミッチで熱心にマルオカートをしていた。
何でも、今度推しの配信でマルオカート大会があるらしく、そこにスナイプ参加をするつもりらしい。
推しがいるのか……。
というか推しは俺じゃないのか……。
色々思うことはあるが、本人が楽しそうなのでそっと目を逸らした。
ま、まあ、市子さんに新能力を覚えて貰うのはありだろう。
少なくとも、まだ能力上限に達しているということはないはずだ。
……ないよな?
ただ、これまで攻撃一辺倒で育ってきている市子さんなので、補助的な能力との相性は良くないかも知れない。
俺のために本人に合っていない能力を身につけさせるのも抵抗がある。
……色々加味して考えると、いっそ新しい仲間を探すのも有りか?
前から考えてはいたのだ。
今の二十万人近い人たちからの認知度を活かすためには、仲間が多いに越したことはない。
霊的な存在は認知度が高くなればなるほどその力を増す。
もし新規の幽霊を俺の配信に乗せれば、それだけで十九万人分の認知度による強化に繋がる。
そう考えると、仲間を増やさないのは勿体無いのではないだろうか?
まあ実際のところはそんなに美味い話でもない。
仮にカメラ師匠のフィルターなく俺の配信に幽霊を乗せたとしても、いきなり二十万人に認識されるわけではない。
幽霊はアーカイブに残らないから、生で見てなかった人には認知されないだろうし、仮に見られたとしても認識が薄ければ強化も薄い可能性がある。
テレビで一度街頭インタビューされただけの人がどれほど視聴者の印象に残るのかという話だ。
記憶にすら残らなければ効果は低いだろう。
現に、一度しか配信に出ていないマヨナイトなんかは、口だけさんや市子さんに比べて得られるポイントが低い傾向にある。
俺なんかは通常の認識による強化に加え、個人が俺に抱いている感情の分までプラスで貰えているため、かなりの成長に繋がっている。
チャンネルの主ということもあって、成長率でいえば群を抜いているだろう。
「それを考えると新しい仲間にはチャンネルを開設してもらったほうがいいのか?」
俺もずっと配信をしているわけじゃないから、カメラ師匠を貸し出すことはできる。
というか、なんなら俺は可視化すれば普通のカメラに映ることもできるのだ。
なので、他に一人二人増えたとしても配信環境は問題なく回るだろう。
幽霊配信者を他にも増やして、そいつが有名になってくれれば相乗効果でこちらの知名度アップも狙える。
「でもそれも難しいか」
仮にだ。
そこら辺から可愛い幽霊を連れてきて配信者にしたとする。
しかし、そいつが信用できるかどうかは別問題だ。
例えば市子さんなら付き合いもそれなりだし信頼できるが、出会ったばかりの幽霊を配信で不特定多数の目に触れさせる勇気は俺にはない。
問題を起こす可能性もさることながら、万が一俺より人気になった場合、こちらの戦力を上回ることも考えられるのだ。
そこで牙を剥かれたら危険極まりない。
少なくとも、安易に採用できる作戦ではなかった。
「マヨナイトを量産しても配信には向かないだろうしなあ」
似たようなキャラばかり作っても印象に残り難いだろう。
そもそも、マヨナイトは喋れない。
配信には向かないのだ。
「いや待てよ、じゃあ配信向けのキャラを新しく創ればいいのか?」
意外に有りかも知れない。
どのみち二十万人記念で何をやろうかと迷っていたところだ。
いっそ、そこで宣伝してチャンネルと仲間を増やすのも楽しいのではないだろうか?
「お父さんに頼めばチャンネルは作ってもらえるかな? まあダメで元々だし、やるだけやってみよう。上手くいけばファン層を増やして俺も仲間も強化できる」
結構良い気がしてきたぞ。
ポイントは潤沢だし、配信と補助に特化した仲間ならそこまで力を使わなくても創れそうだ。
まあそれについては追々考えよう。
大まかな方針が決まったので一つため息をつく。
となると次の問題はこっちか……。
視線をモニターのほうに向ける。
マウスをクリックすると、SNSが立ち上がる。
そこには、いくつかのお誘いがあった。
今までは保留にしていたけど、配信者からのコラボのお誘いや、イベントへの参加打診などが少しずつ増えている。
純粋に登録者を増やすならば、露出を増やすのが一番だろう。
それはわかっている。
コラボやイベントも、新規ファンを獲得して認知度を上げるという意味ではこれ以上なく有用なのだ。
今後は積極的に参加すべきなのかなあ。
上から順に流し読みしていく。
そこで、ふと一通のメールに視線が止まった。
差出人の名前は、義理切がおー。
……え。
思わず硬直する。
義理切がおー。
名前は聞いたことがある。
確か、狂犬とも呼ばれる噛みつき系配信者だったはずだ。
面白そうなネタがあれば首を突っ込み、暴力的な言動と粗野な態度で相手を威圧する。
歳の頃は二十前後だろうか。
ぎゃおーの愛称で呼ばれる女性は、染めた金髪に一部赤のメッシュを入れている気の強そうな美人さんだったはずだ。
恐る恐るメールを開いてみる。
するとそこには、予想外の文章が並んでいた。
『初めましてミア様、私の名前は義理切がおーと申します。ご存知かどうかはわかりませんが、配信者をやらせていただいております。
さて、この度は不躾ではありますが、私とオフコラボをしていただけないかと思い筆を取らせていただきました。
もしかしたら私の評判を聞き嫌だと思われるかも知れませんね。
ただ誓ってミア様にご迷惑をおかけすることはありません。
いきなりオフコラボということで何と図々しい女だと思われるかも知れませんが、もしミア様さえよければ受けていただけると嬉しいです。
連絡だけでもいただければ幸いです。
この度は急な話で誠に申し訳ありませんでした。
お返事をお待ちしております』
……え、ええと?
予想とのあまりの落差に思わず混乱してしまった。
これは本当に本人からのメールなんだろうか?
狂犬と呼ばれる女性とは思えない丁寧具合である。
なんなら同姓同名の別人ではないかと疑ってしまう。
発信元を見る限り本人で間違いないように思うのだが。
念のためにチャンネルを確認しにいく。
義理切がおー。
登録者数は三十二万人。
泣かされた犠牲者は数知れず、中には訴訟にまで発展しかけたこともあったという。
試しに切り抜きを再生してみると、口悪く他者を罵る姿ばかり出てくる。
そんな中、俺について触れている動画もあった。
『は? 本物の幽霊? そんなのいるわけねぇだろ? お前らバカなの?』
『は?』『は?』『バカはお前』『しね』『本物らしいぞ』『いやミアちゃんはガチ本物』『ぎゃおー俺と結婚しろ』『証拠のコミケ動画があるぞ』
『動画だぁー? トリックに決まってんだろそんなもん。お前らって本当バカなんだな。わかったわかった。じゃあ俺がそいつのバケの皮を剥いでやるよ。おい、ミアって言ったか? ペテン師が。お前が本物の幽霊だっていうなら俺とオフコラボしようぜ? できんだろ、本物の幽霊様(笑)ならよ?』
『草』『面白そう』『しね』『ミアちゃんに近付くな』『wwwww』『やったれ』『相手小学生だぞ』『呪われるぞww』
動画はその後、ぎゃおーが俺に挑戦状を叩きつけながら、「逃げたら偽物認定するだけだ」と言ったところで終わった。
コメントは終始妙な盛り上がりを見せていた。
お、おおう。
どうなんだこれは。
メール文とのあまりの違いに困惑する。
どっちが本当なんだ?
まあオフコラボ云々は向こうが一方的に言っているだけだし無視してもいいんだけど。
とはいえ、このまま放置して絡まれ続けるのも面倒くさい。
メールを見る限り、表の凶暴さは演技で裏では大人しい人という可能性もある。
少なくともお誘い自体は丁寧だったし、試しに連絡だけ取ってみようかな?
どのみち、怨霊対策にはもう少し時間がかかる。
対決までにできる限り自身を強化しておきたいという思惑もあり、逆に俺が本物だと証明できれば宣伝効果もあると考え、俺はぎゃおーさんに返事を打つことにした。
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